18.デバフ勇者と望まれる死
彼は今までの経緯を明かした。
ギルドマスターに化けていた魔将のこと、そして隠された陰謀があること。
今までの経験から、話した所で罪を逃れるための嘘だと切り捨てられる不安があった。
しかしフィリアは最初に驚くだけで、後は真剣に聞いていた。
見たことも聞いたこともない魔将の存在すら、疑うことなく受け入れる。
「魔将……そんな魔族がいたなんて……」
「奴らには何か大きな目的がある。その足掛かりで、俺達のパーティーを瓦解させたんだ」
「私達を倒す以上に大きなこと……ですか?」
「あぁ。勿論それは、そこの魔王も知っている筈だ」
オスカーは傍らに転がっている魔王を見る。
弱体化は相変わらずだ。
発言することは出来る筈なのだが、船の落下以降はただひたすらに黙している。
余計な情報は明かしたくない、そんな態度が見て取れる。
やはり魔将との繋がりはあるようだ。
横になっていた彼は、癒え切っていない身体で起き上がる。
「どうするの?」
「ここで、魔王は倒す。力は完全に封じたけれど、野放しにしておけば魔将と同じ脅威になる。それに元々、勇者の目的は魔王を倒すことだからな」
「……」
「エイダの手は借りない。これは俺自身でケリを付ける」
今の魔王では人族の子供にすら勝てない。
だからと言って放置する気はなかった。
するとその話を聞いたエイダが、魔王の傍に近づく。
目を逸らしたままの彼女の前に座り、一つ尋ねる。
「魔王……どうしてエイダのことを知っていたの?」
「……」
「答えてくれないの?」
「……」
「……そう」
やはり何も答えなかった。
エイダとの関係性も、何も明かさずに死を選ぶという事だ。
王という立場である以上、誇りを持って死にたいのかもしれない。
諦めたエイダが身を引いたのを見てから、オスカーは魔王に向けて一歩一歩近づき、剣を振り下ろそうとした。
だがその直後、フィリアから制止の声が入る。
「待って下さい」
「どうしたんだ、フィリア?」
「本当に、魔王を倒して良いんでしょうか?」
「え……?」
思わず聞き返すが、フィリアは真剣だった。
あくまで冷静に、持っていた杖を両手で握りしめる。
「魔王がわざわざ商業都市に攻め込んできた理由が分かりません。荒事は全て部下に任せてしまえば良かった筈。先代もそれより前の魔王も、それは同じでした」
「た、確かに……王が死ねば、魔族全体の士気に関わる……」
「そうです。私達勇者と違って、彼女は王です。今になって自分から攻め込んでくるなんて、そんな無謀はしません。まるで、死ぬために攻めてきたような……」
そこまで聞いて、まさかという予感が湧き上がってくる。
だがそれを仮定するならば、魔王たちの動きにも説明がつく。
何故、今になって人族の領土に攻めてきたのか。
何故、自らの死に何一つ抵抗を見せないのか。
「死ぬため……始めから、そのつもりだった……?」
「え……?」
「俺達を殺した後、自害する気だったのか!?」
魔王だけではない。
攻め込んでいた一万もの全ての魔族が、死ぬために戦っていた。
エイダも驚いて魔王を見つめる。
話の中心にいるというのに、相変わらず彼女は無反応を貫き通していた。
「馬鹿な……何だってそんな事を……!」
「……」
「答える気はない、か」
何も言う気はないようだが、これでハッキリとした。
明らかに何かを隠している。
最初は潔く見えた姿も、策略を抱いた佇まいにすら見えてくる。
このまま剣を振り下ろす訳にはいかない。
するとフィリアが杖を掲げて、切っ先を収めたオスカー達の前に出る。
「任せて下さい。白魔導には、読心術があります。今の魔王なら、私でも多少の理解はできる筈……!」
「チッ……始めに貴様を始末しておくべきじゃったな」
ようやく、魔王が舌打ち気味に悪態を吐く。
そんな言葉を気にすることなく、フィリアは新たな呪文を唱えた。
