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ドロシーが2人の無事を祈りながら岸を目指していた頃。
ガリムの大群を目の前に残った勇敢なる2人組は見事なフォームで猛ダッシュしていた。
ぶっちゃけ無理だったのだ。
勝てる訳がない。
数の暴力って恐ろしい。
2人はドロシー達を崖下に落とした後すぐに気が付いた。
あっこれダメだ、と。
かっこいい感じのセリフを吐いたがやっぱり無理だと気が付いた2人は逃亡した。
勇気ある撤退という奴だ。
そんな2人の後ろをガリムの大群が怒号を上げて追いかけてきている。
仲間を殺された挙句餌が逃げているのだ。
そりゃあ追いかけないわけがない。
「だー!!
もうしつこいっ!!!」
「ねえビアンカ、カマキリってさ交尾した後相手を食べちゃうでしょ?」
「それが何っ!!!」
「好いた相手を食べる事がカニバリズムと言う名の究極の愛情表現だと仮定するならばだよ?
今俺達はあのガリムの大群から熱烈な求愛を受けているとも考えられるよね。」
「あんたこの状況でそんな事考えてたわけ?!」
ビアンカはネロの認識を改める事にした。
狂人なだけでない。
メンタルが鋼だと。
心臓がミスリルで出来ているに違いないと。
「人生でモテ期って3回あるって言うじゃない?
俺まだモテ期って経験した事がなかったんだけどさ、一気に来たのかもしれないよね。
最期に3回分のモテ期がさ。
相手が人間じゃなくてガリムってのが凄いけど。
本当に人生って何があるか分からないよね。」
「最期って言わないで!
不穏過ぎるわ!!」
「仮に食われたとしても愛されていたとしたら報われる気がしないかい?
相手が例え種族が違ったとしてもさ。」
「…あんたもしかして諦めてない?」
「とっくに諦めてるよ。
あーあ、何で俺あの時残るとか言っちゃったかな、ほんと。
かっこつけるんじゃなかったほんと。
あっなんか笑えてきた。
あはははははははは。」
ビアンカはまたネロの認識を改めた。
心臓がミスリルでは全くない。
寧ろお豆腐だ。
既に奴のメンタルはぐちゃぐちゃに崩壊していたらしい。
攻撃力に特化したタイプは打たれ弱いと言うが奴の場合も一緒なのだろう。
「あんたさっきまで天国まででも地獄まででも一緒とか決めてたじゃない!!
少しはカッコ良さ保ちなさいよ!!」
「かっこつけた結果が今の状況だよ。
俺もう二度とかっこつけない。
死んでも良いとか二度と言わない。
来世は絶対そうする。」
「だから諦めるのやめなさいよ!
何既に今世諦めてんのよ!!」
「トラックに轢かれたらチートになれるんだっけ?
ガリムに食われた場合はどうなんだろうね。
チートにしてくれるかな?」
「チート転生しようとしてんじゃないわよ!
現実逃避にも程があるわよ!!」
だが状況的に現実逃避したくなるのも無理はない。
そもそも人間と魔獣では脚力に大きな差があった。
ガリムとの距離はどんどん詰まって来ている。
時折斜面から飛び出して来るガリムを切り裂き走るが限界に近い。
肺が潰れそうな程に苦しくて堪らないのだ。
そもそも山道をずっと走り続けるなど無謀でしかない。
足がもつれる。
それでも歯を食いしばりながら走るしかない。
2人は奥歯をギリっと噛み締めながら限界を感じつつ尚も走った。




