第2章 目覚めという名の呪い
第一幕:偽りの恩情
『ガチャリ……』
重厚な鋼鉄の防爆扉が、冷たい金属音を響かせて重々しく開かれた。
華美で贅沢な上層部の高級官服に身を包んだ一人の人影が、冷ややかな革靴のヒール音を死寂に包まれた地下研究所へと響かせながら、ゆっくりと足を踏み入れてくる。
クロードの、当時における直属の上司だった男。
彼は特製の手術台の前でピタリと足を止めると、わずかにその首を垂れ、台の上で太い鉄鎖に厳重に縛り付けられ、その空洞の左眼に妖しい青い火花を散らす惨白な骸骨を見つめた。
その顔には、親しげに見せかけながら、その実、底知れぬほど偽善的な笑みが張り付いている。上司はわざとらしく深々と大袈裟な歎息をついてみせると、その声に作り物の震えを絶妙に混じえて語りかけた。
「すまないね、クロード。まさか、あの安らかな死の浄土から、よもやこれほど暴力的な錬金術の力で、君を強引に現世へ引き戻すことになろうとはね」
上司は手慣れた手つきで金製の懐中時計を取り出して時間に目をやると、両腕を大きく広げ、まるで古い友を迎えるかのように噛み締めるように言った。
「だがね、我々公安上層部にとっても、これは苦渋の決断だったのだよ。いまの国内外の情勢を見てみたまえ。戦乱は一向に絶えず、各地で魔物が暴虐を極めて横行している。エクソシスト公安の人手は、今や極限まで切迫しているのだ!」
男は甘い誘い文句を重ねる。
「我々が幼い頃から君を育て上げた、その恩義に免じて……どうか、再び我らのもとへ戻り、エクソシスト公安のためにその力を尽くしてはくれまいか? もちろん、莫大な富も、名声も、そして最高幹部の地位も、惜しみなく君に与えようじゃないか」
第二幕:枯れ果てた拒絕
上司が提示した破格の金品名誉、そして過去の「育てる恩」という狡猾な道徳的脅迫に対し。
台の上に重く縛り付けられたクロードは、その白骨の頭部すら、微動だに動かそうとはしなかった。
彼の、破損し乾ききった喉がかすかに開閉し、空洞の骨の隙間で冷たい気流が断続的に擦れ合う。
まるで荒野を吹き抜ける冷酷な風砂のごとき、空虚で、あまりに沙啞な声が漏れ出た。
「……長官の……あまりに手厚いお心遣い、深く感謝いたします」
クロードの左眼腔にある「魔晶の眼」の青い蒼炎が、かすかに、しかし鋭く揺らめき、長官の功利と強欲に満ちたその脂ぎった顔を妖しく青く照らし出す。
クロードは長い、重苦しい沈黙ののち、静かで、凍てつくような冷ややかな口調で言葉を続けた。
「ですが……私はしっかりと記憶しております。あの『竜の島戦役』ののち、私は正式に上層部へ辞表を提出し……その身を退いたはずですが」
第三幕:ディアナへの誓い
上司の顔から、その表面的な笑みが微かに消え去り、その眉間が険しく寄せられた。
その老獪な声には、隠しきれない威圧感が徐々に混じり始める。
「クロード、キム・ライオンは確かに若くて優秀だ。だが、現在の危うい局勢が求めているのは、彼のような若造ではない。君のような『死神』級の圧倒的な力なのだよ――」
「……そのお話は、どうかもう、結構です」
クロードが、突如としてその言葉を冷徹に挟み込み、上司の威圧の言葉を強引に遮った。
彼は、白骨と死気に覆われた両手を、重々しく持ち上げる。その指先から立ち上る薄暗い死気を見つめながら、唯一残されたその独眼に宿る青い火は、どこまでも純粋で、そして深い愛おしさを湛えて激しく燃え上がった。
彼はゆっくりと両眼を閉じ、脳裏に思い浮かべる。あのハレー彗星の下で、無邪気に願い事をしていたディアンナの、あの優しい笑顔を。
