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ギシギシと縄を軋ませながらネロは鉤縄を攀じ登る。


しがみついていた腹筋が少しだけ痙攣した様な気がした。


笑っているのだろうか、この状況で。


訝しげにビアンカはネロを見上げるが鎧に隠れていて表情は分からない。


「…あんた、よく笑えるわね。」


「えっ?

 あぁ、笑ってるわけじゃないよ。」


ネロの声を聞いてビアンカは気が付いた。


笑っているわけじゃない。


こいつは震えているのだと。


またナイーブアピールかと疑うがこの状況でそれはなさそうだ。


「…あんた、もしかして怖いの?」


「…。」


ネロは返事を返さず小さく笑った。


こいつ情緒不安定なんじゃないかと心配になってきてしまう。


「…怖くないわけないでしょ。」


鉤縄を掴みながら苦笑混じりの声でネロは言う。


腕を伸ばし自分の腕力だけを頼りに奥歯を噛み締めながら縄を掴む。


「自分が諦めたら君を死なせると分かってて怖くないわけがないだろう?

 君の命を預かっているってだけで吐きそうな位怖いね俺は。」


「…さっきまで余裕綽々だった癖に。」


「ビアンカを死なせない自信があったからね。

 けど予定が狂って今それがのしかかって来たんだ。

 怖いに決まってるじゃないか。」


喋りながらまたネロは少し上の縄を掴む。


自分の体重を支えるだけでも辛いのだ。


ビアンカの体重までのしかかっている今の状況は非常に苦しいだろう。


もしかしたら、とビアンカは思う。


こいつはナイーブアピールなんて言っていたが実は本気だったんじゃないかと。


本気でビアンカだけを生き残らせるつもりだったのではないかと。


それを誤魔化す為にわざと変な事を言っていたのではないかと。


…ひねくれ者にも程があるではないか。


素直さが足りないにも程がある。


ビアンカは垂れ下がっている鉤縄を掴みネロの腰から手を離す。


驚いた様にネロはビアンカの方へ顔を向けた。


「馬鹿じゃないのあんた。」


ビアンカは痺れている腕力を奮い立たせ縄を手繰り寄せる。


「守られるだけなんて嫌よ私。」


「…そうみたいだね。」


ネロが苦笑混じりに呟きながら崖を攀じ登る。


「…本当に君は昔から俺の言う事なんて何一つ聞いてくれやしないんだ。」


「何か御不満?」


「いや。

 …共に行かせて貰うよお嬢さん。」


そう言って苦しい状況の中、確かにネロは笑ったのだった。

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