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第91話 伝えるということ-2-


「……おまえさ」


 朋斗は至って真顔でこちらを見ていた。


「痛いこととか隠すなよ。毒受けたのだって隠して一人になっただろ。そういうのやめろ」

「……え」


 目をぱちくりとさせる。

 ……茅峨は隠しているつもりはあまりなかった。どちらかというと、


(言う意味はないかなって……)


「あ……」


 それで以前の暮らしを思い出す。


 怪我を負ったとき、自分から言わなくてもアスハには気付かれた。


 育ての親ユツカには昔、傷や痛みのことを告げると煙たがられた記憶がある。


 たぶんそれを引き摺っている。


(だからほとんど俺から怪我したとかは言わなかった……それでもアスハはよく気付いてたけど……)



「俺はおまえに隠されるとたぶん気付かねえから」


 そう言われてハッと顔を上げる。


「俺気が回る方じゃねえし、治癒だって回復アイテムがあればいいけど切らしてたら別の対応しねえと。特に毒みたいな継続低下(スリップ)は時間と勝負で……だから喰らったら隠すなよ」


「……う、うん」


 そう言うが朋斗は気が回らない、なんてことはないと茅峨は思っている。

 ただ、事後確認では遅い可能性があることを懸念しているのだろう。


「パーティにいて怪我してたら、迷惑だもんね」

「あ……? いやそういうことじゃなくて」


 きょとりとしている茅峨を見て、朋斗は認識のズレに気付く。


(こいつマジで、心配されるのとか自分の価値に鈍感っつーか、そもそも心配されることをナチュラルに含んでないっつーか……)


 クリスの屋敷で心境を話した時、茅峨はアスハという兄弟に対してかなり心を砕いていた。

 勘だが、たぶんアスハは茅峨を心配するし、それを茅峨は受け入れているはずだ。


 それ以外に対して人から向けられる感情や、自分の価値にほぼ頓着がないのだ。


 先ほど嘉神が茅峨の怪我を心配するのかどうか、ということにも、本人はすぐ飲み込めていないようだったし。


 表面上では対応、態度、返答に違和感はないのに、深掘りしていくとズレが生じる。


(こういうのって、なんて言ったらいいんだ……?)


 だが朋斗も朋斗で心持ちは年相応の少年だ。

 『友達なので心配してる』『痛みに耐えているのをあとから知るのは頼られてないようできつい』、なんてことはストレートに言えない。

 恥ずかしいので。


(なんだかモダモダしてますわね……)

 ふかふかな毛布を抱えながら戻ってきたクリスは、二人の会話と様子をやや背後で見守っていた。


「……とにかくおまえはちょっと怪我しただけでも、草で指切ったとかでもいいから言え! 変に自己判断するなよな」


「で、でもそんな逐一報告してたら本当に朋斗にも迷惑じゃ……」

「馬鹿、おまえがこっちに迷惑かけるだろ。そしたら俺もおまえに堂々と迷惑かけれるからいいんだよ」

「……」


 マイクッションを抱えて戻ってきたファビディアナンドが、それを聞いて大きく鼻を鳴らす。


「フン!! 私は迷惑なんぞ被(こうむ)りたくないがな! ただ当屋敷の絡んだ事件で死人が出る方が迷惑なだけだ!!」

「誰も貴方のことは言ってませんわよ」

「いいから、旅してて下手な怪我をほっとく方がやばいんだから、ちゃんと伝えろ。覚えとけよ!」

「わ、わかった」


 朋斗はそう言ったものの、息を吐いて目線を下げた。

(くそ、そもそも茅峨の毒だってグレートボアの針が飛ぶ前に倒せてたら……溜めの速さが足りなかった、全然駄目だ)

 胸の内で項垂れる。



 そんな様子の朋斗を茅峨はやや見上げ、至って真面目に口を開いた。


「……それならさ、朋斗だって迷惑かけてね? お、俺じゃ頼りないかもだけど……もし朋斗が何かやりたいことがあったりしたら、俺手伝うから!」


 その言葉に、どういうわけか朋斗は目を丸くする。


「……ああ」

 朋斗にしては珍しく、どこか困ったような苦さを感じる笑みだった。




 馬車前まで見送りに来ていたロアンが、遠目から苦笑をこぼす。


「なんか茅峨くん見てると昔の嘉神思い出すな」

「グレイドル卿? に、似てるんですの茅峨に?」

 そうクリスが驚いて尋ねると、全然、と返ってくる。


「雰囲気は似てはないけどさ、世間とズレてるというか、ある意味浮世離れしてるというか……話通じてんのか? ってところとかな」

 ロアンは可笑しそうに笑っている。


 嘉神に会ったことのないクリスは、国賓の男と茅峨の共通点が想像出来ずに首を傾げた。



「さぁ貴様達とっとと乗りたまえ! 中では静かにしていろよ、私は眠るからな!!」

「このオッサンほんと無駄に偉そうだな」

「ロアンさん!」

 ロアンの前まで茅峨が駆け寄る。


「今回は来てくれてありがとう、こんなバタバタになっちゃったけど……」

「気にするな、どのみちこの屋敷は監査が入る予定だったからな。警士が来たどさくさで兄貴と調べさせて貰ったし」

「?」

(魔法石のこととか……)

 ……とロアンは内心思ったが、口にはしなかった。


 クリスは既にロアンと今回の結果を話し込んでいたようで、幽閉解除の後押しに感謝していた。


「改めて、ジアルクエ家からもお礼をさせて頂きたいですわ」

「あ、それなら礼の代わりにこっちの傘下にジアルクエも入って貰える?」

「こっちの傘下?」

 クリスは目をぱちくりとさせる。


「そう。今回の件でゼムストリスとは完全に離別しただろ? それならジアルクエ男爵は俺達の方に着いて欲しい。ゼムストリスとは……たぶん対立する」

「え……」


「詳しくは機を見て伝えるからさ。頭の隅にでも置いててくれよ」


 おそらく貴族の確執の話をしているのだろうが、ロアンは軽く微笑んでいる。


 それを見た茅峨は、そういえばロアンは難しそうな事情もさらっと話すような人だったなと思い出した。


「対立するってどういうことなんだろう……」

「さあな。俺達が考えてもわかんねーと思うぜ」

 それはそうかもと頷く。

 ただ、既にクリスは立場が複雑なのに、貴族の問題にまた巻き込まれてしまうのかな……と少し気になってしまった。


「分かりましたわ。わたくしの出来ることは協力いたしますし、当主(おじさま)に話を通しておきます。お任せくださいな」

 しかし茅峨の心配をよそに、クリスは毅然と笑みを浮かべた。




すごい余談ですがジアルクエ当主、商会や農地経営なんかも色々やっててやり手社長だけど、性格は穏やかではわわって感じで、日課で商会周りの掃除してたら清掃員のオッサンだと思われてるタイプのイメージ。その人地主です。

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