第73話 貿易港ゴルドラフ-2-
標準的なアイテム以外には疎い茅峨と朋斗だが、折角なので二人も店内を見てみる。
「リィ、じっとしとけよ。尻尾とか」
骨董品や値が張る品物もあるようなので、壊すわけにはいかない。
分厚い木の床を小さく踏み締めるたび、乾いた薬草と甘い香、それにどこかツンとした金属の混ざった空気が揺れる。
店内を埋め尽くすのは年代ものの棚だったが、どれもきちんと手入れがされており、不可思議なラベルの薬草瓶や小さな護符の束、金細工のアクセサリーなどが所狭しと並んでいた。
「この辺のポーション全部違う効力なのかな。色も少しずつ違う……」
「すげえ、回復用途こまか。しかも消費期限無しの保証付き? とんでもねえな」
「よ、よく読めるねこの難しいラベル」
「翻訳スキルってのがあってな……」
「えっ?」
奥側に目をやると、商売の月日がうかがえる古い天板のカウンターがある。
店主は小さな身なりの老婆だった。
老婆は先程それなりにクリスが騒いでいたことも気に留めず、カウンターの中の揺り椅子でうつらうつらと舟を漕いでいる。
「あ、これ聖水だ……“オーレンゼ教会マザーブルーレースより祝福”?」
「うわガチの人じゃん」
「がち?」
「聖女を騙ってる人も結構いるからさ……」
硝子小瓶の聖水は淡い胡桃色の木箱に厳かに入れられている。
液体は店内の柔らかな光を受け、無色であるのにどこか七色のようにも見えた。
注視すると不思議と体の底がそわそわとしてくる。
「そういえばこの前の洞窟でクリスの聖水も、効果凄かったよね……!」
「あーあれな、予想以上に効いてたけど謎だよな」
「なにが謎なんですのよ?」
二人の近くで前のめりに物色していたクリスが顔を上げる。
「錬金術だけで聖水って作れんの? あれって綺麗な水を教会の祝福だか唱え言葉だかで清めて効果出すんだろ?」
その疑問にクリスは少し得意気な顔になった。
「唱え言葉なんてよく知ってますわね。確かにあの水は直接祝福を受けてはいませんが、聖職の御方から清めた塩を頂き素材に使っているのですわ」
「へえ……他にはどんな素材を使ってるの?」
アイテム屋の店内ゆえにクリスは少し声を顰めるが、その表情はキリリと口角が上がっている。
「エマ霊山の湧き水に、分子の性質を変える消臭成分、厳選した酒精や植物由来の酸などを調合していますわ。つまり高濃度純正アルコールです! スプレーボトル入りもおすすめですことよ」
「クリスの聖水は化学製品ってこと……!?」
「スプレーって、それで亡霊倒せるんだな……」
ヒソヒソと聖水談義をしながらもクリスは他に陳列されたアイテムをひとつひとつ見繕っていく。
「わたくしの聖水は一級品ですが、それでもハイランクの怨霊は聖水無効だったりするんですのよね。こちらのマザーブルーレースの祝福ともなれば太刀打ち出来るのでしょうけれど」
「む、無効とかあるんだ」
「確かに、残留思念が強すぎるとアイテムだけじゃそうそう祓えねえもんな」
悪霊屋敷のクエストとかあったなぁ、などと朋斗は過去の仕事に思いを馳せる。
「でもクリスって、屋敷から離れてアイテム作りの事業は大丈夫なの?」
「勿論。わたくしがわざわざ指示しなくても適宜稼働出来るようにしてありますわ!」
茅峨の問いにクリスはどんと胸を張る。
そんな彼女が抱えているカゴには謎の瓶や謎の羊皮紙、ドライフラワーのスワッグなどのアイテムがこんもりと入れられていた。
ふとカウンターに目をやると、いつの間にか沢山の古文書とおぼしき本が積まれているが、あちらもクリスが買うのだろうか。
カウンターまで抱えた品物を持っていき目覚めた老婆に意気揚々と宅配を頼んでいるクリスを、茅峨は楽しそうだなぁという気持ちで微笑ましく見ており、隣の朋斗はやや呆れ気味に眺めていた。
「ん? なぁ、ここの二階って整備屋だぜ」
朋斗が指差した方を見てみると、アイテム屋の奥の方に鉄板のイーゼルが立っている。
【武器、装備品整備】とチョークで書かれており、すぐ傍に木造りの古風な階段が伸びていた。
ちょっと剣見て貰ってくるわ、と朋斗が上へと上がるので、茅峨も着いて行ってみる。
二階といっても屋根裏のようで、ワンフロア丸々整備用に使っているようだ。
下の独特の香の香りとは違い、金属や鉄、材木と石の匂いがする。
そこには体格の良い壮年の男性が二人いて、穏やかに迎えてくれた。
朋斗が慣れたように整理の希望を伝え、すぐに男性と談笑を始める。
(すごい、朋斗、冒険者っぽい……!)
冒険者なのだが。今までたまたま他人と雑談するところを目にする機会がなかったので、何だか新鮮だった。
「お嬢ちゃんは付き添いか? それとも何か見て欲しいモンあるか?」
もう一人の男性にそう訊ねられたので、茅峨はそれならと伸縮の銀のロッド差し出す。
男性はふむふむと受け取りつつ、茅峨に戦闘中に何か困ったことがあるかどうかを確認した。
「えっと……」
少しだけ考え、この間立て続けに戦った時に上手く力が出せなくなったこと、力を使った後はよく眠くなる、という話を伝える。
「術は毎回頭ン中をフル回転させるからな。精神力を削られる、慣れねえうちは無理しちゃいけねえよ」
実際は術ではないが、術の構築式の発動とスフィアの自然の呼応が似ているのなら、同じように削られているのかもしれない。
暫くして整備されたロッドを受け取ると、少し軽くなっている気がした。
「術を使った時に起こる精神負荷をロッドから逃せるようにしといた。これで持久が増えるし、眠気も減るしはずだ」
「わ……! ありがとうございます」
朋斗の方を見ると、まだあちらは仕上げている途中らしかった。
「お嬢ちゃん、ついでにその欠けてるバレッタも修理してやるよ、サービスだ」
ミルクティー色の横髪を留めていた花のバレッタを指す。
「偏見かもだが、こういうかわいらしいアクセサリーって壊れたまま付けてる子あんまいねえンだよな。よっぽど気に入ってンのか?」
男性はそう言って笑ったが、茅峨は内心自分の身なりの無頓着さに少し焦った。
【茅峨】
銀のロッド 物理15/特殊40→60
スフィアがMP10→MP6で使えるようになった!
花のバレッタ 防御5→7
【朋斗】
判明中スキル
鑑定C
言語理解/翻訳B+(人類と使い魔のみ)
障壁展開B(補助アイテムにより分散可能、障壁の重複可能、重複により効果が上がる。また自分への敵意が無いものほど効果が上がる)「その効果って役に立つのか…?」




