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2人が走っていると目の前に谷と谷を結ぶ吊り橋が見えた。
ビアンカが先に吊り橋に辿り着く。
酷く古びていて吊り橋を支える縄は今にも切れそうだが躊躇している時間はない。
ビアンカが渡り始めるとネロがビアンカに背を向けて戦斧を構えた。
「何してんのよ!!」
「んー?
俺達が渡り切るよりガリムが追い付く方が早いだろうからね。
ガリムまで渡ったりしたら橋が落ちちゃうでしょ?」
「だからって何であんたが残るのよ!!!」
「…いいから。
渡ったらビアンカは縄を切って。
犠牲は少ない方が良いだろう?」
鎧越しにネロが笑った気がした。
だかビアンカだって納得出来る訳がない。
グラグラと揺れる吊り橋の上でネロに向かって必死で怒鳴る。
「そんな事許せるわけがないじゃない!!
あんたついさっきかっこつけないって言ったばかりでしょ!!
何でかっこつけてんのよ!!!」
「…来世ではかっこつけないよ。
今世では最期に格好くらいつけさせてよ。」
「いらないわよそんな物!!!!」
そんな事を喋っている間にネロの周りをガリムが取り囲んでいく。
ネロが戦斧の先を吊り橋の縄に掛けた。
「…ちゃんと捕まってなよビアンカ。」
「ダメ!!
やめなさいネロ!!!」
「…君と旅が出来て良かったよ。」
そう言ってネロが戦斧を引く。
吊り橋が大きく揺れた。
ビアンカは無我夢中で来た道を戻りネロに向かって手を伸ばす。
ネロがもう一本の縄を戦斧で切り裂いたのとビアンカがネロの腕を掴んだのは同時であった。
縄の切れた吊り橋は勢い良く反対側の崖へと振り子の様に叩き付けられる。
辛うじて木の板を掴んでいた片腕が叩き付けられた衝撃によって痙攣しそうな程に痛む。
ビアンカが歯を食いしばっていると反対側の腕の先から情けない声が聞こえた。
「…最期に格好付ける事さえ許してくれないとはね。」
困った様に笑うネロにビアンカは怒鳴った。
「ふざけんじゃないわよ!」
ビアンカはネロを掴んだ腕を無理矢理持ち上げ木の板を握らせる。
「最期に格好付けて死ねるのはね、最期まで必死で抗った人だけなの!!
諦めて死んだ奴に格好なんか付く訳がないじゃない!!
寧ろ超絶ダサいに決まってんでしょ!!
あんたが天国でも地獄でも一緒って言ったんじゃない!!
なら責任とって地べた這いずってでも最期まで一緒に必死で生きなさいよ!!」
「…仰る通りだね。」
ネロはくすりと笑って片手でカバンを漁る。
鉄鉤の括り付けられた縄を取り出すと崖の上に飛ばし吊り橋の縄が結ばれている太い木の支柱に引っ掛けた。
「…何それ。」
「鉤縄だよ。
知らないのかい?
ほら、忍者とかがよく使ってるあれだよ。」
「…私の質問には何でそんな物持ってるのかって言うのも含まれてるんだけど。」
「気にしない気にしない。
ほら、ビアンカは俺の腰に捕まってて。
手を離したら死ぬよ。」
そう言われ慌ててネロの腰にしがみつく。
ブリキの鎧の為かなり安定さにかけるが文句は言ってられない。
「…て言うかあんた、それがあるなら吊り橋切っても渡れたんじゃないの?」
「元々そのつもりだったからね。」
「じゃあなんであんな死ぬ直前みたいなセリフ吐いたのよ!
馬鹿じゃないの?!」
「やっぱりさ、物語で見せ場っていると思うんだよ。
かっこよさをアピールする場って言うのかな?
人気を得るには大々的にアピールしなきゃダメなんだよ。
ほら、俺って今多分頭おかしいキャラとしか思われてないだろう?
絶対モテないだろうからね。
せっかくメンタルが弱い人間らしい所まで見せてギャップモテを狙ったのに、ビアンカのせいで失敗したけどさ。」
「あんたへのヘイトしか貯まらないと思うわ。
しかもさっきのまさかギャップアピールだったわけ?
あれでモテに繋がるなんて思ったわけ?」
「当たり前じゃないか。
ガリムに追いかけ回された程度で俺のメンタルがやられるわけがないだろう?
実はナイーブな1面もあるって見せたかっただけに決まってるじゃないか。」
「…私、今あんたを助けた事を心の底から後悔しているわ。」
ビアンカは項垂れた。
こいつの性根が腐っている事を忘れて助けたりした自分が情けない。
しかもさっきこいつの為に必死で生きろ等と説教してしまったのだ。
恥ずかしくて死にたくなる。
「いやあでもさっきのセリフは痺れたよ。
最期まで一緒に必死で生きなさいだっけ?
何あれ逆プロポーズ?
口説き文句にしてはシチュエーションが良くなかった部分は減点だけど。
ロマンチックさって言うの?
それが無かったからね。」
「黙って頂戴。
今すぐ殺したくなるから口を閉じて頂戴。」
ビアンカの中のネロへの評価はマイナス値に到達する勢いである。




