第9色
第9色
ユメを見た。それが夢なのか、幻なのかは理解らなかったけど、現実ではない事はすぐに理解った。
「おはよ!」
「おっはー。いやー今日もしんどいネ」
「え、あ……れ?」
「あら、まだなれてない感じ〜?」
「仕方無いよ、まだ一週間しか経ってないもんね」
なんの話なのか理解らない。何を言われているのか、全く理解出来ない。
はてな。
なんで、なんで、なんで。
なんで、イマサラなんだ。
「ん? どったのいのりん。そんなこわい顔して」
「……あ、今日は大丈夫!! ちゃんと先生にも相談したから!」
「……?」
もっと不思議な事を言う。もうナニもカも理解らない。はちゃめちゃで、ぐちゃぐちゃで。ユメって、こんなものだよって教えてくれるような、そんな光景。今まで見た事のない、不思議な出来事。今まで視たいと思ってた、憧れの日常。
それなのに、何で。何で。なんで?
なんでこんなに胸が痛むのだろう。
二人の、恐らく同い年であろう少女達と一緒に道を歩く。見覚えはない。けれど、迷いなく足は動く。二人に合わせて、ヒトリを隠して。
気付けば、そこは学校だった。小学校。市立の家から近い大きな道から少し外れた所にある大きな小学校。やっぱり、見覚えはない。
「だ、大丈夫だからね! 祈ちゃんに何かあっても、私達は味方だからね!」
「わたしも〜。味方というか、友達だしね〜。こんな感じでも」
「もー、そんなダルそうな感じで言わないでよ〇〇ちゃん!」
「いやー、〇〇みたいに言い切る自信無いのよ、わたしゎ」
また、よく理解らない話を二人でしている。理解らないから、輪には入れない。いや、二人だから線と言うべきなのか。それもどちらでもいい。とりあえず、仕方無いから先に靴を履き替える。
「わわ、待って待って祈ちゃん! 置いてかないでー!」
「ほら〜、〇〇の長話のせいでいのりんに置いてかれたじゃないかー」
「わたし?! えぇ、わたしなの?!」
「そうにちがいないね」
「そんなドヤ顔いらないから! あぁ、待って祈ちゃんー!」
全く。二人ともいつもそうだ。しっかり見えてあんな感じの〇〇、時々しかやる気を見せない〇〇。ほんとにもう……。
――――――もう、ナニ?
廊下を歩いて、階段を登って、足を止める。教室の、ドアの前。陳腐な掲示板には、小さな字を敷き詰めたプリントと、何かの係を記したお手製掲示物。そして、大きく歪んだ字が書かれた紙。日付が書かれた、画用紙。
画鋲に突き刺された、今日。
歪んでいて、読めない。
もっとキレイに書いてくれないと。もっとキレイでいてくれないと。
はっとして、上を見る。吊り下げられているのは、数字横棒数字。知らない。引き算じゃないのか。引き算じゃ、ない、の?
「あ」
後ろからの声。びくりと身を縮める。振り返る事すら出来なかった。
「おはよう、滝さん」
そんな言葉だけ投げられ、横を通って教室のドアを開ける。
なぜか、息が詰まる。なぜか、胸が痛い。なぜか、目が眩む。
なぜか、これから起こる事だけは理解る。いや、知っている。そう、知っている。
そうして、やっぱりユメだと確信した。憧れた夢とは真逆の、爛れた夢。いや、現実。
――――――だから、次は腕を引かれる。
「そんなとこに立ってないで、一緒に入ろう?」
――――――ほら。そして、さっきの二人が息を乱してやっと追いつく。
「あっ、祈ちゃん!!」
「やばっ、あのセンセー一生恨む」
確か、委員会の件で先生に捕まってた。だから、二人は悪くない。悪いのは、私なの。こんなヘンな格好で生まれた、私。
手を引かれて、一歩。それが境界。まるで結界。ぱちんと切り替わる様に、外から見てた教室の雑談は静まり返る。
なんて幼稚。なんて未熟。なんて、残酷。
「……えいりあん」
理解ってても、息が詰まる。小さく漏れた言葉は、黒板に書かれた大きさとは対照的だった。ちいさく、よわく、はかなく。
――――――結構自慢だったんだけどな、この髪も、この瞳も。お母さんにも、褒めてもらったのに。
思い出す。あの時の光景を。あの時の哀しみも。
――――――そのお母さんも私のせいでいなくなった。お父さんに色々言われて。お父さんがいなくなって。それからお母さんも、消えちゃった。
どこからか笑い声が聞こえる。それが広がって、広がって、広がって……。イノリの耳を囲んでいく。そうして、なにも、きこえなくなって。きこえなくて。きこえなくて。ききたくなくて。
「もう……みんないらない。もう……なにもなくていい」
――――――私なんか、いなくなればいい。
祈りを望み、願いを叶えた。
だって―――イノリとノゾミは、カナエられるのがフツウだろう?




