第5色
第5色
存在と言うものは随分と曖昧で、随分と呆気なく、随分と脆くて、そして斯様に利己的だ。
「何の話ですか?」
タイミングを間違え二人になってしまったカナエが、クラウスの言葉に反応する。不覚にも、クラウスの予定通りに。
「単純な話だよ。カナぴょんなら分かっているはずだけど、気のせいだったかな?」
クラウスはいつも通りに、いつもの笑みを表情筋に乗せる。まるで能面。もはや傀儡。世界線に操られた、空しい人形。
それから目線を外し、分かっている筈のことを思い出す。カナエは思い出す。
存在という、他者からもたらされる恩恵の話を。認知して、初めて実体を保てる哀れな話を。
優季とハルの存在定義を。
「うんうん、それそれ。なぁんだー、わかってるじゃないか! カナぴょん程察しのイイ人は中々いないもんねー」
能天気に言う。脳内は本日も晴れ模様だと言っている。天晴と言っていた。カナエにとって、霞はなおも周囲を埋めているのに。
―――それを霞だとカナエが解釈しているから。
「知っているかな? 龍っていうのは雲と一緒に姿を見せる、なんて言い伝え。雲。または霧。もしくは霞。そして嵐。どれも朧気な、胡散臭い話。大方、そんな自然の不思議に龍という存在を当てはめたんだろうね。そういうものがいると、存在すると、認めてしまったんだよ。迂闊にも、そう思ってしまったんだよ。この世のことは大抵、多数決で決まるからね。民主主義でなくとも、民衆がいる限り。あるという人が多ければ、それはきっと在るのかもしれないし、ないと言う人が多ければ、それはきっと無いのかもしれない。けれど、あると思った時点でそれはあるかもしれないものになる。そして、それらは時代によって無責任にも結論付けられるのだよ。決めつけられるのさ。ただの見間違えだと。所詮空想だと。事実とはまた別の道を。見違えた世界を。自分達のこれまでを否定して。自分達のこれからに夢想して。架空に揺蕩い、酔いしれ、捨てられない。それを哀れだと、カナぴょんは嘆くのかな? それとも、他者無しでは己も危うい人間という存在を……そうゆうモノを、哀れんだりしているのかな」
「……何の話ですか?」
カナエは先程と変わらぬ言葉を突きつける。言っても無駄、聞いても無駄。分かっている、そんなこと。
なぜなら―――。
「カナぴょんが思ったことが、ここで起きる全てだよ!」
そんな分かりきった話を、していたのだから。




