第84話 撃退戦-1-
大広間、瓦礫の影。
朋斗がナイフに光を纏わせ、茅峨も手にしていたロッドを握りなおす。
「……ん! じゃあまず魔物をどうにかした方がいいよね。あれ、遠距離攻撃してくるから……」
瓦礫から再度現状を覗く。
周囲の魔物は十匹以上、全て大人程の身の丈だ。正直魔物慣れしていない人間には脅威だろう。
「黒豹は重力砲撃ってくるからなー、魔力も高いし。人がいなきゃまとめて吹き飛ばせるんだけどな……」
広場に居る団員は現在五、六人。突入された時はもっと来ていたはずだが、今は屋敷内部に散らばっているのだろう。
人質の来賓はざっと三十名といったところか。
そしてその近くにキリオフィストである短髪の屈強な男の存在。
背には明らかに重量の有る巨大なブーメランのような物を背負っている。
「アレ絶対厄介だろ……茅峨ちなみに周りを眠らせるとかって」
「お、音の材料が無いから厳しいかな……」
「ですよね……」
確かに朋斗の剣技であれば魔物も盗賊も吹き飛ばせるが、対象と人質の距離が近すぎる。細かな立ち回りは出来なくないとしても、その間に屈強な男がどう動くか予測しきれない。
「……じゃあ俺が人質守るわ」
「え?」
「で茅峨が風使って、魔物と盗賊の奴ら吹き飛ばして人質から離せるか? 離れちまえばあとはなんとかなるだろ」
その案に茅峨は目をぱちくりとさせた。
「だ、大丈夫? 朋斗やお客さんも吹き飛ばされそうな……」
「俺 変な障壁スキルあるから。俺に敵意が無いアタックならなんでか防御力上がるんだよな。だから思いっきりスフィア使っていいぜ」
「朋斗って持ってるスキル多くない……?」
盗賊はまだしも、あの豹の魔物複数を一気に吹き飛ばすにはそれなりの暴風が要るだろう。加減をしなくていいのは有り難いが……
「敵意が無いと防御力上がるって、変わってるね」
「な。俺もなんでこんなスキル付けられてんのか分かんねえ」
すると、ずっと朋斗の肩に乗っていたリィが鳴いた。
「リィも手伝ってくれるか? てか手伝って貰わねーとちょっと厳しい」
そう言いながら朋斗は自身のポケットから何かを出し、いくつかをリィに貼る。
「必要ねえかもだけど、茅峨も一応持っとけ」
手渡されたのは手のひらに収まる大きさの、白い紙のアイテムだ。
「……とっ朋斗!? これって……!」
白い紙は人のような形をしている。
――未族が使っていた式神とそっくりだった。
「えっそんな驚く? まあこっちじゃ見かけないよな……分散装置的に使ってんだけど」
「いや……え……!?」
よく見ると未族の式神は紙の頭部分が丸いが、朋斗から渡された紙の頭は少し尖って三角になっていて、中央に薄いひとつ目が描かれている。
「式神、じゃない……?」
「これは大祓の……って言っても分かんねえか。障壁のアンカーになるから」
確かにバリアの術式が込められたアイテムなども存在するので、そういった系統になるのだろうか?
(朋斗がくれたんだから、未族とは関係ないよね……?)
白い紙を上着のポケットにしまって、茅峨は切り替えてゆっくりとスフィアを編み始めた。
「よし、じゃあ行くか。先にもう一本剣に出来るのが欲しいけど……」
大広間の状態を瓦礫の隙間から少し見渡してから、朋斗はフォーマルのジャケットを脱ぎつつ目星を付けたようだ。
その後ろで茅峨は深呼吸し、しっかりと前を見つめる。
空気の流れが変わった。
――壊れた石の床を蹴り、朋斗が低姿勢で飛び出した。
「あ!? なんだオマエ!!」
すぐに盗賊達が反応し、黒豹……クアールが口を大きく開ける。
(動きはっや、予想以上だな!?)
