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第11話 ALPHAメタバース

「ユウ君!どおや?左足は?もうカクンカクンならへんか?」


包帯を取った僕の足を見たリーダーが言った。


僕は恐る恐る左足で地面を蹴る。


「…大丈夫そうです。まったく違和感無しです。」


嬉しそうな僕を見てリーダーは笑顔で言った。


「…もうこっち来て3日目か。んまぁ最初の2日は酔っぱらって寝てただけやけど 。」


そう言ってリーダーは笑ったが、僕は恥ずかしかった。


「や、…ほんとすみません。大本さん。」


「いや〜、ほんま笑わしてもろたわ。…機械化が5%以上進んでる奴が酒イッキするか!? …生身との整合性ズレで大爆発するところやったやないか!…まぁウケとったけどな 。」


大本は腹を抱えて笑った。


…穴があったら入りたい。まぁここは洞窟なんだけど。


「テロがテロされるとこやったわ。

あ…こりゃ失礼。」


すぐ彼はこういうおちゃらけをするのだが、そのたびに僕はヒヤッとした。


笑顔の大本は続けた。


「まぁ 、俺らが今の社会に合わん、ちゅうのは見てたらわかったと思うけどな。…で、ケガも二日酔いもなくなったとこやし、元の場所に返す前に、ユウくんに質問や。」


僕は姿勢を正した。

「はい!」


大本は突然低い声で言った。


「…どこまでこの世界の秘密知ってんねん?…全部話してくれるか?」


僕はこれまでの出来事を細かく話した。


聞き終えた大本は深いため息をついて…涙ぐんでいた。


「ユウくんは偉いなぁ…よう道踏み外さんと頑張って来たなぁ。」


人にそんな声をかけられた事がないので思わず僕も泣きそうになった。


(ーダメだ!まだ自分を憐れむんじゃない。)


僕は感情が溢れるのを堪えながら苦笑いした。


「…ありがとうございます。 でも結局やぶれかぶれで暴れて…最後は酒に逃げました。 」


大本は鼻を一度すすった。

「そら、誰でも一度はそうなる。ただその後立ち上がれるかどうか、で人の価値は決まるんや。…ユウくんは逃げたわけやないやろ?約束の酒やったやんか。」


ーそうだ。僕にはやる事があるんだ。


「そうでした。…僕はARGOを倒す。でもその為にはどうにかしてこの檻から出ないといけません。…僕らはデータですよね?どうやって外に出ればいいか…。」


大本は頭をかいた。

「ん~あ~勘悪いなぁ。」


そして若い仲間を呼んだ。


「おーい!こっち。」


はい!と若い仲間が返事をして近付いてきた。


「?」


大本の横に直立した瞬間、その大本にスリッパで頭を思い切り殴られた。


スパン!


「て!」


大本は怒鳴った。


「痛いわけないやろ!?スリッパやぞ!!」


気の毒な仲間は理由が分からないようだ。僕にも分からない。


「う、うす!」


「お客さん殴る訳にいかんやろ!?もおええ、行け。」


「は、はい!」


ただ頭を殴られた彼は走り去った。


物凄く気まずくなった僕は頭をフル回転させた。でないとまた誰かがスリッパで殴られる。


考えろ。考えろ!


一体僕は何を知っている?


何を見た?


そこに何があった?




…あ



そうだ。



なにか違和感がある。


僕らはデータ化された


…なら


…ならなぜまだ身体が施設に残っている?


データ抽出後の”抜け殻”はもう用済みのはずなのに。

いまだにあの施設に何万もの身体がチューブに繋がれて保存されているのはなぜだ?


答えは一つしかない。



まだ使うんだ。



…でもそれを逆手に取ったら?



「…まだ身体があるという事は…書き戻せるんですね?


…僕らを。」


大本はニヤッと笑った。


「…ピンポーン。」



<<別れの朝>>


日体大の皆が集まってくれた。総じて気のいい人達で、とても報道で言われているような恐ろしさは感じなかった。いざ帰る時にはエッサッサという得意の踊りで見送ってくれた。