白色の魔法陣が形成され、魔王の全身を取り囲んでいく。
これが彼女の言う読心術だ。
熟練者であれば、心の中で必死に否定しようとも、真実を暴くだけの力がある。
嘘偽りは一切通用しない。
念じる形で両目を閉じていたフィリアは、暫くして大きく目を見開いた。
「そんな……!」
「どうだった!?」
「間違いありません! 魔王も、攻めて来た魔族達も、皆死ぬつもりだったようです! そして魔王が死ぬことこそ、計画を進める手段になる……!」
「い、一体何のために?」
「それが……自分が死ねば、私達勇者が……死ぬ、と」
「何だって!?」
予想もしていなかった情報に、流石のオスカーも驚きを隠せない。
魔王の自害はさておき、それが勇者の死に繋がるというのだ。
原理や法則、そこにある意図が一切見えない。
謎を解き明かした先に会ったのは、更なる謎だけだった。
「死ぬことで発動する……呪いの類か?」
「今の魔王に、そんな力はない筈ですが……」
今の魔王に神通力は発揮できない。
自分の死と引き換えに発動する術があったとしても、彼女にそれを発動できるだけの魔力も残っていない。
魔力のない魔族は、獣と変わらないのだ。
一体これは、どういうことなのか。
幾ら考えた所で答えは出そうにない。
「そうだ、魔将のことは!?」
「それが、彼女もよくは知らないみたいなんです。完全に別行動をしているようで……分かるのは、四魔将という言葉だけ……」
「四魔将……」
「すみません。これ以上は、私には……」
「いや、お手柄だよ。危うく相手の望み通りにさせる所だった」
消沈するフィリアに向けて、オスカーは励ます。
治癒だけでなく、魔王たちの思惑も半分は理解できた。
自分達にも理解できない何かしらの力が働いているのなら、今この場で彼女を打ち倒してはならない。
考えてみれば、過去の魔王たちの最期は奇妙なものばかりだった。
真っ当に勇者達に倒された記録は、殆ど残っていない。
先代魔王も先代勇者達を巻き込んで自爆したようだが、関係があるのだろうか。
疑問は幾らでも湧いて出てきそうだが、それより先に魔王が静かに問う。
「部下に先立たれた今、妾に生き恥を晒せというのか?」
「アンタの誇りとやらで、俺達が死んだら困るんだよ。仮にそれで計画が進むって言うなら、お前を殺さない。このまま俺達の傍で監視する」
「……後悔することになるぞ?」
「しないさ。俺は仲間の力を信じる」
魔王は忠告するが、それはフィリアの力を疑うことに他ならない。
王都での惨劇を聞き、受け入れてくれた者を否定できる筈もない。
オスカーに迷いはなかった。
「私を、仲間と言ってくれるんですか?」
「ん?」
「いえ……何でも……」
フィリアは首を振るばかりだったが、少しだけ嬉しそうな表情をした。
自分を信じてくれたことに安堵しているのだろう。
かつてパーティーの仲間として談笑していた頃を思い出す。
そんなに日は経っていないのに、懐かしくすら思えてくる。
ディアックがいない今、あの頃を取り戻すことは出来ないが、それでも互いに手を取り合い、分かり合うことは出来る筈だ。
そうオスカーが思っていると、エイダが何かに気付いたようで、耳を澄まし始める。
「エイダ?」
「何だか、騒がしいの。町の方から、嫌な感じがするわ」
オスカー達には何も聞こえないが、竜人としての勘がそれを告げる。
商業都市で、何か良からぬ事でも起きているのか。
未だ治癒中という事もあって、フィリアが率先して動き出す。
「私が行きます。まだ魔族の残党が残っていたのかも。お二人は、治癒で身体を休めて下さい」
彼女はそう言って、船内から駆け出した。
魔族の残党程度ならば、フィリア一人でどうにでもなる。
魔王も倒して封殺した。
それは魔族達も分かっているだろうし、危険視すべきものは何もない筈だ。
オスカー達は彼女の言葉に甘え、治癒の魔法陣で身体を休めるのだった。




