新たな旅路へ
「今日はありがとうねアイリス。結局最後まで手伝ってもらったわね。どうぞ、ファビア特製カクテルよ、心配しなくてもアルコールは入ってないわよ。」
「はは、ありがとう。正直言って忙しかったけど、それ以上に十分楽しんだから良いわよ。アンジェリカも泣くこと無く終始笑ってたし、今なんて疲れて寝てるぐらいよ。」
「逆にお礼が言いたいぐらい」
「カタッ」
アイリスさんの横に座り、考え事をしながらが私はカウンター越しのファビ姉に質問をする。
「ファビ姉、ルーが手品をやる前に姉様がね、ルーが手品で私に必要な事を見せるって言ってたんだけど、見ててもいつもと何かが違うっていうぐらいしか分かんなかった。ファビ姉は分かる?」
「うーん、そうだね長い付き合いだから何となくは分かるわよ。でも、それは教えられないかなー。アーシャが見つけないと意味ないと思うし、宿題ぐらいの考えでいいんじゃない?」
「アイリスさんは、分かる?」
「さすがに私には分からないわよ。私も雰囲気が違うってぐらいしか分からないよ。それより、そんな眉間に皺を寄せてたら、可愛い顔が台無しよ。」
「うーむ」
「そんな腕を前に組んで考えても無理よ。観点変えないとダメよ」
(考え込んでも仕方なさそうだね、これからはルーと姉様のやってる事ちゃんと見てみよう)
「まだまだ子供のアーシャには早かったかしら?」
「姉様!子供じゃないよ!」
(子供扱いされるのは、イーッてなるから、もっと優しく言ってよ!)
「ふーん。どの辺が子供じゃないの?私を前に言えるかしら?」
果実酒を飲んだ姉様の素肌は、仄かに紅くなっていて、いつもの美麗さに拍車をかける様に、鮮やかな色気を放っていた。
「そんな妖艶な姿見せつけないでよ!」
(最悪だ、めっちゃ酒呑んでる。ダル絡みじゃん!)
「はは、アーチェその辺にしときな可愛いそうだ」
(ルー!さすが団長!その女豹なんとかして!)
「貴方の教育が甘いから、アーシャがぜんぜん成長しないのよ?」
(ヤバ。こっちに飛火しやがったー。って呑めもしないのに、そんな度数の高い酒呑みやがって・・・)
「うぜぇ!誰だ、アーチェに酒飲ましたの!コイツに呑ましたら後が大変なんだぞ!」
「パシュ!」
勢いで言葉を漏らしてしまったルーに、無情な水玉がルーの額を打ち抜く。
「す、すまないアーシャ。俺じゃ無理だ」
「バタン・・・」
(団長なのに弱すぎじゃんか!)
「姉様やりすぎだよ!」
「って寝てんじゃん!何よこのグダグダ!」
「ファビ姉!何とかしてよ!」
「無理。私も酔ってきた」
姉様の酒乱騒ぎで、今宵の宴は終わりを告げた。
明くる朝、私とアイリスさん以外の皆が二日酔いという、大人の特権みたいな事情で寝坊してくると、私は三人を無視してアンジェリカの相手をする。
「アンジェリカ?アレは悪い見本だから真似しちゃダメよ。大人なら節度ある飲酒をするべきだわ。そうよね姉様?」
(くっ、アーシャに何も言い返せないわ。)
「アーシャ、あんまり虐めてやるな」
「あら、おはようございます団長。ベッドまで運ばれた気分はどう?」
(ヤバ、めっちゃ怒ってるな)
「ハハハ、それぐらいで許してあげなよ」
「アイリスさん!まだまだ足らないよ!あの後アイリスさんと二人で、片付けとか大変だったんだから!」
「ごめんなさい。反省してます」と諸悪の根源を中心に、私達に謝る三人だが、二日酔いのせいで、今にも口からキラキラが出そうな表情だ。
「はい、どうぞ。二日酔いにはこのスープが効くわよ」
アイリスさんの作ってくれたスープは、三人の荒れた胃にも心にも優しく、彼等を癒していく。
「もう次からは気をつけてね!」
「うっ。は、はい」
「すまないアイリス、色々迷惑かけたみたいで」
「いいわよ、久しぶりに私も楽しんだもの。アターシャがアンジェリカを見てくれてたし、いい気分転換になったわ」
「じゃあ、そろそろ家に帰るわね。楽しかったわよ、ありがとう」
「私、家まで送ってくるね。」
「ああ、気をつけてな。アイリスありがとう」
力無く手を振り、送り出した三人は反省しながらも、荷造りを始めるが、その動作は町を徘徊するゾンビを思わせる。
「アイリスさん、ありがとう。私一人だったらと思うと怖くて身震いする」
「ハハハ、これからのアターシャの事を思うと大変ね」
「ん?また何か考えてる?」
私のの表情が少し暗かったのを見逃さなかったアイリスさんは言葉を掛けるが、それは杞憂だよ。
「大丈夫。アイリスさんや町の人達に沢山良くしてもらったけど、ちゃんと恩返し出来たかなって思っただけ」
