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第7話 歓喜の歌

<<迷路のネズミ>>


「”ジャンプできるまであと2週間ぐらいです”、か…。」


デートのあとエリサと別れてから、僕はアパートに帰る方法を考えていた。


「あいつら(DUPAガキ)、今度サービスするって言ってたけど‥。」


しかし彼らは客をもてなす、という概念に欠けている。吐くのはもうたくさんだ。



「…仕方ない。また歩くか。」



僕はまた自分の足に頼ることにした。



空模様が”ムンクの叫び”の様な渦巻きに溢れていて不気味極まる。これじゃぁ当然”ジャンプ”も規制中だ。


まったく、ニュー・キョウト議定書なんて作ったって、結局は強制力のないただのハリボテだ。



今じゃ国がブラックホールの消費数を売り買いしてるし。


ーエリサはというと、突然のリセットで記憶が無くなるのは嫌だと言って帰ってしまっていた。



さっきまではスクロールでやり取りしていたのだが、用があるからとそれも切られてしまった。


「…良いよな。やる事があって。」


どの店のポータルスポットもオフラインで、磁気嵐とはいえ実際に風が吹くわけでもないのにどの店のシャッターも降りている。


…訳わからん。


それに、まったく家に近づいて行っている感じがしない。



「うーん。やっぱりDUPA…。」



…と気付くと知らない通りにいた。



あれ?帰り道だったはずだが…。



……道、間違えた?



ストームのせいでスクロールの地図まで機能しない。


ー停電。



終了。



…真っ暗だ。



まいったな。今補助灯がわずかに点いたけど、これじゃ都市の迷路だ。



…ふと最近読んだ”迷路の中のネズミに自由意志は存在するのか?”みたいな論文と自分が重なった。



「ネズミにとっちゃ迷路出ることのが大事だよな…。」



あれこれ考えていて大通りからかなり外れたようだ。人通りがなくなったし、通りの道幅も狭くなってきた…。



っておいおい…!


明らかにここ違くないか?



…まぁ最悪でもうちの方に向かっていれば良いんだけど。



ん?



行き止まり。


おいー、やめてくれよ!


公共の場所なのになんで…と思ったらやっぱり向こうに進めるっぽい。


絶妙な位置に壁があることで正面から見ると行き止まりに見えるが、右の壁側から見るとちゃんと先に進めるようになっている。



「都市設計人選ミスだよ…絶対エッシャーじゃん。あきらかに。」



その後もツッコミどころ満載の通りを進み続け、とうとう突き当たりに何かの施設が現れた。




<<SYMPHONY No.9>>




ぱっと見、太古の王様の墓かと思った。

巨大で角張った、横長のコンクリートが延々と横たわっている。



ーシティにこんな場所があったなんて。



…まぁ、こんなところに用はない。



引き返そう。



……道、こっちにしか続いてなくないか?



そして…あれ?もう敷地内にいるし。



「しょうがないな、…通らせてもらうか。」



さて、家はどっちだ?



敷地内も同じような作りですぐに方向を見失う。やり過ぎだぞ!エッシャー。



すでにあのコンクリートの墓…建物の中の通路にいるっぽい。



「いつの間に…。」



そんな外と中がシームレスに繋がっている建物なんて初めて見た。



そして、あれ?

…何か…音楽が聴こえる。

…これは聴いたことがあるやつだ。



これなんだっけ?



…そうだ…symphony No.9(シンフォニー 第9番)、第九…



そう”歓喜の歌”。ベートーヴェンか!



いや待て待て、ここで第九といえばどっちかって言うと”家 路”の方だろう?

僕がどれだけ帰宅に苦労している事かドヴォルザーク様は知る由もないだろうが。



だけど…おお!!



低音が物凄く心地良く腹に響いてくる。



……ちょっとだけ。



何の施設か見てから帰ろう。



だって勝手に入れたんだし。



薄暗い通路に沿ってしばらく歩いていると、その先に明かりと爆音が漏れ出している入り口があった。



「コンサートのリハーサルでもしてるのかな?」



僕はだんだんと大きくなる音響を身体の前面に感じながらその入口に近付く。



僕が足を踏み入れようとした時、第九は1番有名で1番大きい音のパートに差し掛かった。



!…!?なんだここは!?



ホールの床全面に重低音スピーカーが並び、奥は見えないほど遠い。



そして”歓喜の歌”の響きに合わせて、等間隔に寝かされ、チューブに繋がれた人達…その何千何万という人体が、振動でビクッビクッと震えていた。



「おええっ!」



僕は激しくえづいた。




その時人の声がした。



「!」



「…の連中がさあ!」



(やばい!隠れないと!)



僕の逃げ場はホール内しかない。



足元に”歓喜の歌”を感じながら、人を避けてホールの奥へ奥へと進んでいく。



話し声も館内に入ってくる。



僕はチューブに繋がれている人の横に同じように寝転んだ。音楽はまた爆音パートになり耳が吹き飛びそうだった。



(頼む。気付かないでどっか行ってくれ‥。)



見廻り達はホールに入って一瞬立ち止まった後、すぐに出ていったようだった。



(た、助かった…。もう戻ろう。…でもこの人たち…一応…死んではいないみたいだな。)



チューブで水と排泄は管理されているみたいだ。



じゃぁ、この音は?



”歓喜の歌”が響くたびに、何万という身体が小さく震える。



…まさか。



これで生かしているのか?



「すみません。見なかったことにさせてもらいます。」



僕は手を合わせてその人を少し拝んで、通路に戻ろうとした。



その時うっかり人の身体に当たりそうになった。



(やばっ!)



「すみません…!(小声)気を付けますから…」



僕は声を失った。



そこに横たわっていたのは明らかに




”僕”




だった。




(続く)

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