17 初日
【主なⅭAST】
劇団どろだんごオールスターズ
メー(八木):二年 受付お手伝い
小屋入り三日目、本番初日の朝が来た。各自朝食をとり、ミーティングまでに済ませるべき各自の作業を進めていると、ドラの友人で去年の本公演でも受付をしてくれた八木がロビーへ顔を出した。
「メーちゃ~ん、ありがとね」
ドラとカメがたたたっと駆け寄って迎える。
「はーい、カメちゃん、よろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「今年はお金を扱わないから去年よりも忙しくないと思うけど、差し入れが増える見込みなんだ、じゃ、楽屋に荷物を置いてもらったら早速受付の説明始めていい?」
「オッケー」
清潔感のあるコーディネートでまとめた二人目の看板娘(一人目は言わずもがなカメである)が到着したことで、今回の本公演のメンバーは勢ぞろいした。
そのはずだったのだが、ミーティング開始時間でもある集合時間にバッキーの姿がなかった。遅刻などのペナルティ対象事項とは無縁の存在の不在をいぶかしみ、レッドが電話をかけてみるも、出ないというか「おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないためかかりません」のアナウンスになるとのこと。
「いつも留守電になるんだけどなぁ……」
首をかしげるレッドを始め、舞台上に集まったみんなが「事故とかじゃないよな」などと顔を見合わせていたとき、ナギが「あの……コロさん、ちょっと……」と小声で話しかけてきた。ロビーの方をそっと指差してしている。みんなの前では話しにくいことなのかと感じ「ちょっと待機」と指示をしてナギを連れて輪を離れる。そこそこの緊急事態の最中に密談とは何だろうと思いながらロビーへ出て、客席に通じるドアをコロが閉めるとすぐにナギが口を開いた。
「あの、バッキーさんですけど、多分、大丈夫です」
「え?何でわかるの?」
「実は……」
ナギはより小声になってこう続けた。
「バッキーさんって通話用以外にもう一台、データ通信用の端末を持ってるんです。それ専用のメアドからさっきメールが来てて、それが、これで」
そっと自分のスマホを懐から出すナギ。そんな連絡手段があったなんてコロは初耳だった。
「見ていいの?」
「はい」
メールアプリに表示されていた文面はこうだ「ナギへ アクシデントがあっていつものスマホは使用不能だけどケガとかはない、集合時間には遅れるけど本番には間に合わせるからコロにだけ伝えて予定通りに開演準備を進めてもらって」後ろには署名も何もないが、送信元のメールアドレスを確認したところバッキーからのものだと推測されるTOMOという文字列が見て取れた。
「……これ、レッドとかピョン吉には届かないやつよね」
ナギが「はい」という感じでゆっくり首を下げる。
「ナギしか知らない、ないしょのやつなのよね」
さらに声を抑えて尋ねるコロに対し、顔を赤くして頷くナギ。
「ありがと、絶対秘密にするから!」
コロはナギを正面から見つめ、ナギの両肩に手を置いて軽くうなずいた。憂いの消えた力強い足取りで勢いよくドアを開けてロビーから舞台上に戻り、声を上げる。
「はいはい、今はスケジュール通りやることやってバッキーさん待とう、いざとなればオペは代わりがいるから心配しないで!ミーティング始めるよ!」
劇場に漂っていた不安な雰囲気を拭い去るように号令をかけるコロ。だがその心には誰にも明かすことのできない別の感情も踊っていた。
(ああぁ!全然気付かなかった、ちくしょー、若いっていいなあ!)
