第4色
第4色
「……その子、何」
カナエが魔物をも殺せそうな目で少女を見る。見ず知らずとはいえ、それは幼い子供に向けるような目ではなかった。決して。優季からすれば、何でお前が家主より先に上がっているのか問い質し……あぁ、これが平常運転か、そう言えば。
「何、こいつ。私、ユーキにしか興味無いのに」
「別に、私もあなたに興味があるわけではないのよ。そんなどうでもいい子に優季が巻き込まれるのが心配なだけ。迷子は、交番か児相にでも連れていくのが妥当でしょう」
カナエにしては珍しく口調が強い。
「何でこいつが指図するのよ」
「助言よ。苦労しないためのね。もちろん、優季への」
「何それ、こいつなんなの? 何で私が視えてるのよ」
「答える必要……て、え?」
優季をそっちのけで繰り広げられいた舌戦は、まさかのキラーパスで幕を降ろす。
いやいや、僕を見ましても。
身振り手振りでそう伝える。実際、優季もはっきり理解っている訳ではない。ただ、天を呪いたくなる位でしか知らないのだ。
「ふふ、私の勝ちね」
「うるさい。ちょっと黙ってて」
まだ幕引きは早かったらしい。予想外のロスタイムがあった。どこでロスしたんだ。てか、何に勝ったんだ。少女は若干頬を膨らませる。そのくらいが似つかわしい。
「視えるって……何?」
「そのまんまよ。私、普通じゃないみたいだから」
普通じゃない。日常じゃない。異常。異物。本来なら無いもの。在るはずの無いもの。在る必要の亡いもの。それを、この幼い子が自覚しているのだ。本人自体、受け入れられていないようだが。いや、分かっていないのだ。自覚しても、何がずれているのか、分かっていない。
それを面白おかしく死んでいると表現している、という単純な構図ではないのだろう。なるほど、これが事件性。それと同時に思い浮かぶ、危険性は無いという言葉。それは何を指しているのか。今の優季達に理解るはずもない。
「はぁ……。飛び切りの面倒事のようね。こういうのが寄って来るのは体質とでも呼ぶべきかしら。光に群がる虫みたいね」
「ふぅん、少しは面白いこと言えるじゃない。仕方ないから許してあげる」
「ありがとう。ほめられた気はしないけれど」
何だ、延長戦もあったのか。レフェリーは何も出来ず苦笑いを浮かべる。仕事しろよ。ルールは知らないが。
はてさて、堂々巡りも疲れる頃合いだ。とりあえず二人は腰を落ち着かせる。レフェリーを挟んで。
「で、どういうキセキを視ているの? 私達は」
カナエがハルを撫でながら言う。そこに特別な感情……はない。淡々と言うだけだ。
「私、半分死んでるの。だからフツーは見えない。視えるのはイジョーな人だけ。私と同じような」
こちらも何の感慨も……なく話す。普通に。異常を。
「え? どういうこと?」
「私に聞かれても……知らない」
だから、何も感じない。異常が普通だから。当たり前に理不尽を受け入れた。
言葉は覚えた。周りが普通に話していたから。物は知った。あるのが当たり前だったから。動作を真似した。そうすれば……なんて思ったから。
そして得たものは、異常な自分の、吹けば消える存在だけだった。
「……じゃあ、名前は無いの? いつまでもあなた、とかじゃ誰を呼んでるかも分からないじゃない」
一瞬の静寂を呑み込んで、少女が大きく眼を見開く。驚きと、そして少女の知らない感情でカナエを見る。カナエは、少女を見ていた。特別な感情もなく。何の不思議も無く。当たり前に。
あわあわと突然少女らしく、年相応の顔で、カナエと優季、ついでにハルの顔を行ったり来たりする。
それで根負けしたのは、言うまでもない。
「そっちの方が可愛いじゃん」
カナエがいたずら気に言う。そして、少女は目一杯の笑顔で。
「私、イノリっていうの! ノゾミと一緒に考えた、自慢の名前よ!!」
「へぇ、素敵な上に良い偶然。私はカナエ、カナエ・ルル。イノリとノゾミとは仲良くなれそう」
まるで姉妹のように、当たり前に笑う。笑い合う。そこに異常なモノは一つもなかった。
だって―――祈りと望みは、叶えられるのが普通だろう?




