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6.デバフ勇者、信徒を救う

その日、修道女のテリアは同期達と一緒に散策に出掛けていた。

窮屈な修道院での生活から離れ、下町にある商店を回るためだ。

嗜好品の少ない修道院では、かなり貴重な機会。

行かざるを得ない。

ついでにバルクハルト台地に赴いて、軽いハイキングでもしようかという話にもなった。

結界の外には出てしまうが、別に危険な場所でもないので問題ない、というのが皆の見解だった。

しかし、そこで妙な男達に絡まれる。

明らかに盗賊然とした姿に一々名を聞くつもりもなく、男達は金目の物を要求した。

買ったばかりの化粧品や金を渡すなんて以ての外だ。

当然、拒否する。

そして当然、彼女達は追われる側になった。


「はぁっ……はぁっ……もう、しつこいっ……!」

「へっへっへっ! 何処に行くんだ、お嬢さん方よぉ!」


森の中をテリア達は逃げ回る。

近くの森に逃げ込めば撒けると思ったが、相手もこの付近を熟知していたらしい。

結界を抜けられないように追いかけてくるので、どうしても遠回りになってしまう。

一応結界まではあと少しなのだが、他の少女達はかなり辛そうだ。

このままでは追いつかれる。

察したテリアは殿に立って、皆に指示を出す。


「皆は結界の向こうまで走って! ここはあたしが食い止めるから!」

「テリア、駄目っ! 一人じゃ絶対に勝てないよ!」


皆の制止する声に構わず、テリアは護身用の手斧を構える。

勝ち目がないのは分かっている。

戦闘に関しては、ある程度の心得はあるが多勢に無勢だ。

だがここで逃げ続ければ、全員が捕えられる。

金目の物どころか、命すら取られかねない。

だったら、此処で相対するしかない。

盗賊達はテリアの覚悟を前に笑みを浮かべ、彼女を取り囲もうとする。


「逃がさないぜぇ! 結界の向こうに行かれたら、手の出しようがねぇからなぁ!」

「もうっ、金目の物はないって言ってるでしょ!? しつこい男は嫌われるんだから!」

「しつこくなきゃ、賊なんてやってられないぜ! 悪いが観念しな!」

「このっ……!」


どうにか時間を稼ぎたいが、彼らは嫌味も軽く受け流す。

わざとらしい会話をするつもりはないらしい。

やはり此処で戦うしかないのか。

避けられないと悟ったテリアは手斧をしっかりと握りしめる。

そして両者の間に緊迫した空気が流れ始める。

そんな時だった。


「何だ、お前らは!?」


盗賊の一人が何かに気付いたのか、背後を振り返る。

他の盗賊も含め、テリア達も視線を向ける。

そこには見覚えのない青年と少女がいた。

旅人然とした姿で、少なくとも修道院の者ではないことが分かる。

少女は注意深く辺りを見渡し、青年はテリア達を見て呟く。


「協力者、じゃなさそうだな。でも彼女達はパラミナの……」


盗賊のいざこざを目の当たりにしたにも関わらず、二人は冷静だった。

場慣れしているような雰囲気すらあるが、相手は十人以上いるのだ。

武器も青年がごく普通の剣を持っている程度。

勝てるとは思えず、テリアは二人に向かって叫んだ。


「逃げて! この人達は盗賊なの!」


もしかしたら事態を理解していないのかもしれない。

彼女は警告するが、二人が動じた様子はなかった。

どちらが追われているのかを知り、お互いに顔を見合わせる。


「奴らを追い払う。いけるか?」

「任せて」


まさかこれだけの人数相手に勝機があると言うのか。

簡単に言う青年に対して、少女も無手の状態で力強く頷く。

そんな姿を見て、盗賊達は鼻で笑う。


「へっ! 何処の誰か知らねぇが、たった二人でどうにかなると思ってるのか!? やっちまえ!」


横槍を入れられたことが気に食わなかったのだろう。

