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開演

 ランプも点けたしテーブルも拭き終わった。後はお客さんの通る道にカーペット敷くだけね。

 入り口から、ステージ前、カウンター前そして客席へとカーペットを敷いて行くんだけど、このカーペットを敷いてないと、お客さんの靴や服が汚れちゃうし、砂煙りが上がったりすると演技にも支障が出てしまう。

「ルー終わったよ」

「じゃあ開演までティータイムとしようか。ファビア、すまないが焼き菓子を貰ったからお茶を淹れてくれないか」

 ルーに呼ばれたファビアという女性は、開演中の飲食と私達の食事も作ってくれている。ファビ姉の作るご飯は最高に美味しいの!ルー達の旅が楽しそうだと付いて来たみたいだけど、正直言ってファビ姉が居ないと、劇場も私達の生活も成り立たないぐらいの重要人物。


「そうくるだろうと思って準備は出来てるよ。アーシャ、あんまり食べ過ぎないようにね」

「ありがとうファビ姉。このお茶と焼き菓子のセット、美味しすぎるー」

「たしかに、このマドレーヌなんてバターの優しい感じが最高ね。ついつい食べ過ぎちゃうわ。後で作り方教えてもらおうかしら」

「食い過ぎるなって言ってたヤツが一番食ってるな」

「ルー?私はステージに立たないから食べ過ぎても問題ないのよ」

「また服入んなくなるぞ?」

「アーチェ、ルーに水鉄砲喰らわせて!」

「イエッサー」返事と共に姉様の指先から発射される弾は見事にルーの額に命中する。

 ガクンと首を後ろにのけ反ると、続け様に私が指を「パチン」と鳴らす。指先から小さな風が渦を巻いて、のけ反ったルーに追い討ちをかけ椅子ごと後ろに吹き飛ばす。

「イェーイ!」気持ちのいい程の連携プレイに私達は手を合わせ、ルーを見下すように高笑いする。

 (ちくしょう!だから女だらけの劇団は嫌なんだ!次の魔法使いは頼むから男であってくれ!じゃないと俺の身が持たない!)

 ルー・・・それって残念ながらフラグというヤツじゃないの?どうせ仲間になるなら私は、同世代の女の子がいい。

 ルーが考えている事が手に取るように分かってしまった私は、叶わない願いよと哀れんだ顔を見せる。

「よし!腹も満たされたし、開演するぞ」

 仰向けになりながらも、団長としての威厳を保とうと必死に声を張り上げるが、その声と姿は、泣くのを我慢している少年のようにしか見えなかった。

 仕方なく姉様は彼の手を取り引き起こして、土まみれになった服を払ってあげる。

「ちょっと、やりすぎたわね。アーシャ!オープンよ!」

 姉様の掛け声の後、私は魔法を使って指を鳴らす。

「パチン!」

 赤子に使った時の魔法とは違い、大きな低音が劇場内に響き渡ると劇場を覆っている幕が一斉に上がる。

 いつの間にかステージ横にある小さなピアノに座っているルーは、幕が上がるとリズム良く「道化師のギャロップ」を弾き始めた。

 劇場前で待ち侘びていた人達が、ルーのピアノに合わせて首を振ったり体を揺らしながら続々と入店してくる。

 初めてこの町に来た時は、興味本位で入店してくる人達が数人しかいなかったけど、今では、ほぼ満席状態になるほど観に来てくれてる。

 入場料は無いけど、ワンドリンク制となっていて、客席横に設けたカウンターでファビ姉を中心に演技が始まる前だけ、私達もカウンターで接客している。

「果実酒3つくれ!」

「コッチは麦酒3つ頼むよ!」

 慣れた手つきで、ドリンクを渡してお金を貰っていく、合間合間で、会話するのも意外と楽しい。

「はい!麦酒!あんまり飲み過ぎないでね。」

「アーシャ、アーチェ落ち着いてきたからステージに行っていいわよ」

「はーい」

 ここからは、私と姉様とルーの三人でステージを盛り上げて行く。私は前座みたいなものだけど、皆んなが喜んでくれるから全力で場を作ることに集中している。姉様達は、私が場を作ってくれてるから後のステージが生きてくるって言うけど、二人の様に場の空気まで変えれるような実力は、はっきり言ってまだ無い。

