第83話 地下小部屋-2-
問いかけに否定は無かった。
侯爵家の妻になった女が、国で手配中の盗賊団の一員。
状況が状況なだけに真実なのだろうが、それでもファビディアナンドは受け止め切れていないようだった。
「ふ、ふざけるな! そっそんな……いつから!? それにお前、腹の子は……!?」
「勿論最初から。お腹とか全部嘘うそ! あたしの体じゃ絶対に子どもは出来ないから。でもバレちゃったらやばいから、キリオの人に専属の医者のフリして貰ってたんだよね〜面倒だったな」
目の前にいるエウリュディーケに腹の膨らみは一切なく、それを何度も確認したファビディアナンドは酷く狼狽した。
「孕って体調悪いふりしてたら貴族の勉強もしなくていいし、部屋で寝てるていで屋敷も調べられるでしょ? 一年以上潜伏するのは嫌だったけど、ゼムストリス家って手堅いから仕方ないよね」
「……確かにファビ自身はこんなですが、侯爵家の屋敷としてのセキュリティは高度ですものね。けどそこまでする価値がこの家にあるの?」
そう訊ねると、エウリュディーケは少し首を傾げる。
「色々盗れるものはあるけど一番は魔法石だから。それがここに有るって分かったのなら時間を掛けてでも回収したいってこと。あたしは団長に従っただけ」
「うぅ……くそ……!」
「……でもここからは逃げられないわよ、出入り口にはわたくし達が居ますもの」
クリスは項垂れるファビディアナンドとエウリュディーケの間に立つ。
が、彼女は余裕そうに笑っている。
「あは、時間かけて調べたんだから、この部屋にもう一つルートがあるのは知ってるよ?」
「な、なんだと……!?」
エウリュディーケが壁際の本棚に寄り、何かしらの手順を踏もうとする。
たがそれが完了する前に本棚が突然稼働し、彼女は目を丸くした。
「えっ!? まだ操作は……」
棚が動き奥へと進む細い通路が現れる。その道を進めばこの空間から出られたのだろうが……
出られるということは、向こうからも来ることが出来るということだ。
奥へ続く道には銀髪の男が立っていた。
「うそ、レ……」
「レイヴフォード様……!?」
現れたレイヴフォードはエウリュディーケの方へ手を差し出す。
「……残念だがここを通すわけにはいかない。魔法石は返して貰おう……牢屋に入れられたくはないだろう? 今なら兄の妻として不問にも出来る。他の奴らは無理だがな」
「レイヴフォード……! お前来てたのか!?」
(不問にと言うのは方便ですわよね……盗賊だったエウリュディーケに寛容の処置なんかしないはず)
クリスは見据えながらも、魔法石は盗られてはならないと思った。
あれは使うにしろ売るにしろ、真っ当な代物とは程遠い。
「エウリュディーケ……その魔法石をレイヴフォード様に返して」
「……クリス様分かってるの? この人達が魔法石を持ってたら、軍事に使われちゃうんだよ?」
「!? 貴女、どうしてそれを……!?」
「……敷地と街で盗賊が暴れている。悠長にしている時間はない」
レイヴフォードが口の中で術の詠唱をしたのでエウリュディーケは身構える。捕縛か拘束か、対策はしているがこの狭い部屋で悶着をするのは不利だ。
一瞬の思考の間。
レイヴフォードの背後、奥の道から突然黒豹の魔物が飛び出した。
「クアール……!?」
詠唱体勢を魔物の方へ向けるがクアールの方が速く、レイヴフォードは追突される。
「レイヴフォード!! こ、こんな所まで魔物だと!?」
「……後ろガラ空きだぜ、やっぱデスクワークばっかのお貴族様は相手にならねえな」
クアールの後ろから、フードを被った見慣れない男が現れた。
声色はのんびりとした風だったが、その動きに迷いはない。
「エリーゼ、来い!」
「! うん!」
男は素早く奥の道にエウリュディーケを逃し、クアールを盾にする。
「まっ待ちなさい!!」
クリスはすぐさま雷撃を放ったが、クアールの重力球で相殺されてしまった。
「はっ速い……!」
一匹とはいえこの狭い場所で派手に戦うことは得策ではない。そうこうしているうちに二人は奥の道へ消えてしまう。
「ファビディアナンド様! わたくしは二人を追いますので後は宜しくお願いしますわ!」
「あ、は!? こっこの魔物は!?」
「適当に対処してくださいな!」
「バっむっ無茶を言うな!!」
クリスがチラリとレイヴフォードを見ると、そこまでダメージも無くあまり焦ってもいないようだった。
(魔法石を奪われてもいいってこと……?)
彼の心境はいつも掴みどころがない。が、それより今はエウリュディーケ達と地上が気になる。
クリスはドレスであることも構わず奥の細い道へと駆け込んだ。
その後の部屋。
レイヴフォードの術でクアールはバタリと大きく倒れる。
「レ、レイヴフォード……追わなくて良かったのか……?」
「……構いません兄上。確かに惜しくはありますが、あれはもう研究済みの石です。どのみち魔法石と私共の狙いの兼ね合いは非効率に違いないですから」
「……だが」
「あれを手にしたところで素人にどうこう出来る代物でもない。戦乱の遺物を利用出来るのならばそれに越したことはない、という話だっただけです」
「ああ……それにお前は制御出来ない化物を量産するのは本意じゃない、とも言っていたな」
「以前の議題で出たように、制御出来れば全面的に使うつもりでしたがね。その保証は今も有りませんので」
その言葉にファビディアナンドはなんとも言えない顔でレイヴフォードを見つめた。