集合時間に遅れること三時間と少し、十二時寸前にバッキーはやってきた。聞かれるよりも先に早口で事情を説明する。
「今朝、実家を出てすぐのとこで原付に突っ込まれてさ、なんとか避けたんだけど荷物をやられちゃって携帯はお亡くなり。実家から借りてきたヘルメットと極厚のグローブをはめた格好で歩いてたのが幸いして、頭も手足も無傷だよ。念のため病院も行ってきたけど問題なしだから」
全員が安堵の表情を浮かべ、場の雰囲気は一気に明るくなった。コロはちらりと人の輪の外側でひかえめな微笑みを浮かべているナギを見て一人うなずき、両手をパンパンと鳴らして合図する。
「はい、メンバーはそろった。お昼食べて開場準備するよ!」
嵐のような舞台周りの動きと並行し、カメとメーは受付の最終準備に入る。二人の控えるロビーと呼ばれるこのスペースは幅四メートル奥行き五メートルほどの空間と男女のトイレが一つずつ、表の通りにつながる大きなドアと舞台スペースへの入口が二つ、二階へ上がる階段が備わっている。受付用品としてはどろだんご看板、長机と椅子、敷布、差し入れ対応用ののし紙(短冊)と記録用紙、雨天時用ビニール傘袋、受付の目印と注意事項を記載したアナウンス張り紙、各種事務用品だ。まずは長机の設置場所を決め、テーブルクロス的に敷布で机の足元のスペースが隠れるようにセッティングしていく。折りたたまれた敷布を二人で広げ、ふわっと机に載せる。
「この布って雰囲気いいよね、どろだんごにちなんでお団子の柄っていうのがまたかわいい」
「このお団子の刺繍、昔の先輩方の手作業らしいんですよ、すごいですよね」
正面にそのあしらいが来るように調整し、用品を配置する。今回来ていただいたお客さんにお渡しするものは、公演パンフレット(劇場広報ペーパー及び折り込みチラシ一式入り)、アンケート用紙(クリップ鉛筆付き)、ビニール袋(靴袋)、チケット半券代わりの「観劇証明書」で全部だ。
「あたし、初めて部室棟でどろだんごの公演を見たとき『靴脱ぐんだ!』って驚いたの覚えてるよ。受付で渡されたビニール袋は何に使うんだろうと思ったけど、椅子席じゃなくって座布団に座るってわかってこれかぁって。きちんとした靴下履いて来ないとだよね」
メーの初観劇体験談にカメが反応する。
「ご飯屋さんのお座敷に上がるときか、小劇場の観客席くらいですよね。大きなホールなんかは固定の椅子席も多いですけど、昔ながらの芝居小屋って感じがして私はこっちのほうが好きです」
小劇場というのはその名のとおり、観客席の数が少ない小規模な劇場のことを指す言葉で、東京下北沢のザ・スズナリ、駅前劇場などが代表的な存在だ。いわゆる「商業演劇」の上演される大規模な劇場との対比での呼称だが、そこを主な活動場所にする劇団の括りとして「小劇場系」のようにまとめる言葉でもある。古くは寺山修司・唐十郎・蜷川幸雄らのレジェンドから、野田秀樹・鴻上尚史・成井豊・三谷幸喜・KERA・松尾スズキ・宮藤官九郎らを経て本谷有希子・村上大樹・蓮見翔らに続く系譜である。
「今じゃ有名になった俳優さんもこういう小さな会場で見られたときもあったっていうもんね、どろだんごからもその可能性あったりして」
「そうなったらすごいですね~」
一般人とも言えるメーの感覚からすれば、やはり劇場に来た時には役者の顔と名前が頭に残るようだ。個性的なネーミングなら劇団名も辛うじて覚えてもらえるかもしれないが、スタッフの名前に記憶領域は割かれないだろう。そんな目立ちようのない存在で、まだ二公演目の受付業務だが、カメは自分ができることを少しずつ積み上げてきたことを自信にできていた。頼もしい相棒がいることもあり、前回よりも一層しっかりと役目を果たそうという気持ちになっていた。
役者、オペレーター、受付以外の動きをするスタッフは三人。どんはQの記録プランに基づき、舞台写真の撮影とビデオ録画を担当する。舞台全体の映像は楽屋モニターとつないだカメラで押さえ、どんの操作する機材で要所でのズームアップ映像と印象的な場面の静止画を収める。カッパは場内の安全管理のために客席に目を光らせ、途中入退場者などへの案内も行う。コロは前説をする時間以外は受付のフォロー、加えて公演全体を統括する者として突発事態への対応を行う。開場は開演の三十分前の十三時三十分、入場待ちのお客さんが多くて入場処理に時間がかかることが見込まれる場合は、開演時間までの余裕を持たせるために開場時刻を早めることもある。劇場前の様子を見に行っていたコロが戻って来て受付の二人に「開場、定刻通りで」と伝え、客席からオペ室と楽屋へ「それでは開場します、よろしくお願いします!」と伝達する。劇場内に心地よい緊張感に満ちて気合が入り、心拍数が少し上がる瞬間だ。カメもすっと深呼吸し、背筋を伸ばした。カッパがロビーから屋外に通じるドアを開け、最初のお客さんが入ってきた。
