第3章 暴論と断罪
第一幕:コード1823の骸骨と偽りの和解
エクソシスト公安の本部最深部にある、凍てつく地下研究所。
『ガチャリ……ガラガラッ――!!』
重く錆びついた凶悪な鋼鉄の鎖が、冷たい金属の床へと激しく叩きつけられ、地下の静寂を切り裂く耳を刺すような甲高くて鋭い音を響かせた。
死霊王の魔核によって強制的に駆動している、クロードの白骨化した躯体が――鋼鉄の手術台の上から、極めて重々しく、異様な威圧感を放ちながら立ち上がる。
彼はその骨だけとなった左手を不気味に伸ばすと、手術台の傍らに置かれた重厚な武器箱の中に納められていた禍々しく重々しい大型兵器――「鴉狩の鎌」の柄を、迷いなくしっかりと掴み取った。
続いてクロードは、武器を握っていない白骨の右手をスッと差し出し、目の前に立つ長官の目前でピタリと止めた。
長官の偽善に満ちたその顔に、瞬く間に狡猾で得意げな笑みが浮かび上がる。
彼は、この無敵の死霊兵器を遂に自らの手中に完全に収めたと確信し、勝利に酔うように急いで自らの右手を差し出すと、クロードの冷たい白骨の手を力強く、熱っぽく握りしめた。
だが――。
二人の手が重なり合った、その瞬間。
『バリィィンッ――!!』
クロードの左眼腔に嵌められた「魔晶の眼」が、突如として人間業とは思えぬ凄まじい、眩い青い光を爆発的に放ち始めた!
地獄の底から這い出た悪鬼のごとき、枯れ果てた沙啞な声が、長官の耳元へと薄気味悪く、そして容赦なく囁かれる。
「……生憎ですが。私の左眼に嵌まるこの『魔晶の眼』には、あなたに教えていなかった、もう一つの秘密がありましてね」
「私に肉体を触れられた者はだれであれ、魔力を強制的に介して……その魂の最奥の深淵に眠る、最も汚らわしい記憶を直接引きずり出される」
「――魔力連結、起動」
『ヴォォォォン――ッ!!』
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッ!!」
魂を引き裂くような刺すべき青い光が、互いの手のひらを通じて猛烈な勢いで炸裂した!
長官は、その眼球の角膜すら引き裂かんばかりの悲痛で凄惨な絶叫を上げる。彼の脳裏は一瞬にして強制的に引きずり出され、自らの心の奥底、闇の深淵へと埋め込んでいたはずの「あの血塗られた記憶の渦」へと、容赦なく呑み込まれていった――!
第二幕:竜の島の血塗られた取引
【記憶回溯・竜の島 竜脊領】
激しい土砂降りの雨が降り頻り、底冷えする猛烈な暴風が、不気味な黒い火山岩の荒野を容赦なく吹き荒れていた。
双頭の狂竜王「モルドレッド」の、あまりに巨大で獰猛な躯体が、幾重にも重なる巨石の王座の上に不敵に鎮座している。
かつて「ウロボロスの魔術師」レーベンによって文字通り切り落とされたその左腕の傷痕は、今なお激しく疼き、周囲に焦げついた生臭い血の悪臭を撒き散らしていた。
右側の頭部「右介」が、眼下で泥まみれになりながら平伏する一人の男を見下ろす。
その冷酷な竜の瞳には、人間に対する極限の軽蔑と、血に飢えた狂妄が満ちていた。
「下等な人間め……何の用だ? 我がお前たちの出来損ないの戦士どもを皆殺しにしてやったゆえ、今さら情けない復讐にでも来たのか?」
一方、左側の頭部「佐助」は、狂気的で甲高い冷笑を爆発させ、その不気味な笑い声を山谷全体に揺さぶるように激しく響かせた。
だが、そんな恐怖の化身の眼前にありながら――泥の地にしっかりと膝をつく男、すなわち高級官服を纏ったあの長官は、不敵にその首を持ち上げた。
その瞳には、竜に対する恐怖など微塵もなく、底なしの強欲と、冷徹な計算高さだけが黒く宿っていた。
「いいえ。私はあなたと――極めて有益な『取引』をしに来たのです、偉大なる狂竜王よ」
右介は、その鼻先から灼熱の竜炎を一吹き吐き出すと、冷ややかに笑う。
「ほう……? なかなかに面白い。何を望む? 我の退屈な興を惹けねば、貴様は今すぐ我が日の昼食の肉塊となるのだぞ」
長官の口元に、冷酷でいやらしい笑みが浮かび上がり、彼は一語一語、悪魔の言葉を緩やかに紡いだ。
「我々公安の研究所の天才研究員が、ついに『赤き飛竜・ガレヴォート』の完全復活に成功しました。だが、あの気宇壮大な竜種の魔物は我々人間には到底制御しきれず、このまま残しておいても将来の禍根となるだけです」
「私は……その赤き飛竜に最も相応しい強大な受容体を見つけ出し、それをあなたに献上いたしましょう!」
右介と佐助、四つの巨大な竜眼が同時にカッと狂暴な光を輝かせた。
「ほう……悪くない話だ。我が輩の飢えを満たすか。では、貴様の望む条件は何だ?」
長官の瞳に、極めて陰険で毒のある光が走り、彼はその冷酷な毒を言葉に込めて告げた。
「条件は、極めてシンプルです。私に協力して、その研究員と彼女の邪魔な息子を闇討ちで殺害し……彼女が携えている『核心研究データ』を奪い返して、我々に引き渡していただきたい!」
右介は、血の滴る巨大な竜の口を開け、地響きのような底知れぬ高笑いを破裂させた!