 ステージの中央で立つ時もまだ緊張しっぱなしだ。幕が上がる前から頭を下げて、来場者に来てくれた事に対して礼をする。

 ステージと客席までの距離は近く、カウンターで接客していた時とは違って幕越しから伝わる緊張感は計り知れない。

「パチン!」合図とともに、ゆっくりとステージの幕が上がると現れた私に拍手が向けられた。

「ふぅ」まだ鼓動が早いなぁ。いつもより緊張してるかも。

 緊張感を面に出さないように、笑顔を作る。皆の視線が私に向けられてる中、私の拙い前口上で場を作って行く。

「ようこそ!マジーア・スオーノへ!今宵、素敵な皆様に存分に楽しんで頂けるよう、私アターシャが僭越ながら手品をお見せ致しましょう!」

 私達が劇場のステージでする手品には、一切魔法は使わない。ここからは、巧みな手さばきで、人の目をくらまし、不思議なことをして、客を楽しませる芸を披露する。

「パチン!」

 指を鳴らしステージ上でクルリと一回転すると、何も持っていなかった両手に顔より少し大きめのリングが二つ、現れるマジックを披露する。

「おおーっ」

 一つ一つの所業に湧き上がる驚きと歓声。初めは緊張してステージに立っていたけど、皆んなの歓声が私の緊張を解していく。今ではそれが快感に感じる程にまで成長していると思う。

 

 親指、人差し指、中指の3本の指で、2つのリングのつなぎ目を挟んで持つと、巧みな技術でリングを空中に固定してリングを回していく。そうすると、二つのリングが指を中心に、クルクルと奇妙な回転をし始める。

 (どう?不思議な感じするでしょ?)

 回る速度を早めたり遅くしたりして奇妙な動きで翻弄させると、クルクルと回転するリングを分からないように四つに増やす。

 ジャグリングと手品の融合であるこの技は、私が得意な見せ物の一つ。

 ジャグリングで湧き上がる歓声に、ステージ下で観ていたアイリスさんの赤子が驚き、突然泣き出すと、観客の視線がアイリスさんに向けられる。

 (やばい助けなきゃ!)

 アイリスさんは泣き止まそうとしたが、泣き止まない。私は、突然ステージから赤子の前へと飛び降りた。

 客達は何が起こるのかと興味は私に向けられる。

 視線が私に向けられるのは想定内。

 あちゃー、ビックリして泣いちゃったか。

「任せて!」

 赤子をアイリスさんから受け取ると、ステージに戻る。赤子をあやす様に、ステージの端から端をゆっくりと歩くが泣き止まない。ステージ中央で止まり、首を横に振り「無理」とジェスチャーする。

「ははは、何やってんだよ」

 客席から笑いが起こるが、赤子は泣き止まない。

 わざとらしく何かを閃いたような顔して指を鳴らす。

「パチン」

「パチン」

 指を鳴らす度に、手から薔薇の花が現れる。指を鳴らすタイミングに合わせルーのピアノが低い音から音階を上げて行くと、薔薇の色が赤から黄色に変わって行く。

 私のアドリブに合わせてくれたのだ。

「おおーっ!」

「シッ!」客達の驚きの声に私が静かにと客達に合図する。

 赤、黄色と指を鳴らす度に増える薔薇の花が、赤子を埋め尽くしていくと、自然と赤子に笑顔が溢れてきた。

 (へへへ、笑った)

 本当は、私の足元を薔薇の花で埋め尽くす手品だったけど、気まぐれなアドリブに対応してくれたルーには、感謝している。

 ステージ上で赤子の頬にキスをし、アイリスさんへと赤子を返すとアイリスさんは嬉しさのあまり涙を溢した。

 観客達の熱い拍手が私に向けられると、観覧席に手を振って応える。ルーの弾くピアノの演奏に合わせてステージの幕がゆっくり降りてくると、一層拍手が濃くなっていった。

 (何とかなったわね。皆んな楽しんでくれたかな?)


「姉様!」

 ステージ衣装に着替えた姉様が、次は私ねとステージに上がってきた。

 すれ違い様に私の頭を優しく撫でてくれる所作は美しく、何も言わずとも心で伝わった。

 (へへへ、姉様に褒められた)

 

 (フフフ、少し前までのアーシャなら、こんな対応出来なかったわね。ちょっとは成長したかな?せっかく作ってくれたアーシャの雰囲気は壊せないわね)

 と本人は思っているが、姉様の容姿端麗な姿は登場するだけで観客を魅了する。彼女を見たいが為に来る男性客もいるほどで、女性客の中には憧れを抱く者もいた。

 

