#
「さてビアンカ、ここで重大な事件が発生したよ。」
「…あまり聞きたくないわね。」
2日後、難しい顔をしながら戻って来たネロはビアンカに不穏な言葉を告げた。
あまり楽しそうな話題ではなさそうである。
ネロは懐をゴソゴソ漁ると例の紙片の束を取り出した。
「実はね、この後ブリキの木こりとライオンが仲間になる予定なんだけどね。」
「うん。」
「仲間になりません。」
「…は?」
ビアンカはぱちくりと目を瞬かせた。
仲間にならないとは意味が分からない。
「えっなんで?」
ビアンカの問い掛けにネロはふぅっと溜息をつきながら紙片を捲った。
「俺もね、薄々ヤバいんじゃないかなーとは思ってたんだよ。」
「……はぁ?」
「ブリキの木こりとライオンが仲間になる描写が綺麗になくなってたからね。」
確かに紙片を覗く限りその描写は見当たらない。
破り捨てられてしまった様だ。
「だから俺は先回りして様子を伺ってきたんだけどね。」
「それで?」
「ブリキの木こりは人間のままマンチキンと結婚して幸せな家庭を築いていたし、ライオンは普通に森の王として君臨してたよね。」
「えー…。」
まさかの展開にビアンカは掌で顔を覆った。
本来、ブリキの木こりは人間だった頃マンチキンの女性と結婚しようとしたが魔女のせいでブリキの体になってしまった為、女性を愛した感情もなくなってしまい心が欲しいとドロシーの仲間に。
ライオンはライオンの癖に臆病で困っているから勇気が欲しいとドロシーの仲間になるのだ。
だが木こりは既に結婚済み。
ライオンは森の王。
いやめでたい。
おめでたい話なのは間違いない。
きっと彼等は幸せだろう。
物語的には何一つめでたくないが。
「それで俺もさ、これじゃ不味いよなって色々考えてね。
最初は代用品を用意したわけだ。」
「ほうほう。」
ネロは肩に掛けた鞄をゴソゴソと漁る。
「…それを代用品にしようとしたの?」
「うん。」
「にゃあ。」
「ぴゅーぴゅー、トントントントン、ぴゅーぴゅー、トントントントン。」
鞄が狭かったのか猫は不機嫌そうに眉間に皺を作っていた。
無理矢理被せられたであろう偽物の鬣を外そうと必死でもがいている。
そして反対の手にはドラムを抱え笛を銜えたくまのロボットが鎮座していた。
陽気なドラムと笛の音が静寂な森には場違いな程よく響いた。
ビアンカは半目になりながらネロを見る。
絶対こいつやっぱり馬鹿だと確信しながら。
「まあこれは冗談なんだけど。」
「冗談で良かったわほんと。
じゃなきゃ私は即座にあなたを病院へ連れていくわ。
頭の。」
ネロはビアンカの蔑んだ眼差しを気にする事無く猫を解放しロボットを鞄に戻した。
鞄から未だぴゅーぴゅー聞こえているがネロは気にしていない。
「和ませる為の冗談はさておき。
何とかしなきゃ不味いよね?」
「全く和んでないけどね。
まあそりゃあそうよ。
物語が行き詰まるもの。」
ビアンカの答えにネロは満足気に笑った。
「そうだろう?」
「う、うん?」
「じゃあビアンカ。
…どっちが良い?」




