第7色
第7色
それほど大きくない一人用の机に、3人分の食事が並べられている。どれも即席で作れる簡単なもの。例えば、レトルトのクリームソースを絡めたパスタ。例えば、お湯を注ぐだけで出来る味噌汁。例えば、余り物の大根と鶏肉を適当に調味して煮たもの。例えば、ポン酢を掛けただけのサラダ。それなりにバランスを考えてみましたと言わんばかりの、雑な食卓。
それでも、イノリにとっては特別で、非日常な出来事だった。再三食べて良いのか優季とカナエに確認し、それでも少し躊躇いながら、憧れていた箸を不器用に動かして口へ運ぶ。次。次。次。次。その度に大きな目を輝かせ、膨らんだほっぺたに手を当て、小さな口を緩ませる。
そんなイノリと、箸の使い方や食べ物の説明をする優季を、カナエは肘をついて眺めていた。緩やかな空間。優しい世界。柔らかな風景。彼女はそれを愛しく思っていたのか、羨んでいたのか。少し眩しそうに目を細めて微笑んでいた。
「それで、一体何があったの?」
イノリが大分箸の使い方に慣れた頃合いで、カナエが話題を切り出す。ぴくり、とイノリの箸先が揺れる。掴みかけた鶏肉を諦め、ゆっくりと箸を置いてから静かに言葉を放った。
「そんなの、わからない」
短く、寂しく、哀しく。長い睫毛が下を向き、唇をきゅっと締めて。藍色がよく似合う、似合ってしまう少女を、けれどカナエは憐れんだりしない。世界が認めてくれなかった少女を、故郷に拒絶された少女は慰めなかった。
自分と同じ事を、小さな女の子に強いる事は出来ないから。そんな責任を、カナエは背負えないから。
「じゃあ、イノリは何なの? それも、わからない?」
悔しそうに口を歪めながら、泣き出しそうに首を縦に振る。
ため息。
手掛かりなんか無い、そもそも何をすれば良いのか分からない。誰も理解らない。三人では、辿り着けない。
けれど、三人ともヒントを貰っていた。忌々しい事に、何が起こっていたのかすら理解らないヒントを。
三人にα分を足す、問題文を。