「フフ、大丈夫よ周り見てごらん。皆アターシャに手を振ってくれてるわよ。これが、貴方達がこの町にもたらせた物よ。正直言って貴方達が来るまでは、活気があまり感じられなかったわ。胸張っていいわよ、この町の雰囲気変えちゃったんだし」
「そうかな?そう言ってもらえると頑張ってよかったよ」
「フフ、着いたわね。送ってくれてありがとね」
「アイリスさん、アンジェリカ抱っこさせて?」
「フフ、いいけどあげないわよ」
「ガチャ」玄関先で喋っていた声に気づいた旦那さんが、家から出てくると、花壇の花達が騒めき出した。
(今日も元気ね、家族が集まって嬉しそう)
「ジョヴァンニ、帰ってたの?」
「ああ、マジーアのアターシャじゃないか!送ってくれたのか、ありがとう。それにしても昨日のステージは最高だったな。」
「来てくれてたんですね!ありがとうございます」
「ハハ、お礼を言うのはこっちだよ。アイリスから聞いたよ、アンジェリカが笑うようになったのはアターシャのおかげだって。最初は疑心暗鬼だったけど、ステージ横で笑ってるアンジェリカを見たら信じるしかなかったよ」
「信じてなかったの?」
「そりゃ、俺達が何やっても笑わなかったのに、指鳴らしただけで笑ったなんて、実際見るまでは分からなかったよ。でもステージを観に行って分かった。この娘が俺達の天使に笑顔を与えてくれたんだって。」
「ありがとう、アターシャ。いつまでも応援してる」
「そんな・・・」と、お礼を言おうとした私の唇にアンジェリカの小さな手が触れる。
「余計な事は言うなってことじゃない?」
「もう!」
「アンジェリカも二人も元気でね!」
私はその場でクルリと回り指を鳴らし最後のパフォーマンスを魅せる。
「パチン!」花達はそれに応えるように、アイリスさん達が気づかないように揺れると、微かな甘い香りを風に乗せ三人の鼻をくすぐった。
「おっ、花の良い匂いだな」
「フフ、そうね」
(ありがとうアターシャ)
劇場に戻るとヘロヘロの三人に鞭を打つように、荷造りをさせる。
(最悪、ぜんぜん進んでないよ)
「もう何やってたのよ!終わるまで休憩無しよ!」
(おい!それってパワハラとかいうヤツじゃね?)
「アターシャ!」
劇場の外から、聞いた事のある声が私を呼ぶ。
「ジョヴァンニさん!どうしたの?」
「いやー、アンジェリカの事もあったし、言葉だけのお礼だと俺の気持ちもスッキリしないと思って手伝いにきた」
(神の使い?あの家族は神の一族なの?)
「何ぼーっとしてんだよ?って本当に今日出発出来るのか?待ってろ人呼んでくる」
劇場内の惨状を見て驚いたジョヴァンニさんは、慌てて助っ人を呼びに行ってくれた。
「もう!シャキッとしなさいよ!」
「やらなきゃいけないのは分かってるんだが、体が拒絶するんだ」
「バカ!皆手伝いに来るって言ってんだから、空元気でも何でもいいから全力でやりなさい!」
(鬼かコイツ・・・)
皆んなを無理矢理働かせてると、神の使いが更なる使徒を連れて来てくれた。
「連れて来たぞ。これだけの人数なら昼までに終わるだろ」
「ありがとうジョヴァンニさん。皆さんも忙しいのに、ありがとう!」
「困った時はお互い様だ、まぁ夜中まで馬鹿騒ぎしてたルーカ達が悪いけどな」
「面目ない、反省してます」
「皆サッサと片付けて気持ち良く送り出してやろうぜ!」
男手の助っ人が集まった作業は瞬く間に終わり、ヘロヘロな彼等は深く深く反省するしかなかった。
今日で旅立つって言ってたのに、締まり悪過ぎて後味悪くなってない?
まぁ、この劇団にキッチリしようと言った所でって感じしかしないわね。
そうこうしている間に片付いたのは町の皆んなのお陰。
「終わったね!皆ありがとう。こんなに早く終わるとは思わなかった」
「ハハハ、皆感謝してるって事だよ。名残惜しいけどな、また来た時には歓迎するぜ」
「うん!絶対また来るよ!」
「アターシャ!」
「あら、もう終わったのかい?」
「アイリスさん、アンジェリカ!」
「長引くかなと思って差し入れ持って来たんだけど、終わったんなら道中で食べるといいわ」
「ありがとう、アイリスさん」
「やっぱりアンタ達が居なくなるのは寂しいわね」
「最後ってわけじゃないけど、アンジェリカを抱っこしてやってくれないか?」
「うん!」
(アンジェリカまた戻るよ。私達の事ちゃんと覚えといてね)
「皆ありがとう。次来た時は旅の話も沢山するね」
「フフ、楽しみにしとくわ」
「じゃあ行ってきます!皆さん、お元気で!」
色々な出来事と経験を、白かったキャンパスに描いた私達一行は、次の目的地と新しい仲間を見つける旅を続ける。