テリア達から矛先を逸らし、青年たちに向けて武器を構え始める。

身包みごと剥ぎかねない勢いだ。

ニタニタとした笑みを浮かべながら、盗賊達は一斉に飛び掛かる。

テリアは二人が倒れ伏す光景を予期して、思わず目を瞑った。

だが次の瞬間、異変が訪れる。


「な、何だ!? 身体が動かねぇ!?」

「クソっ! どうなってやがる!?」


聞こえるのは、盗賊達の慌てふためく声だけ。

テリアがゆっくりと目を開けると、そこに広がっていたのは、動きを止めた盗賊達だった。

まるで全身が停止してしまったかのように、その場から動けないらしい。

皆がどうにか身体を動かそうとしても、ピクリとも反応しない。

そこへ例の少女が、つかつかと歩み寄ってくる。

何をするのかと思いきや、あろう事か男達を片腕で放り投げていった。


「えいっ」

「なああああぁぁっ!?」

「よいしょっ」

「うわああああっっ!?」


あの細腕の何処にそんな力があるのか。

大の男達を平然と投げ飛ばしていく。

なす術もなく木々の向こうへ落ちていく盗賊達を見て、テリア達は唖然とするしかなかった。


「へへっ! 頭上がガラ空き……ぶふぉ!?」


唯一、木々の上で身を隠していた盗賊も、例外ではない。

少女に飛び掛かった瞬間に、対空ぎみの正拳突きを喰らって吹き飛ばされる。

圧倒的だ。

幼い少女は顔色一つ変えずに、盗賊全員を倒してしまった。

こんな芸当が出来る者は、先代勇者以外に見た事がない。

テリアは何度か目を擦り、目の前の光景を受け入れた。


「な、何なの、この人達……っていうか、強っ……」

「テリア! 大丈夫!?」

「あ、あたしは何ともないよ」


仲間の修道女達に駆け寄られ、動揺しながらも返答する。

一時はどうなるかと思ったが、突然現れた旅人のお蔭で、誰も傷一つなく切り抜けられた。

彼らには感謝しなくてはならない。

どう話しかけたものかと迷っていると、争いが収まったと同時に、奥の木々から壮年の男性が現れる。

二人の同行者らしい。

男性は意外そうな顔をしながら、周りの状況を把握する。


「何だ、もう終わったのか?」

「うん。暫くは追ってこないだろうし、早く抜けてしまおう」

「いやはや、まさか盗賊がうろついてるなんてな。こういうのは、やっぱり慣れねぇな」


ひょっとすると三人は家族で、男性が父親。

息子と娘の二人を連れているのかもしれない。

テリアがそう推察していると、剣を収めた青年が彼女達に近づいた。

何かを言うよりも先に、彼が口を開く。


「皆、怪我はない?」

「あっ、はいっ! 助けて頂いて、ありがとうございますっ!」

「大事ないなら良かった。俺達はパラミナに用があって、ここまで来たんだけど。君達は、修道院の人だね?」


青年はテリアより年上かつ成人ではないようだが、雰囲気は非常に落ち着いていた。

物怖じしている様子もなく、やけに大人びているようにも見える。

そして迷いのない透き通った眼が、こちらを見下ろしている。

助けてもらったせいだろうか。

少しだけ動揺しつつも、彼女は頷いた。


「そ、そうなんです! 途中であの人達に襲われて……今から帰る所なんです!」

「そうだったのか。だったら修道院まで、護衛がてら同行しようか? まだ、他の盗賊が隠れているかもしれない」

「ありがとうございます! でしたら折角なので、そこまで案内しますよ!」


他の修道女達も文句は言わない。

全面的に彼らを信用したようだ。

すると青年達は少しだけ安堵したようだった。

互いに顔を見合わせて笑みすら浮かべる。

そんなに嬉しかったのだろうか。

分からないテリアは、取りあえず彼らと共に修道院へ向かうことにした。

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