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第8色

第8色


「おやおや、何でそんなに泣いているのかな? 何か悲しい事でもあったのかい?」

 全く同じで、全く違う双つが声を殺して泣いていた。我慢しても、頬を流れる大粒の涙は止まらない。心の底から溢れる気持ちに、どうしても逆らえない。

 けれど、それを嫌とは思わなかった。純粋に、人並みに。普通に、自然に。当たり前に。いつの間にか、ぐしゃぐしゃだった泣き顔は、ぐしゃぐしゃの笑顔に変わっていた。

 ―――なんだ、私、いじょーなんかじゃなかったんだ。

 微かにでも、そう思えた。危うい理想を抱いてしまうくらいに。望みを、祈りを、打ち砕かれた事を忘れて。

「さてさて、少しは落ち着いたかな? 地面に着地出来たかな?」

 嫌な耳触りの音声は、イノリを現実に引き戻す。浸ってたかった妄想も、浮かび上がった偶像も突き抜けて、おはようと言ってくる。目は覚めたかい、と。

 そのおかげ、もといそのせいで、感情には再び蓋をされた。今落ちていった雫を最後に、目には乾きを感じた。惚けていた頭も冷めてきた。

「うんうん、良かった良かった。潤んだ瞳じゃ景色は歪んでしまうからね。良いも悪いも無く、認識を錯覚させるからね。目に見えるモノが全てじゃ無いけれど、目に見えないと信じたり出来ないものだ。確信できない。自信を持てない。自身を保てない。都合良く、都合悪く、好きなように解釈してしまうからね」

 だから、だろうか。

 だから、だったら良かったのか。

 元から、そうだったのか。

 イノリの鼓膜を通って、女の声が歪む。

 目を見開く。呼吸が止まる。鼓動がざわつく。背筋が凍る。視界が回る。回る。回る。マワル。

 だめだと止める脳が五月蠅い。五月蠅い。五月蠅い。ウルサイ。

 そんなはず無いだろう?

 ―――だって……。

『どうだい? キミには、何がみえテイるノカナ?』

 淀んだ空気の中、イノリは独りだった。それが今で通りと言わんばかりに。

 夏の夕暮れ、黄昏時。イノリには、もう、そう声をかける相手なんかいなかった。

 もしかしたら、今までもずっと、独りで踊っていたのかもしれない。浮かれていた。浮いていた。上も下も分からず。右も左も分からず。ここがどこかも分からず。何に生かされているか分からず。全てに見落とされ、何かを見落とした。

 ノゾミは、イノリの家族なのに。家族のはずなのに。


 ―――なんで、わたし、ヒトリなの……?

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