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第12話 パラダイム シフト 前編

…僕は見慣れた天井を見つめた。

住み慣れたと思ってた部屋だったが、今はもうそうは思えない。


埃も溜まった部屋の角、少しぶつけてへこんでしまった壁の跡…全てが”わざとらしく”感じる。


冷蔵庫をどかせて壁の隅っこを見ると、created by ARGOと書いているんじゃないかとさえ思う。


…考えすぎはヤバい。なんとかここから出る方法を考えないと。


お気に入りのソファで寝返りをうつ。


ーエリサに会いたいな。

でもどこから話せばいいか…


僕もホログラムでした。って話すのか?

レイヤーが違うから触れられません、って?


…そんなこと言いたいわけない。


もしここが現実だったら話は別なのにな。


え、


いや、待てよ。現実だって?


もしエリサが同じようにつくばでデータ化された人だったら、エリサの身体もそこ(施設)にあるはず…。


なら一緒に現実に行けばエリサに触れられるんじゃないか!?



はは! まだ願望があった。


機械の身体で宇宙に行くとか、

超知能をブッ壊すとか、


今はそんな事どうだっていい。



現実で、エリサを抱きしめる。




……もう怖くない。




そうと決まったら早速エリサに会いに、


ん?


壁から…ボールペンが飛び出てる。



ははぁ、復元の時のバグだな。



僕のPCもクラッシュした時、復元をしても完全にもとに戻った試しがない。


こういうのは本来なら放っておくのが一番だ。またクラッシュする原因になるから。


でも、あえてそこに触れるとどうなる?


決まってる。


再クラッシュだ。


…そうだ、僕はこの部屋に痕跡を残しすぎた。


この部屋と一緒にコードに還った事にしたほうが都合がいい。


「…急がないと。」


ざっと部屋を見渡してみた。


ここは落ち着く自分の部屋なんかではなかった。ただのARGOにとって管理しやすいセルの一区画にすぎなかったんだ。


僕は一度鼻でため息をついた。


−−腹は決まった。


「行くか。」


僕はドアに向かって歩き出す。

途中で壁のボールペンに指を掛け、そのまま歩き続けて壁からペンを抜き取った。


…ペンの刺さっていた穴からじょじょにコードに分解されていく。


小さな穴から文字通り小さなバグ(虫)が拡がって壁一面を覆っていく。


お気に入りのソファ、窓、PC、両親の写真…すべてが文字に変わっていく。


僕はそのまま歩き続け、外に出た。



振り返るとドアの向こうはすべてが文字の渦中に飲まれていた。



僕はすべてに蓋をした。



もう部屋の中は、来た時のような味気ないブルースクリーンに戻っているだろう。


僕は顔を上げた。


そこにはARGOが描いた、もう少しましな青空が広がっていた。



ービッー


その時スクロールに通知が来た。

僕は恐る恐る画面を見た。


…ハマナカさん。


ーそうか、もう2週間ぐらい時間が経ってるんだったな!!


うわ~。面談。どうしよう…それどころじゃないんだけど…でも彼も現実に存在する人間…のデータなんだよなぁ。無下にはできないし。


「仕方ない、”これから行きます”っと。」


僕はスクロールでスタバつくば店をタップした。



《スタバつくば店》



…っと。 さて、どこだ?ハマナカさん。


「まだ来てないのかな?」


僕はショートサイズのコーヒーを注文して会話が響かなそうな席を選んで腰を据えた。


…しかし、ここもすごくよくできてる。

ずっと昔の記憶にある店内とまったく同じなんだもんな。

でも、ここにも僕の部屋のようなバグの痕跡があるとしたら? それは僕にとって武器になるのかな?


…でも一歩間違えたら自分や他の人達を巻き込む事になる。諸刃の剣だな。


「なんか思考がテロリストみたいになって来た …。」


そう言って思わず苦笑いをした。



「ーそれは見過ごせませんね。」


背後で声がする。


「誰だ!!」


僕は立ち上がり、振り向いた。


「…ここは勉強している人も多いので、お静かに。」


そこにはタイトなスーツ姿の、クールでいかにもエージェントという女性が立っていた。


僕の右腕に力が入る。


「…おやめください。処理温度の上昇はARGOに探知されますよ。」


「お前は一体…。」


なにか聞き覚えのある声だが、思い出せない。


「お忘れですか?無理もありませんね。あなたにとって私は対話型のAIでしたから。」


「な!」


僕は少し後ずさった。



「まさか…お前は


”EDEN”…なのか?」


その知性あふれる表情の目元が少しほくそ笑んだ。


(続く)



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