第81話 来襲-2-
強大な討伐対象の魔物などと同様に、賞金が掛かった指名手配者もギルドに登録されている。
実力がありながらクエストを過度に妨害する輩や、各領や地域を越えて活動している賊が主で、前者はギルドパーティ達で自浄が困難であったり、後者は区域の警士では手に負えない場合だ。
そうなると不徳蛮行が炙り出され、冒険者協会や軍警により、名指し又は特定情報と共に手配される。
キリオフィストは現在、その手配団体として最たるものだ。
端的に言えば立地を問わない盗賊団で、その団員数は三桁とも言われている。
団長をはじめとする数名は既に顔が割れており、賞金首とされていた。
ギルド登録者には賞金首狙いもいるのだが、キリオフィストは団体行動が主体のわりに普段は潜伏型の神出鬼没。且つ揺動が上手く、幹部の実力はSSランク越えとも言われていて討伐に難航している。
加えて脅威なのは、彼らはいつも多数の魔物を従えて来襲するということだ。
そんな盗賊団が今、貿易港に突入して来たらしい。
「こいつらキリオフィストかよ!? そうか昼間にぶつかったあの大男、どっかで見た気してたけどギルドの手配書か……!」
朋斗が小声で確信する。
一同は落ちてきた天井の白い瓦礫の隙間に隠れていた。
大広間には大きな黒豹の魔物……それらが何匹も闊歩し、破壊された壁から盗賊団員達が侵入している。
「魔物の数、もっと気配があったはずだけど茅峨おまえ上で何かした?」
「えっと、男の人が連れてた魔物はかなり退治したよ。でも途中で屋根が壊されて落ちちゃって……」
つい先程ロアンとその兄が衛兵達に声をかけ、来賓を保護しつつ避難を誘導した。
だがそれも全てには及ばず、数十名は盗賊団達に広間の一箇所に集められ人質の状態になっている。
ロアンは客を逃しながらクリス達を案じたが、クリスが来賓達の逃げ道を優先させた。
指示や把握が出来る者がこの隙に外へ出るべきだとクリスが強く提案したので、騒ぎに乗じてロアンとその兄はこの場から離脱している。
逆に茅峨と朋斗は全然この場に残るつもりだったので、クリスは「流石肝座ってますわねぇ」とどこか呆れたように苦笑したが、それはクリスにもブーメランである。
「怖そうな盗賊に魔物がたくさんだよ? クリスこそ大丈夫……?」
心配する茅峨に、クリスは強気な顔で胸を張った。
「ただ、少しわたくし気掛かりなことがあって……」
そう言ってチラリと後ろを見る。
この瓦礫の影にはクリスと茅峨と朋斗、それに身を竦め小さくなったファビディアナンドが残っていた。
「なんで貴方、逃げなかったんですのよ!?」
「わっ私は主催だぞ!! 賓客を置いて逃げるわけがなかろう!!」
「声でけぇって」
ファビディアナンドの理念は無謀だが意外にも殊勝だ。かといって留まって何か出来るわけでもないのだが。
「ねえ、エウリュディーケはどこに行ったんですの?」
クリスの問いにファビディアナンドは青ざめて狼狽した。
「わ、わからない! 何処かへ行ってしまった。魔法石がどうとか言って……」
「……は?」
今度はクリスの方が眉を顰め動揺する。
何故エウリュディーケが魔法石のことを知っているのか。
「っ……なんにせよ残ってる招待客の無事が優先ですわ。盗賊達は屋敷の財産を狙っているのでしょう? さっさと渡してくださいな」
「きっ貴様ここにある品々がどれだけ貴重な物か分かっているのか!? これだから学が無い女は……」
「あ゛? このわたくしを学が無いとお言いで……?」
「ヒッ」
「なぁ悠長にここに居ても見つかりそうじゃね? 黒豹は鼻効くし匂いとかで……」
「そ、それは大丈夫と思う、風の流れをスフィアで変えてるから」
「優秀かよ……」
茅峨は瓦礫の隙間から盗賊団達を見つめ、ぽつりと呟いた。
「キリオフィストって色んなところで暴れてるんだよね? 俺達があの人達を捕まえるのって難しいのかな……」
その言葉にクリスは目を丸くし、ファビディアナンドが鼻を鳴らした。