「ようこそお越しくださいました、お足元の表示に倣って、こちらで受付をお願いいたします」
看板娘ズが笑顔とよく通る声で迎え、足跡をかたどった床の表示を案内する。そのマークに靴を重ねてもらえば、自然に列が形成されるという知恵である。お金のやりとりがないため、セット一式をお渡しして向かって右手の客席入口を案内するだけなのだが、事前告知の効果なのか差し入れが予想以上に多く、のし紙を書いていただくのに多少時間を費やすことになった。それ以外はさほどの混乱はなく、最初の波をさばき切ったところで開演までは残り十分、コロが再び外の様子を確認に向かった。カメとメーは(ふう)と息を吐き飲み物を口にした。それにしても差し入れが多い、打ち上げ用ということでお酒やおつまみ、お菓子などが主だがのど飴やホットアイマスクなどもある。それらが三段ある作り付けの棚の半分近くを埋めていた。
「差し入れすごいね、ここの棚だけじゃ明日の分まで入りきらないよ」
「お品は別の所に置場を作って、お名前のリストだけ張っておくのでいいか相談しますね」
コロが落ち着いた表情で戻ってくる。
「外にお客さんはいないから、定刻通り開演するよ。じゃ、前説行ってくるから、オペ室にも伝えて」
カメはうなずいて会場へ入るコロのために観客入場用のドアを開ける、その際に漏れ聞こえてきたざわざわという客席の音とスモークマシンが吐き出す煙の独特の匂いに、会場内の温度が高まっているのを感じた。
コロが「前説花子」というでかい段ボール製の名札を首から下げて舞台最前列に上がり、大振りのジェスチャーを交えながら公演中の注意事項を説明し始める。
「皆様、本日は劇団どろだんご第二十六回本公演『冬の空耳』にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。開演に先立ちまして、注意事項をお伝えいたします、公演の妨げになりますので、音や光の出るものは電源をお切りくださいますようお願いいたします。また、場内は飲食禁止となっております。公演中、お体の調子がすぐれないなどお困りごとがございましたら、出口付近におりますスタッフにお声がけください。約二時間の公演でございます、途中休憩はございませんので、お手洗いなどは今の内にお済ませくださいますようお願いいたします、ロビー受付左右にございます。それでは、開演まで今しばらくお待ちくださいませ」
頭を下げるとなぜか拍手が湧く、おそらくその多くは関係者によるものだ。舞台を下りて客席の左側の通路を戻り、ごそごそと携帯電話などの操作している観客の様子を横目に見ながらカッパと「よろしく」とハイタッチを交わしてコロはロビーへ戻った。
客席には開場時から客入れ曲と呼ばれるメドレーが流れている、今回の公演の雰囲気に合った曲をメンバーから募集し、レッドが構成を考えて組み上げたものだ。今回は著作権の問題をクリアにしたことにより、より幅広い候補からそれぞれが思い入れのある一曲をチョイスしているので、開演までの袖内や楽屋、オペ席などで選曲者の気持ちを盛り上げる一助にもなる。開演時間が延長したときのための追加トラックも準備されているが、どろだんごの伝統として開演直前に流して場内の観客と役者およびスタッフの気分を盛り上げる曲は決まっている、メンバーには問答無用でテンションが上がるように体に染み付いているグレン・ミラー・オーケストラによる「イン・ザ・ムード」だ。タイトルを意訳すれば「芝居の気分だ」となる、どろだんごとの出会いから始まり、初舞台から全ての公演にその音は響いている。
マチネは無事に終演した。カーテンコールの後は客出し、お礼のごあいさつをしながらアンケートと靴袋の回収を劇団員総出で行う。芝居の感想を直接聞ける貴重な機会でもあり、遠方から来てくれた友人知人との旧交を温める場にもなる。最後のお客さんが劇場を出たところで扉を閉め、ロビーでルーカスを全員で囲み、チャーシューの声掛けで初舞台をやり遂げたお祝いをする。
「初舞台おめでとー!」
「ありがとうございます!」
「あと二ステージよろしく!」
「ういっす!」
続いてソワレの準備に入る。軽い食事と水分補給をしながら、小道具と特殊効果、着替え用の衣装の再セッティングを時間に追われながら進める。小屋入り前に大学へ取材に来ていただいた地元情報誌の方が写真撮影においでになったので、チャーシューが対応する。今日中にもネットに公演初日の情報を掲載してくれるとのことだった。イチのイラストのつないだご縁である。