朋斗は内心驚きつつすぐに薄光の障壁を複数――敵意からの攻撃なので一枚じゃ足りない、何枚も重ねて展開する。数匹のクアールの口から、一斉に重力砲が放たれた。
と同時に、その光に紛れて朋斗の肩からリィが飛び退く。
「とっ朋斗!」
砲撃で朋斗が吹き飛ばされ、茅峨のいる瓦礫のかなり向こう側、盛大な音と共に物や金属がひっくり返る。
飛ばされたのは広間で料理人が自ら料理を振るっていたテーブル――鉄板、巨大肉などが散乱する場所。
「うわ肉勿体ねーけど……っし、狙い通りだな……!」
飛ばされながらも受け身を取っていた朋斗は、すぐに落ちていた長尺の肉刺し串を拾い、素早く切り返して走り出した。
人質の近くまで距離を詰め、その間にも光で強化したナイフとスキュアーで何匹かクアールを斬り飛ばす。
「なっなんだこのガキ!?」
盗賊達は何が起こっているのかが追えていないようだった――が、その合間を縫って何か、大きな物が朋斗目掛けて飛んできた。
(!? ブーメラン、か!? アイツかよ!)
大男の投げた巨大な投擲武器を頭を低くしてかわし、勢いのまま人質の周りの空間に人型の紙を貼っていく。
その逆側からリィが走りながら白い紙を置いており、対象範囲を囲い込んだ。
「おいコラテメー、なにやってんだ?」
自分に戻って来た巨大ブーメランを片手でなんなく受け止めた大男は、朋斗を訝しげに視認する。
「アンタらを捕まえんだよ……!」
「は……っ?」
大男が片眉を上げた時、人質の周りで障壁が発動する。
その光の眩さの中、大男は目の前の朋斗とは違う気配に振り向いた。
広間の奥、ロッドを構えた少女が立っている。
「……お願い!」
瞬間、足元から突風が舞った。
「ッ――!?」
クアールとその他盗賊が軽々と宙に浮く。
竜巻の如くその風は障壁外のものを巻き込んで、上手く一箇所に纏め上げた……天井には先程茅峨とクアールが落下してきた穴が大きく空いている。
大広間は二、三階の吹き抜け構造で、下からの風圧はその天井の穴から夜空に放り出されそうなほど高く。
ここから勢いよく落ちればどうなるか、というのを察して、盗賊達が宙で喚いている。
「ッ思いっきり使えっつったけど、容赦ねえな……!」
障壁があっても振動と風は幾分朋斗にも伝わって、やや半笑いになる。
(す、すごく舞い上がっちゃった……!! 高くしすぎないようにしなきゃ……!)
ふわりと風が止まる。
風が止まるとあとは落ちるだけ……ということを空中の盗賊達は理解し青ざめ、魔物はなぜ己達が浮かんでいるのかよく分からずきょとんとしている。
「う……わあぁぁあああ……!!!」
――そうして人質から離れたところへ、彼らはバタバタと落ちてきた。
茅峨はなんとかスフィアの加減を試みたので、盗賊達は落ちた時に身体を打ってほぼ気絶したか痛みで悶絶しすぐには動けないでいる。
あとはクアール、これらも落とされて倒れ込んでいるとはいえ、魔物の身体は丈夫だし遠距離攻撃もあるので下手に放置出来ない。
「――ナイス、充分だわ」
が、朋斗が既に魔物達の位置まで駆け込んでおり、仮の双剣で全てを一閃した。
……魔物達は黒い光と影になって霧散する。
「はあ? オイオイ……アイツらがそんなすぐやられちまうのかよ」
よく通る大男の声。
あの暴風の中でも踏み止まり、衝撃は受けていない。
「で、コイツだけど……素直には無理そうだよなぁ」
朋斗は大男を見据え、男を挟むように茅峨も立っている。
「……スフィアでも浮かせられなかった」
術やスキルを使っている感じはなかったので、防護アイテムがあるのか或いは単純に体幹が凄まじいのかもしれない。
「俺らを捕まえるって? ガキ共、面白れぇこと言うじゃねえか。ギルドの賞金稼ぎかよ?」
「……子供なんで、手加減とかしてくれね?」
朋斗は軽口を叩いてみるが、男は笑いながら手を振った。
「ガキでもギルド登録してンなら喧嘩売る相手がどんなモンか分かってんだろ? それにテメーらが低ランクとも思えねえ。だったら……」
大男はやや腰を落とし、ブーメランを構え直す。
先程あれを朋斗に投げた時、見た目の重量の割にとても速かった。
……茅峨と朋斗が離れた位置にいても、下手をすれば一蹴されるかもしれない。
渋い顔をする少年二人をそれぞれ視界に入れ、大男が不敵に笑う。
「テメーらをボコれば見せしめになる。他のギルドの奴らをそれで牽制してやるよ!」