大本は涙を浮かべながら、僕を熊のような腕でハグした。


「頑張れよ 。いざとなったら俺らもおるからな。て…痛いっちゅうねん!その兵器みたいな腕なんとかしぃな!!」


僕も涙を浮かべて苦笑いした。


大本は手ぬぐいを差し出した。


「じゃぁユウくん、これで目ぇ隠して。…これはユウくんの為でもあるんや。記憶覗かれてもここの場所出て来んさかいにな。」


僕は素直に従った。

「はい。お世話になりました。」


大本は僕が目隠ししたのを確認した後、僕をひょいと担いだ。


「わっ!」


「ほな、行こか。」


僕は担がれた状態で連れて行かれた。

途中一時的に船酔いのような感覚があった。

一瞬吐くかと思ったが、そういうのとも少し違って、なんか外れた感じだったなと考えているうちに地面に降ろされた。


大本が言った。


「まだ目隠し取らんといてや。30数えてからや。…じゃぁまた縁があったら何処かで会おな。…まぁ会うやろうけどなー30、29、28…。」


…3、2、1…。


僕は目隠しを取った。


そこは、前に僕が我を忘れて暴れたあの公園の芝生の上だった。


「どこにも…居ない?」


そこは30を数えたぐらいでは身を隠すとこなどない場所だった。


「大本さん?」


つむじ風がひとつ。


「はは…1人にしないでくださいよ。」


急に心細くなった僕は思わず呟いた。


でも…


(これが最後の弱音だ)


そう心に誓った。


ん?


あ、これ!僕のスクロールだ!!


大本さんが取っておいてくれたんだ!


「これは…?」


大本さんの連絡先!…スクロールの連絡のみで、さすがにポータルスポットはないけど。

でも、大丈夫なのかな連絡先。ん?なんかへたな字のメモがある。”量子ゆらぎ入り”… なんか”チョコチップ入り”みたいなノリだなぁ 。大本さんらしいけど…なら大丈夫か。追跡出来ないって事だよな。


”連絡はいつでもできる”か。

ーでもそれは今じゃない。



急に力が湧いてきた。


僕にはもう仲間がいるんだ。



「じゃ、まず帰るか。”自宅”、と。」


ブラックホールもクソも無いと知った今、なんの躊躇いもなくタップする。


氷風…のようないわゆる”付け足された”感覚が背筋を通り抜けていき、


あっという間に僕は自宅に書き出された。


「三上さん達か、それともARGOなのか知らないけど、ただのコピペにたいそうな仕掛けを考えたもんだ。」


そう呟いた僕は自宅に着いた瞬間言葉を失った。


「…!」


自宅…僕の部屋。


は?


ーなんだ、おかしいぞ?



真っ青じゃないか。

周りは白い線…。


−僕はいったいどうしたんだ?


身体はどこだ?


なっ…!


僕と世界に厚みが…ない!


すべてがぜんぶ青い世界に浮かぶ白い線になってる。あ! 一つだけ点滅している線がある。


この光景どこかで


…この青と白の点滅


そうだ!昔、趣味で触っていたPCのWindows――あのブルースクリーンだ!


真っ青な画面に白い英語だけが並んでいて…コンピュータの基本ってつまんないな…って思ったっけ。


それを横から見ている、のか?


画面の中でブルースクリーンそのものを横から眺めているんだ。


つまり僕ごと部屋の中がバグった、ってことか。


あぁ~。


今度こそ詰んだ。


これは…棒人間になにが出来るってんだ…。



《大本の声》(…そっから立ち上がるかどうか、が大事や。)



クッ…そうだった。


そうだよ。こちとらギークだぞ! なめるな。



…直してやる。



僕はブルーの世界を見渡した。

たぶんあの”チカチカ”がコマンド入力場所だろう?

僕はスクロールをここのバーチャルキーボードにしてコマンドを入力することにした。


…僕の姿もスクロールも文字の羅列に分解されてしまっているけど、別に形として存在とかしなくてもいい。


とにかくビット…情報として存在していればそれで十分だ。 この世界では目を瞑って行動しているのとなんら変わらないんだから。


よし、まず入力系にリンクしてやる。それから…。


こんな感じの文字通り手探りの修復作業が始まった。


《20分後》


そう…そのまま、…改行して


”rstrui.exe"


復元プログラムを呼び出し、最後にエンターキーを叩いた。


一瞬で闇に包まれる。


これで、周りを巻き込まずにゲストOSである僕の部屋だけ、壊れる直前の状態に戻るはずだ。


ー上手くいけば、だけど。


…しかし何度も気を失うんだろうな。




…どれぐらい時間が経ったのだろう?


途中、再起動という名の起床と爆睡が繰り返され、ついに元の自分が部屋の構築とともに現れた。


家にあった古いPCを売らなかった親に本当に感謝した。


でないとこのさき一生、青空のもと白線とチカチカする線だけに囲まれて過ごさないといけなかったところだ。


「…どうですか、大本さん。

エリサ…まだ…まだ諦めないぞ!!」


そう言うと僕はどっと疲れが出て、再生されたばかりのソファに身を投げ出した。


さっきまでただの白い線だったソファは

柔らかく、僕を包むように優しく受け止めてくれた。


(続く)


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