ソワレ開場二十分前に劇場前に列ができ始めた、マチネよりもお客さんが多そうな雰囲気を感じたコロの判断で十分前倒しで十七時二十分に開場する。差し入れも引き続き多く、入場処理がぎりぎりだったため開演も五分押しとなった。前説も開演五分前に最後に入ったお客さんが座る前に始まるギリギリの進行、ロビーでは差し入れに埋もれるメーがてんやわんやになっていた。
「もう棚いっぱいだよ、瓶のお酒割らないように下ろしていいよね」
大きくうなずきながら棚を整理し、机の上を整えていたカメはパンフレットの山の低さに気付いた。
「残りが四十ないってことは……うそ、今日だけで百六十人以上⁉」
ソワレそのものは大きなトラブルもなく終わったのだが、大入りだったこともあり客出しが長引き、最後のお客さんの見送りを終えた時刻は二十時三十分を過ぎていた。
「みんなお疲れ、楽日の準備は後回しにしてご飯とお風呂行こう」
開場とロビーの間の扉を閉め、コロが疲労困憊となっているみんなに呼びかける。
「銭湯が先のほうがいいよ、今日二十二時終わりだ、役者陣はメイク落とし速攻で!」
バッキーがタイムコントロールし、情熱の染み込んだ匂いのする洗濯が必要な衣装を携えてスタッフ専任チームが先発で劇場を出る。百人劇場という名前が示すとおり、客席の定員の目安は百人だ。椅子席ではないのでお客さんに前後左右にお尻を詰めてもらえば若干の上積みは可能だが、現実的には今日のソワレくらいの観客数がまともに観劇できる限界だと思われる。受付周りのスタッフのアンテナが危険を察知し、明日への不安が高まっていた。
手早く湯船から上がって合流し、栄養補給をした後に全員で現在の情報を共有のうえ、楽屋で明日の対応について検討の場が設けられた。
【明日どうするか緊急会議!】
カメ「だいたいですけど、マチネが七十、ソワレが九十の観客数です」
カッパ「やっぱり、ソワレぎゅうぎゅうだったもんね」
どん「カメラ席の周りもいっぱいだったよ、マチネはまだ動けたけど」
バッキー「なんか今回お客さん多くない?去年の本公演って確かトータルで二百もいってないよね?」
チャーシュー「まあ、千穐楽は一回だけの公演だし、ソワレくらい来ても大丈夫だろ~」
マリ「今日で大半のお客さんは来たんじゃないか?うちの普段の動員数からすれば明日は拍子抜けするくらいガラガラかもしれないぞ」
コロ「でも、受付や客出しで見てると常連のお客さんがそんなに来てない印象なのよ、連絡があった先輩方も明日来る人たちが多いし、客席に入りきれないなんてことになったら……」
タロ「この劇場の百人っていう定員は法律で決められてる基準で、何かあったときの避難態勢を確保するためにあるものだから厳守しないとダメだよ。仮にぎゅうぎゅう詰めにして全員入れたとしても、見づらい・危険・使用義務違反になっちゃう」
ハッシー「見られないで帰ってもらうっていうのは避けたいけど、客席のスペースはもう増やせないもんねぇ……」
レッド「……なあ!思い切って追加公演っていうのはどうだ?前にここに観に来た劇団で、楽日はマチネだけの予定をマチソワ(マチネとソワレ)の二回公演に変更してるとこあったぜ。そうすりゃ追加であと百人は受け入れられる!」
ドラ「う~ん、劇場の使用料に公演回数は影響しないけど、バラシが間に合うかな?撤収時刻の二十二時は動かせないよ」
タロ「計算してみよう、マチネの客出しを終えるのが今日並の入りなら十五時半過ぎ、休憩と準備で一時間半余裕を見て十七時開場十七時半開演で追加のソワレをやって、客出しまで終わるのは二十時とすると、撤収までのリミットは二時間か……ちょっときついかも、今はバラシを三時間で予定してるよね?」
コロ「若干の余裕は見てあるけど……他に追加公演をやる場合に対応が必要なことはある?」
マリ「トラックは借りる時間の長さを決めて予約してあるけど、返す時間を伸ばして延長料金払えばいいって話になってるから予算が許すなら」
イチ「パンフレットは三百しか部数がないけど、用紙は予備を持って来てるからコンビニでコピーしてあと百なら追加を作れる」
カメ「観劇証明書は印刷所のオマケ分があったのでプラス百いけます、マチネの限界人数を設定して受付をしたら、ナンバリングした分を整理券がわりに配ってソワレのお客さんの数を把握します」
どん「消え物(舞台上で実際に食べることでなくなる食品)はコンビニか商店街のスーパーで一回分なら追加調達できると思う、スモーク液も余裕はあるよ」
ドラ「打ち上げ会場はいつものとこで、差し入れ頼りのつもりで飲食物頼んでないからキャンセル料は高くないわ」
ナギ「音響機材は劇場の備品だけでやってますから影響なしです」
