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漸くビアンカの傷口に包帯を巻き終わるとネロはビアンカの着ぐるみを泉で洗い出した。
毛皮に染み込んだ返り血が赤黒い線となって水面に浮かぶ。
「…あーあ、予想はしてたけどこりゃ完全には落ちないね。
血液ってほんと頑固だよ。」
「…悪かったわね。」
「君が反省するのは着ぐるみより自分の傷についてだけどね。
女の子なんだから傷は残しちゃダメなんだよ?」
「最後尾で耐えろって言ったのはあんたでしょーが。」
「こんな傷まみれで追い詰められるまで耐えろなんて言った覚えはないよ。」
ネロはゴシゴシとライオンの着ぐるみを擦る。
ネロが手を動かす度に水面に赤黒い血が浮かんだ。
よほど染み込んでいたのだろう。
ビアンカも手伝おうと頭部分を泉に浸す。
流れ出た血液が水面を淀ませた。
「…あの状況じゃ仕方ないじゃない。」
「他に手段はいくらでもあったと思うけどね。
ドロシー達と一緒に降りたって良かったはずだ。」
確かにその通りだとビアンカは俯いた。
ライオンの頭を擦る手を止め唇を噛み締める。
でもそんな事を言われたって。
「…出来るわけないじゃない。」
「ん?」
「…あんた1人残して逃げるなんて出来るわけないでしょ。
例えもしあのまま死ぬって知ってたとしても、私はやっぱり残ったと思うわ。
あんた1人になんて出来ないわよ。」
ネロも着ぐるみを擦る手を止め真っ黒な瞳を瞬かせた。
不貞腐れて俯くビアンカを暫く見つめた後くすりと笑う。
「…本当に君って狡いよね。」
「は?」
「そんな事言われたら俺も怒るに怒れなくなるじゃないか。」
ネロは目尻を優しく垂れさせると手を口に当てくすくすと笑う。
ビアンカは頬を膨らませブスッ垂れた。
2人は黙ってまた着ぐるみを洗う。
「…ねえ。」
「ん?」
「黙ってないで何か話しなさいよ。
いきなり説教ブッタ斬られたら気まずいわ。
無言ってどうしたら良いか分からなくて嫌いなの。」
「そんな図書館とか笑っちゃいけない所で笑ってしまう学生みたいな事言われても。
ついでにもう説教も終わったし…。
君もむちゃくちゃだよね。
じゃあどうしようか。
俺の話題プラン宗教か政治か野球についてあるけど。」
「なんで触れちゃいけない3大話題しかないのよ。」
「実は触れちゃいけないけど1番盛り上がるよね。
特に酒の席では。」
「殴り合いに発展するものね。
そういう意味じゃ確かに盛り上がるわ。」
「あっでも他にもう1つ話題見つけたよ。」
「何?」
ネロは洗い終わった着ぐるみを抱えて立ち上がる。
そしてにっこりと笑って口を開いた。
「多分この着ぐるみ、生乾きの上に血の染みが落ちなくて色々と大変だろうけど頑張ってね。
酸っぱい臭いなんて比べ物にならない位臭う予感しかしないけど頑張ってね。」
「……。」
臭いライオン化が決まったビアンカは今度こそ深く項垂れたのだった。




