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心と勇気

畑地帯を抜けて鬱蒼と木々が生い茂る薄暗い森に入るとあまり整備もされていないのかレンガ道は穴が空いていたりと道がガタガタになっていた。


案山子はしょっちゅう穴に引っかかって転んでしまいそれを何度も助け起こしていた為ドロシー達の歩みは遅い。




ビアンカはその後ろをコソコソと着いて行きながらくはぁと欠伸をした。


今ビアンカは1人で追跡していた。


話相手もおらず暇で仕方ない。



ネロは案山子が仲間になった後、紙片を眺めると少し気になる事があるからと1人でどこぞへ行ってしまったのだ。


時々頭に引っかかる蜘蛛の巣が鬱陶しいがそれを愚痴る相手もいない。


…何だか非常につまらない。


そんなビアンカとは対照的に前を行く2人と1匹は楽しげにお喋りに花を咲かせている様であった。


主にビアンカとネロの悪口がネタであるが。


「それでね、カラスってば散々僕を馬鹿にした挙句トウモロコシを投げ付けてきたんだよー?!

 酷いでしょ?!」


「ほんと、失礼なカラスね!」


ドロシーはぷりぷりと怒りそれに同意するかの様にトトもわんわんと吠える。


案山子は大きく頷いた。


「そうでしょー?

 それで僕が怒って黙ってたらさ、目の前で焼きトウモロコシを作り出した挙句僕をつつき回して脳ミソが無いから喋る事も出来ないんだろって!

 あったま来るでしょ?!」


「えっ?

 カラスが焼きトウモロコシを作ったの?」


「そうだよ。

 バターまで塗ってたんだよー。」


「…オズの国のカラスって賢いのねえ。」


まあ案山子が喋る位だものね、と自分を納得させるかの様にドロシーが頷いた。


オズの国って凄いと思いながら。



そんな事を喋りながら一行は森が薄暗くなってきていた為、そろそろ野宿しようかと少し開けた木の下に行き焚き火に使う枝を拾い始めた。


ドロシーがバスケットから取り出したマッチに火を着けると案山子だけは「燃えると良くないからねー。」と後退っていたが。



やがて森には焚き火の中の枯れ枝が時たまパチパチ鳴る音とドロシーの寝息以外は静寂に包まれた。


ビアンカのいる場所までは焚き火の明かりは届かない。


案山子は眠らないと言っていた為バレてしまう危険性を考えると明かりを着ける事は出来なかった。



時折夜の冷たい風がビアンカの身体を通り過ぎていく。


遠い何処かでミミズクの鳴き声がした。


ビアンカは寒さで眠る事も出来ず両腕を掌で摩りながらぼんやりと空を見上げた。


鬱蒼と茂った木々のせいで星明かりさえ届かない。

それは正に完全な闇だった。


ビアンカはふとその光景を見た事がある様な気がした。


一体どこで見たのかと脳内を探すが思い当たる節はない。


自分の記憶がない以上仕方がないのだが。


ビアンカはうーと小さく唸りながら自分の膝に顔を埋めた。



何となく自分の存在さえも闇に溶けてしまいそうで不安になってくる。


暗闇の中で1人というのが如何に心細いかを痛感させられてしまう。


早くネロ戻って来ないかしらと思いながら寒さに耐えている間にビアンカはいつの間にか眠ってしまっていた。






ーどうして?!


ーねえどうして?!


ー私ずっと待ってたのに!!


ーねえどうしてなの『先生』っ…!!


ー嫌だよ…『先生』っ…!!


夢の中で女の人の悲痛な悲鳴が聞こえた気がした。


その声は余りに哀しみに満ち溢れていて夢の中なのに何だか泣きたくなる程苦しくなる。


何故こんなにも胸が痛むのか分からない。


…目が覚めた時には忘れてしまっていたが。


けれど夢の証かの様にビアンカの目尻には涙の跡が残っていた。

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