ピョン吉「施設課備品の照明の借り物は来週中の返却になってるので問題なしです」
Q「記録もどんさんとノスケの個人機材なんで大丈夫です」
ハッシー「本当にやるなら明日来る予定のとりいそぎにバラシ用の人員を出させるよ、夏にさんざん手伝ったんだから嫌とは言わせない、あいつらここのバラシ一回やってるし」
カッパ「とりいそぎの子たちに会場外の列整理と追加公演のアナウンスも頼めるかな?受付がパンクすることも想定して」
バッキー「あ、もう一つアイディア言っていい?楽屋にモニターあるからさ、お客さんがあふれる最悪の場合を想定して、先輩方は楽屋に上げてそこで見てもらうってのは?もしよければって条件つきだけど。いわゆるクローズド・サーキット」
コロ「それも保険で、カッパさんにマチソワの人数配分の対応お願いします。ノスケはなるべくいい状態で見られるよう調整を」
カッパ「わかったわ、マチソワの人数を把握できたらどっちかで席に余裕があれば下で見てもらえるもんね」
ノスケ「最高の状態にします!」
コロ「楽屋の荷物も今日中にできるだけ撤収の準備をして、差し入れも搬出用の段ボール組んで楽屋へ上げちゃおう。受付の後ろにのし紙だけずらっと貼って、それが終わったら疲れを残さないように今日は就寝!」
メー「明日のマチネに来た分も順次そうします。少しでも混雑を緩和するためにのし紙書いていただくのはやめてお名前と品名だけ控えるようにします」
コロ「あとはいい?じゃあ朝のミーティングは一時間前倒しの八時から、朝食とったら楽屋整理して各自作業を進めておいて。疲れてるところに追加の作業になっちゃうし空振りになるかもしれないけど、そのつもりで準備お願い、追加公演をやるかどうかは明日の客入れ三十分前にあたしが判断する、チャーシューさんそれでいいですね」
チャーシュー「合点承知の助!みんな、忙しくなるが、無難に最終日をこなすんじゃなく『面白くなってきた、いっちょチャレンジしてやる!』って気持ちで楽しもうぜ!」
【会議終了!】
最初は楽観論と慎重論がまぜこぜで、ぎゅうぎゅうになった客席への対応策の方向をつかみかねて宙を仰ぐような雰囲気だったが、そこにレッドによるコペルニクス的転回がぶち込まれた。空間的に限界なら、時間軸上に新たな機会を作り出せばいいという発想だ。「そんなことができるのか?」と実現可能性について疑問符が多くのメンバーの頭に浮かんだようだったが、各自が自分の担当するスタッフでの対応を具体的に考え始めたら話は早かった。
演出のチャーシューの即答もアンコール公演まであったという評判が立つのは願ったり叶ったりゆえなのだろう。演出というスタッフは幕が上がればあまりすることがない、何か気になることがあったとしても修正している余裕がないことも多いし、本番前でピリピリしている役者やスタッフに注文をつけることの難しさもあるから触らぬ神に祟りなしの心境だろうか。それに比べて舞監は舞台上でもそれ以外の場所でもトラブルが発生すれば臨機応変かつ実務的な対応が求められる。コロが本公演ではキャストをしていないのは、舞台の後方支援を機動的に行えるからという考えでのことだという。幕が上がれば実質的なリーダーは演出ではなく、舞監になるというのが定説なのだ。
方針を受けてハッシーが鴻巣に連絡する。
「もしもし、明日来んのよね」
「楽日に失礼します、バラシお手伝いしてもいいっすか」
「当たり前だ、可能な限り引き連れて来い!特におまえは朝イチだ!」
「あ、朝イチっすか⁉わ、わっかりましたぁっ!」
「着いたら私の電話鳴らせ、他のメンバーは昼食べて十二時前ぐらいでいいぞ。わかったらさっさと寝ろ」
「はいっ‼おやすみなさいっ!」
カメはふと気になってとある口コミサイトをのぞいてみた。
【百人劇場の劇団どろだんご本公演、すげえよかった!入場料無料でこのクオリティはヤバい!明日の十三時で千秋楽なのでぜひぜひ見に行くべし!あと、差し入れ大歓迎とのことなので日持ちのいい物どしどし持ってくとよき】
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(え……、これ、大丈夫かな?……でもまあ、考えても答えは出ないし)
大学生になり、いや、「どろだんごの民」となって少し神経が太くなったカメはそう割り切って睡魔の導くまま、一年生女子という属性に配慮して割り当てられた機材倉庫という名の個室に敷いた布団の中で眠りに落ちた。その他のメンバーはチャーシューほかのいびきの響く楽屋で男女ごちゃまぜの雑魚寝である、もはや誰もそんな程度のことは気にしない関係性がそこにはあった。
コロは配慮に深く感謝し作業に戻った。十時ごろ、作業に区切りをつけたチャーシューとマ




