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第6話 N.S.K包送局


<<博士と狂人>>


磁気嵐のさなか、僕はエリサとデートしていた。

デート…とはいっても映写機のある街なかを歩くぐらいなんだけど。

ARGOの6カ年計画も、今年で3年目。

街を歩けば、もう半分アンドロイドみたいな人ばかりだ。


…まぁ、僕も人のことは言えない。


「後3年かぁ…」


「ユウは開拓者志望なんだよね。早く宇宙に行きたい?」


エリサに聞かれて改めて考えた。


「どうなんだろう?6カ年計画が始まった直後に両親が死んで、大学に使うはずだったその保険金でとりあえずこの右腕を買っただけで…。」


エリサは驚いたように僕を見つめた。


「そうなの!?大変なこと聞いちゃった。…ごめんね。」


僕は頭を振った。


「いいよ。まったく気にしないよ。勝手に話し始めたの僕だし 笑」


エリサは言った。


「じゃぁ…その腕はご両親の形見だね?だったら絶対に宇宙に出ないと、だね!」


そう言われて僕はそうだね、と返したが…


(僕は本当に宇宙になんか行きたいのだろうか?)


「キャッ!」


エリサの叫び声に驚いて振り向くと、路地脇にぼろ切れを纏った初老の男がいる。

僕は反射的にその男の前で右腕を振り上げた。


「待って!ごめん、大丈夫。彼もシルフみたい。」


エリサがそう言って僕と男の間に割って入った。


「ヒヒ…オ前…オレ…同ジ…ヒヒ。」


…なんだこいつ。


「オ前…一緒…俺」


…狂ってる。


エリサが悲しそうに言った。


「彼のこと、知ってる。どこかで…見たことある。あっ、そうだ!−確か、メタバース1.0を開発してた科学者のうちの1人よ。」


僕はとても信じられず、小声でエリサに言った。


「いや、こい…この物乞いが科学者だって言うのかい?」


エリサは続けた。


「そう…だと思う。私の住んでるミラバースにこういうかわいそうな物乞い…第5層とか深く潜りすぎて頭がおかしくなった元科学者が大勢居て…でも彼らはこっちに出て来れないはずなんだけど。」


彼は手首のQRコードを見せながら呟いていた。


「オ前…オレ…同ジ…コレ…ココ..」


(気の毒だけど…どこが同じなんだ?僕には仕事があって、まだ身体だってある…あ!しまった!)


そう思ってエリサの方を見た。


ー僕はなんて男なんだ。


「これ少ないんだけど…。」


僕は彼のQRコードに、僕自身が少しばかりチクリとするほどのお金を送った。これで僕の中の残酷さが少し消えてくれるなら安いもんだ。


ピッ


「ア…アア笑」


「ん…うん。これでしっかりとした食事とか…。」


その時ジャケット姿の男が駆け足で近付いて来た。


「あー、ちょっとちょっと。その人から離れて。」


エリサの顔に緊張感が浮かんだ。



<<N.S.K −National Sylpheed Keeper>>



その男は僕らに会釈をして物乞いに近づいて行った。


「すみませんね〜。ああもうダメじゃないですか。三上博士…三上さん。おうちあるでしょ?帰りますよ~。」


「あの。」


男は僕の方を向き直した。


「あぁどうもすみません。私こういう者でして。」


彼は胸元の名札を見せた。


「…N.S.K訪問員?」


「ナショナル・シルフィード・キーパー /シルフィード管理の…N.S.K包送局よ。」


「あれあれ?こっちの方もシルフさんですか?ちょっと照会させてもらいますね…あぁ、あなたは毎月きちんとお支払いいただいてますね。『ホログラムのためのN.S.K受体料』、いつもお支払いありがとうございます。」


N.S.K訪問員は物乞いの方をチラッと見ながら説明した。


「いやね、あの方逃げちゃったんですよ。N.S.K受体料1年分滞納して。なんで包送指令が出たんです。」


エリサは驚いた。


「な!?あんな…働けなくなってもN.S.K受体料払わないといけないの!?」


N.S.K訪問員は失笑した。


「もしかしたら、あなたもドアの横に”N.S.K訪問員お断り”のステッカー貼ってるクチですか?あんなもの役に立ちませんよ。苦笑」


N.S.K訪問員は微笑を湛えて言った。


「…これはシルフ民の義務ですから。貴女方がこちらに来るときの4K投影機などもN.S.K受体料で設置しているのですよ。」


「こっちに来ない人だって多いし、その…だったらもっと設置場所を拡げてよ!ーN.S.K受体料払ってるのに”つまんない”のよ!!」


…本当に、そうだ。


「私ただのN.S.K訪問員ですし、細かいことはN.S.Kのフリーダイヤルで聞いてください。」


彼は開き直って言った。


「さぁ‥行きましょうか三上さん。…おっと、ARGOが見ています。妨害は逮捕されますよ。これはプロトコル通りの仕事なんで。」


(…くっ。)


…結局3方からポータブルプロジェクターで文字通り”包まれた”三上さんはN.S.K職員にミラバースに送り返された。


(だからお金が必要だったのかな?)


エリサが怒って言った。


「…N.S.Kをぶっ壊す。」


「…まぁ落ち着いて。ひとまず…今は。」


僕はそれ以上かける言葉が出なかった。


「…こんな事ばかり。」


エリサは半ば諦めに近い口調で言った。


「‥この間もホログラム隔離政策に反対してたシルフの牧師がこっちで演説中に暗殺されたの。

一瞬で存在ごと"ctrl+X”でdeleteされた。‥私たちはもうARGOの筋書きに逆らえなくなってるの。」


‥僕には信じられなかった。


「そんな事…そんなことはARGOであっても絶対にいけない!そんな…!そんな世界はおかしい!!」


「…優しいのねユウは。」


そう言って悲しい顔で微笑んだあと、

エリサは僕の目を見た。



「あなたは絶対にデータにはならないでね。

‥約束よ。」


(続く)

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