「ハッ各領の警士団が手をあぐねている輩どもだぞ? 少数グループならともかく今回はこの大規模襲撃、その辺の冒険者で太刀打ち出来るものか」
「なんで貴方が得意げなんですのよ……」
「当屋敷の素晴らしい財産と衛兵の優秀さに伴う団員投入数なのだろう! 奴らはよく理解っている!」
実際は今街の方でも立ち回っているらしいので、この屋敷を含めゴルドラフ自体を襲っているのだろう。
茅峨は思わずファビディアナンドに尋ねる。
「ええと、軍警は?」
「貴様はモノを知らんのか!? 奴らの本職は国防だ! 罪人の指名手配はするし王都部署は民間寄りだがな、実働は国境防衛や国賊相手にしか動かん」
「国賊……」
反政府テロや売国奴……内外部から国を壊しかねない、という判断をされた者だ。
「つまり国内盗賊団は管轄外なのだ! 地域警士や我々が討伐するしかない!」
「我々って、じゃああんたの衛兵らでなんとか出来んのかよ」
朋斗は目線を魔物や屈強な盗賊達から逸らさず訊ねてみたが、ファビディアナンドはモゴモゴと言うだけだった。
――と、クリスが不意に顔を上げると、階上にある廊下の人影と目が合う。
「え、あれは……エウリュディーケ……!?」
「なに!?」
ファビディアナンドも反応する。
「……」
彼女は大広間のクリス達を一瞥し、身を翻して廊下から姿を消した。身重のはずなにのその振る舞いは軽やかだ。
「ちょ、ちょっとここを頼んでも宜しいかしら!? わたくし上に行って参ります!」
「わ、私も行くぞ! 私を守れクリストファー!」
「ざけんなですわ! 茅峨、朋斗。もし貴方達が可能であれば、あの来賓達を守ってあげて」
人質の身を案ずるクリスと、盗賊の持つ武器と魔物に囲まれて震えている来賓達。
朋斗はそれを交互に見てから、思ったことを口にする。
「あの客達ってさ。ずっとファビを立ててたじゃん。クリスのこと遠巻きにヤジ飛ばしてたし。そんな奴らを助けようって思うのか?」
その問いに、クリスはなんとでもない風に肩に掛かるロングヘアを払いのけた。
「分かってないですわね〜。何事も恩を売っておいて損はないのですわよ! ね、茅峨」
茅峨はクリス達の大広間での立ち回りを知らないので、振られて目をぱちくりとさせる。
「う、うん? えっと。クリスがずっとお客さんを気にかけてたのは分かるから……俺は頑張るよ」
そう言ってにこりとするので、朋斗は軽く息を吐いた。
「仕方ねーな……」
「貴方なんだかんだでやってくれますわよね〜」
「そーですね」
「おいクリストファー! 上に行くならさっさとしろ、私の前を行け!!」
「コイツ……そんなわけで頼みましたわよ! あっでも無茶はしないでくださいね!?」
クリスがファビディアナンドを蹴り上げながらバタバタと瓦礫を抜け出す。
茅峨は少し汗を覚えつつ音が周りに伝わらないよう風向きで空気を調整した。
「……で、どうすっかな。茅峨こそこんな大人数の盗賊相手大丈夫かよ。しかもちょっと怪我もしてねえか」
「うーん、ちょっと前にキリオフィストの下っ端みたいな人達とは戦ったことあるんだけど」
「マジで?」
怪我は天井から落ちたときもあるが、その前に屋根の上で細身の男と戦ったものだ。
豹の魔物達を退治しながら男の術を切り抜けていると、屋根を壊されてしまった……という流れを朋斗に伝える。
「……その男、ここにいるのか?」
「いない、どこか行っちゃった。でも街でぶつかった大きな男の人はいるよね……」
人質の近くに大柄で鍛え上げた体の男がいる。
他の団員が指示を仰いでいる場面もあったので、リーダー格なのかもしれない。
「……出来れば捕まえたいな」
「さっきも言ってたけど、おまえそんなこと言うキャラだっけ」
「……でも放っておいたら盗賊団だし、ずっと悪さするでしょ?」
茅峨の中に真っ直ぐな正義感があるわけじゃない。
――だが思い出したのだ、リディアのことを。