 姉様はステージに上がる時はいつもポーズを決める。役に入り込むと言うのか、何と言うかはわからないけど、姉様は踊りに気持ちを込める為にやってるみたい。

 姉様の衣装はいつも単色の服を纏う。何故かを聞いたことはあるけど、未だ教えてはくれない。今日は真っ白のワンピースに身を包み、揺れるシルクのような銀髪を(なび)かせ、ステージ中央で膝をつき、何かを祈るように手を重ねる。

 (アーシャが頑張ったから控えめにしましょうか)


 ルーの演奏が静かな立ち上がりを奏でると、幕が上がり始める。お客さん達は、姉様の姿を見るやいなや拍手が沈黙へと移り変わっていく。私が作った雰囲気を、姉様の創り出す雰囲気が侵食して行くのは、釈然としない心持ちにさせる。憧れてるのもあるけど、姉様にしか創り出せない雰囲気に私は嫉妬してるのだろう。

 姉様がステージ中央で回転し始めると、私は回転に合わせて指を鳴らす。指を鳴らす度に姉様から白い薔薇の花弁が何処からともなく現れる。

 二回、三回と回る度に花弁が溢れ出し、姉様の周りを埋め尽くすように彩っていく。

 今日は、何をイメージして舞っているのだろう。軽やかさの中に切なさが織り混じっているのは分かるが、それ以外は全く分からない。どうせ聞いても教えてはもらえないから、私は見て勉強するだけだ。

 花弁に埋もれる姉様が、静かに床へ膝をつき、祈るように手を重ねると、散らばった花弁が白から赤へと変わっていく。

 お客さん達が固唾を飲んで見守る中、握った手を前に突き出し、一本づつ指を開いていく。

 開いた手から真っ赤な薔薇が飛び出すと観客から歓声が湧き上がる。

「おおーっ!」

 その薔薇を持ってステージ下へフワリと降り立つと、アイリスさんが抱っこする赤子へプレゼントしたのであった。

 姉様からの粋なサプライズプレゼントである。

 (もう!ちょっとやりすぎじゃないの?)

「パチパチパチパチ」

 更に歓声があがると、彼女はステージへ宙返りをしながら上がる。

 ステージ中央に戻った姉様に、真っ白の大きなスカーフを渡すと、観客に種も仕掛けも無いよと言わんばかりに、裏側を観客に見せつける。

 そしてスカーフの角を二箇所指で摘み、タオルのシワを取るように思いっきり(はた)くと「パン!」という衝撃音とともに、スカーフから一羽の真っ白な鳩が現れる。

「おおー」

 現れた鳩を肩に乗せ観客に一礼をしてステージを後にした。

 割れんばかりの拍手の中、ステージに幕が降りてくる。しばしの休憩の後、ルーと交代した姉様の弾くピアノの音が奏でられると、ステージの再び幕が上がる。拍手の中、私とルーは今日のステージは終了だと告げる。それに付け加えるように、明日のステージを最後にこの町を発つ事を報告した。

 残念そうな顔をしながらも、観客達はステージの私達に拍手を浴びせ今宵は閉幕となった。

 帰って行く客達の中にアイリスさんを見かけた私は、急いで追いかけた。「今日は来てくれてありがとう」と伝える。良い思い出を貰ったアイリスであったが、寂しくなる気持ちが抑えられず「こちらこそ」と強く抱きしめ「明日も楽しみにしとくよ」と言ってくれた。

 「うん!明日も頑張るよ!おやすみなさいアイリスさん」

 

 旅を続けるていると別れというのは必ずしも訪れるものである。若い子には旅をさせろという言葉があるが、こういった経験を積んで大人になった方が、良い人間性を持った人物になるということであろう。アターシャが大人となる頃には様々な経験を得た、キチンとした人間性を持っていて欲しいものである。

 

「ただいまー」

「おかえり、今日のステージは最高だったな。皆楽しんでくれてたよ。アーシャも大分上手くなってきたし俺は嬉しいよ」

「パシッ」カッコよく決めようとしたルーの頭をファビ姉が勢いよく叩く。

「ほとんど何もしていないアンタが言ってもカッコよくないよ」

「そうね、ピアノ弾いてただけだし」

「クゥーっ!褒めただけなのに!」

 二人の姉の口撃に言い返せなくなるルーを突然優しく抱きしめる。

「どうしたんだ?」

「可哀想なルー。私の胸で泣くといいよ?」

「うっ、アーシャに抱きしめられるのは嬉しいけど、何か違う!見下されてる感じがする!」

「ハハハハハハ」

 三人の笑い声と一人の叫び声がテントに響き渡り、今日という一日が終わりを告げた。

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