第76話 祝賀会-2-
貿易港ゴルドラフ内、ファビディアナンドが主人として任されているゼムストリスの絢爛な屋敷。
大きな銀の門は開放されており、木々が美しく手入れされた庭園までは、どうやら誰でも入場可能のようだ。
中央の道の先には屋敷の正面扉があり、そこで招待状の確認を行なっているのが見える。
なるほど、屋敷に用向きがなければ門を開いているとはいえ、一般人が貴族の屋敷に立ち入る理由がない。
それ故の開放なのだろうが、正直不用心とも言える。
「おかげでミヨもここまで来れるんですけどね……ファビってやっぱり危機管理が甘いですわ」
クリスがごちる。
ロアンを先頭に、クリスと朋斗の間に茅峨を挟み、門を通って屋敷の庭の端に集まっていた。
「それなりに衛兵は居るけど、これってヤバい人間が敷地に来ても分かんねーよな……」
「奥方の案らしいぞ」
屋敷前へと進んでいく着飾った招待客を見ながら、ロアンはそんなことを言う。
「エウリュディーケが……!?」
なんでもこの祝賀会の為に特別な庭師に依頼をして全植木を整えたらしく、それを招待客のみが目にするのは勿体無いから庭先だけでも一般公開してはどうか……という案をファビディアナンドに勧めたらしい。
「はぁ、案も大概ですがホイホイ許可を出すファビもどうかと思いますわ……」
「とりあえず段取りと立ち位置整理したいんだけどさ、その前にロアンサン……と茅峨って、どんな知り合いなんだ?」
そんで嘉神はどこまで何を説明したんだ……? と朋斗が茅峨に話を振る。
茅峨は少し思い返しながら、以前嘉神と同行していたロアンのことを掻い摘んで話した。
「あの時は火事の後の状況を俺に教えてくれたけど……村の事件が起きたせいで、どっちかというと俺が巻き込んでた気がする……」
茅峨はううんと唸りながら渋く目を閉じる。
「それは別にいいけど、あの後仕事場で手配報道見た時は須真とひっくり返ったぜ……まぁ君のことは会った時、ぶっちゃけちょっと怪しいとは思ったんだよね」
「え……っ」
「でも君みたいなホワッとした子がまさか犯人っつーか元凶とは思わないだろ?」
わかる、と隣にいた朋斗は真顔になった。
「で、嘉神が俺に言ったのはさ、君は事件の犯人じゃないけどその証拠が無くて、証拠を探す為に今は隠れて色々探ってるってハナシなんだけど……これはマジなの?」
問われて、クリスと朋斗が茅峨を見る。その表情は「はい」って言っとけ、という圧があった。
「は、はい」
そんな茅峨の様子にロアンは一応納得をしたようにそうかと息を吐く。
きっと嘉神から茅峨の庇いも聞いているだろうが、彼は聡いので何かしらのこちらの事情も疑っているだろう。
しかしそれ以上深掘りはしてこなかった。
「ロアン様はこの祝賀会に出席予定では無かったのですよね? わざわざご足労頂いて申し訳ないですわ……」
「ああいや、親父と兄貴らも含めて招待状貰っててさ。親父は政務被ってて出られないし、俺も兄貴に任せたらいいかなって……だから欠席のつもりで、そのことを嘉神に言ってたんだよ。アイツ、ミヨちゃんから連絡貰ってその話を思い出したんだろうな」
それで嘉神になんやかんや言われて出席することになったそうだ。代わりにロアンの仕事は全部嘉神に押し付けてきたらしい。
「では、お兄様もいらっしゃるのです?」
「うん、もう何処かに来てると思う。……で、俺達がファビディアナンドに意見を言うつもりなのも、その辺りは気にしなくていい。ゼムストリス家の動向を、ウチはちょっと懸念してるんだよね。詳しくは言えないけどさ」
侯爵家ゼムストリス……次男のレイヴフォードは未族や魔法石の研究と繋がっている。
(貴族の人達でなにか確執があるのかな……?)
茅峨は少し頭によぎったが、政界や階級のある人物の関係性は未知数だ。
そもそも相手は侯爵なので、周囲を扇動する力は充分にある。貴族達がこぞって内密に魔法石の研究に関わっていることも有り得る。
(ロアンさんの家は、どうなんだろう)
「てかさ、あの嘉神がクリス嬢をフォローに回るのも不思議なんだよな。魔法関係なのか?」
「わ、わたくし全然、グレイドル卿に手を回して頂けるような覚えはないのですが……」
クリスはその件については、ロアンとの合流案が出た時から戸惑っている。それはそうだ、嘉神と会ったこともないのだから。
茅峨と朋斗はこっそりと、魔法使いの親近感とかかなぁ……? などと会話した。
その後一通りファビディアナンドに対する異議の段取りを確認し、茅峨を除く三人は屋敷内へと向かうことになる。
すると茅峨の肩に、珍しくリィが飛び乗った。
「わ……!?」
赤毛は相変わらずのもふもふの毛並みである。
「ペット不可だからな。悪いけどリィのこと頼むわ」
茅峨は感動している。
初対面の時は避けられたし、なんだかんだでリィが茅峨の近くに寄ってきた記憶は今までにない。
「い、いいの? 嫌われてるのかと……!」
「おまえのことは嫌いではねーだろ、ダチなのも分かってるし」
そう朋斗は言うが、リィは茅峨の肩でツンとすました感じでいる。
「と、朋斗と仲良いと逆にイヤ……とかない?」
「ええ? なんだそりゃ」
よく分からんという顔で朋斗は首を傾げる。
「じゃあそろそろ行こうか。ミヨちゃん一人で待つことになるけど、大丈夫?」
「うん。それに少し気になることもあるから……」
「?」
茅峨が屋敷ではなく別の方角を見上げたので、ロアンは目をぱちくりとさせた。
「なぁ、今更だけど祝賀会って何すんの?」
「大体交流と軽食とダンスですわよ」
それを聞いて朋斗はやっぱりなぁ……と項垂れる。
「クリスとロアンサンがペアなら俺、壁に居ていい?」
「べつにわたくしと踊ってくれてもいいんですのよ?」
「無理デスネ……」
「もう。茅峨が手配されてなければ貴方達もペアで紛れこめましたのに……!」
それに折角可愛く着飾れそうなのに勿体無いですわ! とクリスは茅峨を見ながら嘆く。
「ペア……って、おっ俺がドレスってこと……!?」
「つーか手配されてなかったら女装自体やってねえんだよなぁ」
茅峨は目を丸くして、朋斗は普通に呆れた。
もしかしたらリィは茅峨に対して、「アナタのことまだ認めてないんだからあんまり朋斗と仲良くならないでよね!でも朋斗が言うから仕方なく肩に乗ってあげるんだからね!」みたいなタイプなのかもしれない。
でも洞窟で茅峨がカニに吹っ飛ばされた時は心配して近くに居るんですよね…