その声には、もはや何人にも揺るがすことのできない、絶対的な鋼鉄の意志が宿っていた。
「私はすでに……誓ったのです。妻のディアナと……。この手は二度と、どんな理由があろうとも、一滴の血で汚すことはないと」
クロードは再び眼を開け、その青い火光で、目の前の男を冷ややかに射抜いた。
「どうぞ……他の都合のいい賢者を、お選びください」
第四幕:偽りの涙
「ディアナ」という妻の名を聞いた瞬間。
上司の瞳の奥が、計算通りに微かに、しかし嫌らしく揺らいだ。
彼は深刻な素振りを完璧に装うと、わざわざ深くため息をつき、官服のポケットから真っ白なハンカチーフを取り出した。そして、存在もしない涙を拭うかのように大袈裟に自分の目元へと押し当て、その白々しい悲痛と悼みを言葉に乗せる。
「ディアナ……嗚呼、なんと哀れな女だ。あの時、お前たちの子供を守るために、彼女はあんなにも惨烈な犠牲となった……。そして、生まれたばかりの君たちの愛児は……今日に至るまで、依然として行方不明のままだというじゃないか」
その白々しい追悼の言葉は、まるで錆びついた冷たい鈍器のように、クロードの胸の奥深くへと容赦なく突き刺さった。
第五幕:涙なき骸骨
『ヴォォォォン――ッ!!』
クロードの左眼腔に嵌められた「魔晶の眼」の蒼炎が、まるで激しい暴風に晒された一本の燭台のように激しく揺らめき、狂ったように点滅した!
だが、いまの彼は冷たく固い白骨に過ぎない。
皮膚も、温かな血肉も失った髑髏の顔には、もはやどのような悲痛な苦悶の表情も浮かべることができず、乾ききり落ち窪んだ骨の眼腔からは、一滴の涙すら流すことはできないのだ。
ただ、その胸の奥深くに埋め込まれた「死霊の魔核」だけが、主の激動の魂に共鳴して狂乱し、激しく脈打ち、打擲する。
荒野の風砂のごとき枯れ果てた、胸を締め付けるほどに震える低音の呟きだけが、静寂に包まれた地下研究所の中に、あまりに沙啞にこだましていた。
「ディ……アナ……ッ!」
それは、愛する者を理不尽に奪われ、泣くことすら肉体的に許されない者の――あまりに極限の、救いのない絶望だった。
第六幕:殘忍なる洗腦
クロードの精神の動揺を、その老練なハンターの如き眼差しで上司は敏鋭に捉えた。
男の瞳の奥に、陰険で、計算高いいやしい光がギラリと走る。
彼は慌てることもなくハンカチをそっと仕舞うと、重々しく一歩、クロードへと踏み出した。
そして、その骸骨の冷たい耳元へと顔を寄せ、一見すれば深く心を痛めている親切な上司を装いながら――その実、極めて残忍で、毒辣な口調で、最も相手の心を精神から破壊する「洗腦の言葉」を甘い囁きとして吐き捨てる。
「クロード、よくよく考えてみたまえ……。もしディアナが、あの時あんな風に独断で『赤き飛竜』の核心と、その禁忌の機密研究データをラボから持ち出したりさえしなければ……。君たち一家三人が、どうしてこれほどまでに残酷な滅亡の憂き目に遭う必要があったというのだね?」
男は意図的に声を低め、すべての罪と悲劇の責任を、あえて亡きディアナの「技術強奪」のせいへと巧妙にすげ替えた。
底なしの自責の念と、拭えぬ罪悪感によって、クロードの精神防衛線を完全に打ち砕かんとしていたのだ。
「彼女のその頑なさが、結果として彼女自身を死に追いやり、君たちの可愛い子供をも犠牲にした……。公安の絶大な力を使い、その真相を徹底的に突き止め……彼女の『真の裏切り』の仇を討ちたいとは、微塵も思わんのかね?」




