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崖を登りきりお互いにぜえぜえと肩で息をしながら呼吸を整える。


ネロは徐に兜を脱ぎ溢れた真っ黒な髪を掻き上げた


髪の先から汗が一雫流れ落ちる。


眉間に皺を寄せ手で真っ赤に染まった熱に浮かされた頬を扇ぐ。


「あー…暑かった…。」


その姿を見てビアンカも頭の被り物を脱ぐ。


通り過ぎる風が真っ赤に染まった頬を優しく撫でた。


確かに涼しい。


風で顔の火照りを冷ますビアンカにネロがチラリと視線をやった。


「…てかビアンカ。」


「何?」


「脱いで。」


「…は?」


「あとそこに小さい泉があったから身体洗って来て。」


「…あんた人に非常識とか全年齢とか解く前に自分の発言を見直すべきだと思うわ。」


ビアンカの言葉にネロは漆黒の瞳を見開いた後、くしゃりと目尻に皺を作って吹き出した。


「あっなるほどね。

 やっと意味が分かったよ。

 違う違う。

 君の着ぐるみ血塗れだし破れてるし、君も怪我してるから着ぐるみの修繕とビアンカの治療をしようと思っただけだよ。」


「…なら何でそんなに大爆笑してんのよ。」


「いや、君と長い事一緒にいるけどその手の欲求が沸いた事がなくてね。

 有り得なさ過ぎておかしくなっちゃったんだよ。

 安心して。

 君がどんな行動をしようがどんな格好だろうが何とも思わない自信しかないよ。」


「あんた本当に失礼な奴ね!

不能なんじゃないの?!」


「君以外には反応するから大丈夫だと思うよ?

 でも今ここでビアンカが裸踊りしたとしても大爆笑したとて手を出さない自信はある。

 いや自信しかない。

 10割の確率で自信がある。」


「あんた本当に最低ね!!

 いいわよ!

 身体洗って来るわよ!!

 覗いたりすんじゃないわよ!!」


ドスドスと荒い足音を立てて泉に向かうビアンカにネロは行ってらーとひらひら手を振った。


そして自分の鎧も拭こうと鎧を脱ぎ始めたのだった。




「いった〜〜〜〜!!!」


「我慢我慢。

 ほら今度は足出して。」


「でもめちゃくちゃ沁みるのよ!!」


「そりゃこれだけ深く切れてたら消毒液だって沁みるに決まってんでしょ。

 切腹未遂みたいになってるよ。

 良かったね内臓に届いてなくて。」


ビアンカはチラリと自分の腹部を見る。


着ぐるみを脱いでみて分かったが臍から腰にかけて大きく切られていたのだ。


流血していた事には気が付いていたがここまで大きな傷になっているとは思わなかった。


ネロの消毒液が酷く沁みる。


「痛っーーーーー!!!」


「我慢我慢。

 はい、今度は肩行くよー。」


気が付かなかっただけで実は全身傷塗れだったらしい。


痛みで生理的な涙が浮かぶ。


「うう…。

 なんで私ドロシーの事守っちゃったのかしら…。」


「君にとってドロシーがそれ位大切だからでしょ。」


新しい脱脂綿に消毒液を染み込ませながらネロは言う。


「君にとってあの子は『特別』だからね。

 1番大切な子なんだから無理もないよ。」


「そうなの?」


「そうなのって…。

 あぁ、君記憶ないんだったね。

 一瞬忘れてたよ。」


「私にとってドロシーってそんなに大切な子だったの?」


「…そうだよ。

 記憶がなくても自分の身を差し出してしまう位にはね。

 ほら行くよ。」


「ーっいっだああああ!!!!」


山にビアンカの情けない悲鳴が木霊した。


ネロは気にする事無く赤黒く染まった脱脂綿を捨てまた新しい脱脂綿をピンセットで摘む。


ビアンカは涙目でネロを睨んだ。


「…あんたって本当に意地悪よね。」


「え?」


「あんただってドロシーを守ったじゃない。

 私と同じ様に大切な子だったからでしょ?

 なのに理由さえ教えてくれないなんて。」

 

「…ああ、なるほどね。」


ネロはくすくすと笑うと鞄から包帯を取り出しビアンカに巻き付けた。


「別に意地悪なわけじゃないよ。

 俺はドロシーが特別じゃないから理由が分からないだけ。

 でも君がドロシーを特別に思っていた事は知ってる。

 ただそれだけだよ。」


「…でもドロシーを身を呈して庇ってたじゃない。

 ーっ痛ぁ!!!」


「強めに巻かないと血が漏れるから我慢して。

 俺はドロシーが大切な子だから庇ったわけじゃないよ。

 君が大切にしている子だから庇っただけ。」


「…意味わかんない。」


「言ったでしょ?

 共に死ねる位には君が大切だって。

 …だからあまり無茶はしないで。

 俺のせいでもあるけどさ。」

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