「ハハハハハハッ! よかろう! その取引、完全に成立だ! 浅ましくも、我が同胞より残忍な人間め!」
第三幕:崩壊者の咆哮
『ドンッ――!!』
強烈な記憶の奔流がパツリと途切れ、長官の両膝が、冷たく刺すような地下の金属床へと、たまらず重々しく崩れ落ちた。
目や鼻腔からドス黒い血を滲ませ、美しいはずの髪を自らの手でぐしゃぐしゃに掻きむしった彼の精神は――今や完全に崩壊し、狂気に染まっていた。
彼は自らの髪を狂ったようにむしり取り、眼前の手術台からゆっくりと降り立つ、あの巨躯の白骨の骸骨に向かって、ヒステリックに慟哭し、狂暴に叫び散らす。
「こうなったのは……すべて、すべて君とディアナが私を追い詰めたからだッ! クロード――ッ!!」
赤く充血した両眼に血管を浮かせ、彼はクロードの胸のなかで、黒紫の不吉な死気を滾らせる死霊の魔核を狂ったように指差しながら、甲高い声で喚き散らす。
「あの研究が! エクソシスト公安にとっていかに死活問題として重要であったか、君に分かるか!? あの時、あの島で奪い返した研究データがなければ……我々がどうして、あんな『死霊王オシリスの魔核』などという奇跡の兵器を造り出せというのだッ!?」
「今こうして、君を地獄の底から強引に蘇らせるような真似が……もし研究データなしで可能だったとでも思うのか……ッ!?」
第四幕:歪んだ正義
長官は冷たい床を這いずるようにして二歩前進すると、その両腕を大きく広げ、半ば精神の狂気にとらわれた口調で、己の犯した大罪のすべてを必死に正当化しようと試みた。
「クロード! 正義とは、元より常に多くの血の犠牲を伴うものなのだよ……ッ! 君がまだ若く、愚かだった頃から今に至るまで、私はずっとそう教えてきたはずだ!」
「君がくだらない意地を張り……君とディアナのその愚かしい頑なさが、結果として君たちの家族をこの滅亡の淵へと追いやったのだッ!」
長官は、その醜く歪んだ顔をさらに凄まじく歪ませ、恐怖のあまり壁際へと後退する周りの若い研究員たちに向かって、まるで爪を立てるように両腕を振り回しながら、狂ったように大声を張り上げた。
「我々は……もっともっと多くの『魔化戦士』を造り出さねばならんのだッ! 絶対的な暴力と力を持ってしてのみ、あの狂竜王を完全に打ち破り……この忌々しい戦乱の世を、完全に終わらせることができるのだからなァッ――!!」
長官の、あまりに醜悪で身勝手な絶叫が、がらんとした死寂の地下研究所の中に、沙啞に、そして虚しくこだました。
だが――。
その場にいる周囲の誰一人として、その狂気の叫びに応える者は、もはやいなかった。
その場にいるすべての人間が、肌の底からハッキリと痛感していたからだ。
――いま、目の前に佇むその漆黒の骸骨が放つ、すべてを凍てつかせるほどの死霊の殺気が、すでにこの地下の空間の空気を……完全に凍結させるほどに濃厚へと変貌しきっていることを!




