一番好き
ある日のことだった。
ユウはふと気づいた。
ジョンの最近のマシンを、ちゃんと見たことがない。
何度も一緒に走っている。
コースの端で走らせているのも見て
それでも。
改めて見る機会は、何故かなかった。
「ジョンって、今のマシンどんな感じですか?」
ジョンは少しだけ驚いた顔をした。
「おや、気になるでござるか」
そう言ってレーサーズボックスを開く。
中からマシンを取り出す。
ユウはそれを見て思い出した。
(……そうだ、このホライゾンだ)
純白のボディ。
何度も走らせた跡が残っている。
塗装も少し擦れていた。
でも。
ユウはすぐに違和感に気づいた。
「……?」
ユウはマシンを凝視した。
「これ……スーパー1シャーシですよね?」
ジョンは嬉しそうに笑った。
「さすが師匠でござるな」
「よく気づいたでござる」
ユウは確認するように聞いてみた。
「ホライゾンって、ゼロシャーシですよね」
ジョンは頷いた。
「もともとはそうでござる」
「しかし拙者、どうしてもスーパー1を使いたかったのでござる」
「だから加工したでござる」
ユウは楽しそうに言葉を返す。
「……ジョンらしいですね」
「削ったんですか?」
「そのままでは乗らぬでござる」
ジョンはあっさり言った。
ユウは黙ってマシンを見た。
フロントは細かく削られている。
シャーシの一部も削り込まれていた。
ローラーの位置も普通ではない。
補強も入っている。
かなり手が入っていた。
「これ……相当作り直してますよね」
ジョンは少し考えた。
「覚えておらぬでござるな」
「たぶん20回以上でござる」
ユウは思わず笑った。
「そんなに?」
ジョンはマシンを軽く撫でた。
「速くしたかったのでござる」
少し間を置いて続けた。
「それに」
「このマシンが好きなのでござる」
ユウは少し頷いた。
「ホライゾンが好きなんですね」
「一番好きでござる」
ジョンは少し誇らしげに言った。
「拙者、ダッシュ四駆郎で育ったのでござる」
「だからダッシュマシンで走り続けたい」
ジョンはマシンを持ち上げる。
「新しいマシンはいくらでもある」
「しかし拙者は、これで速くなりたいのでござる」
ユウは微笑んだ。
「職人ですね」
ジョンはしっくり来なかったようで。
「職人?」
「はい」
ユウは言った。
「同じマシンをずっと使う人って、だいたい速いんですよ」
ジョンは嬉しそうに笑った。
「それは光栄でござる」
そして少し胸を張った。
「しかし」
「師匠には1度も勝ったことがない」
ユウは苦笑した。
「それは……」
ジョンは続けた。
「しかし」
「コウスケ氏やユリ殿には、何度か勝ったでござる」
「え?」
ユウは少し驚いた顔をした。
ジョンは誇らしそうに言った。
「拙者も、長く走っているのでござるよ」
ユウはもう1度マシンを見た。
このマシンは。
ただのホライゾンではない。
何年も考え続けた。
改造し続けた。
その結晶だった。




