狂乱ベアトリーチェ
シルミーネの町を出て二日が経とうとしていた。次の村までは一本道の街道を進めば良いとシルミーネで教えてもらった。そろそろ教えてもらった村が出てきそうなんだけど、馬車を御者するルーの顔は芳しくない。
恐る恐る彼に今の状況を聞いてみたが、目を疑ってしまった。
「ルー、どうしたの?」
「ああ、アーシャはこの地図を見てどう思う?」
「どれ、見せて?」
ルーに見せてもらった地図は、目印も無く、シルミーネと次に向かうボアーリ村が一本の線で繋がっているだけであった。私は、心の中でジョヴァンニさんに対して懐疑的な見方をしてしまう。
「そうなるよな」
「俺もそいつを見た瞬間に、詰んだと思ったよ」
(とりあえず、馬の疲労も溜まってきてるから今日は、この辺りで野営だな)
「アーシャ、ファビアに伝えてくれ。あそこに見える川の横で野営するから、着いたら食事の準備してくれって」
「はーい」
「ファビ姉、川の横で野営するから食事頼むってルーが言ってるよ」
「ええーっ。また野営するの?いい加減体洗いたいんだけど」
「ルーも地図見ながら頭抱えてたよ。何か辿り着けないみたい」
「そうは言ってもね、明日には着かないと食料ヤバいわよ」
(そろそろ沈黙を破ってアーチェがキレそうだな。出来るだけ距離を置く方が得策か?)
川のほとりに到着すると、大きな楠の木の下で、無言のままのルーが、テントを設営していく。
私とファビ姉も飛び火を恐れ、ルーのテントから少し離れた所にテントを張っていく。
ルーが設営していると、背後にとてつもない、負の感情というオーラを纏った姉様が笑顔で立っていた。
姉様の気配を察したルーは、難を乗り切ろうと思考をフル回転させる。
ルーの作戦は、姉様がキレる前に立ち上がり、ジョヴァンニさんから貰った地図を見せつける。そしてジョヴァンニさんの所為だと言い切って難を逃れる作戦だ。
まぁ、妥当な作戦だろうと思うけど・・・
「アーチェ!これを見てくれ!」
「パシュ!」
ルーが立ち上がり、地図を見せた瞬間、音速を超える水玉が地図を貫通してルーの額を捉えた。
そう、残念ながらキレた姉様には何も通じないのである。
「パシュ!パシュ!」
姉様の無言の攻撃は、全てルーの額を捉える。一発目で既に意識がないルーの額を容赦なく次弾が命中しルーを吹き飛ばすとリミッターが外れてしまった。
これ以上はヤバいと判断した私は、姉様を止めに入る。
「姉様ダメ!死んじゃう!」
「パシュ!」
「何で私まで・・・」
狂乱状態の姉様の水玉は、止めに入った私の額すらも撃ち抜いた。
「もう無理よ!二日も体を洗えていなもの!」
「いっそこのまま、コイツらの血で体を・・・」
「はぁはぁ」
「バキッ!」
狂乱状態の姉様の後頭部を何者かが殴打する。
「うっ!」
前のめりに倒れる彼女を、呆れた顔で罵る一人の女性が、混沌とした場を治める。
「何バカな事してんのよ、こんなんだからいつまで経っても、貰い手が見つからないのよ!」
「面倒すぎでしょ!」
冷静沈着なファビ姉の一撃で場は治ったが、三人が白目を剥いて倒れている横で、鼻歌混じりで料理を作り始める光景は何とも言えない。
「後一食分ぐらいしか無いわね、まぁ明日には何とかなるでしょ?」
「ゔぅっ」
「あら、アーシャ目覚ましたみたいね。こっち来てご飯食べなさい。」
目覚めた私が見た光景は悲惨なものであった。
(ゲッ!ファビ姉がキレたんだ)
「食材があんまり無いから今日は早い者勝ちよ。サッサと食べてしまいなさい」
「うん、わかった」
川のほとりでの事件は、ファビ姉という一人の女性により見事に解決して、幕を降ろした。




