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第68話 保護観察条件


「わ、わたくしが…………無敵?」


 確かに……? 機関の人間よりわたくしの方が今や強いですし……? とクリストファーは純粋に首を傾げている。


 その朋斗とクリストファーのやりとりを見ながら、茅峨は少し笑みを漏らした。


「なんだよ茅峨」

「ううん、前に嘉神に言われたこと思い出して……好きに移動しろ、みたいに言われたなって」

「移動て。そっかおまえも村から出たことなかったんだよな」


 村では自分でどこへ行き何をするかの選択権が無かった。

 クリストファーは茅峨と状況は違うが、動けなかった状態を動いていいんじゃないかと言われたことは茅峨と似ている。


「朋斗は俺にとっての嘉神みたい」

「なんだそりゃ……」


 そんな事を言い合う二人の前で思案していたクリストファーは、パチリと扇子の端を閉じた。


「……わたくし、魔法石を取り除くだなんて考えもしませんでしたわ。兵器云々や幽閉状態が足枷になっていたのもありますけど……確かに身を犠牲にしなくても、戦対策はいくらでも考えられる」


 クリストファーの赤い瞳は明るい光を反射している。


「わたくし自ら研究員を脅せば魔法石から解放されるかもですわね……!? やる価値が有ることにどうして気がつかなかったのでしょう!!」


「急に脳筋じゃん! 脅すかは置いといてここ出てちまえば外なんか広いんだから情報収集は山ほど出来んだろ」

「と言っても、まず出ることが難しいのですけれど……」

「幽閉ってイスラより先は全く外に出られないの?」


 茅峨の問いに頷く。

「基本的にはそうですわ。平たく言えば捕えられているということですから」

「仮釈放みたいなのねえの?」


「ううん保護観察制度が無くはないですけれど、外にいる間はずっと上官クラスの警士が付いて監視しないといけませんわ。そんな面倒なことを買って出る警士なんておりませんし」


 クリストファー自身の身体のことなので、幽閉が解かれ本人が動く方が一番情報収集がしやすい。

 しかし幽閉そのものを解くのことが容易では無く……


「金はあるんだし警士買収したら?」

「犯罪ですわよ!! ちょくちょくお金で解決しようとしないでくださいません……!?」

「そんなつもりはねえけど、他に思いつかないんだよ」

「ちょ、ちょっと待って。上官クラスの警士ってどのくらいの?」

 茅峨がハッとして問いかける。


「監視対象にも寄りますけど、最低でも区域隊長クラス以上だったと思いますわ」

「…………」

 茅峨が朋斗に顔を向けて暫し見つめた。


「…………ん? あ、俺!?」

 驚いて目を見開いた朋斗だったが、すぐに察して手のひらを額に当てる。


「え? なにかあるんですの?」

「あるなぁ……」

「朋斗はギルドのランク高いから……」


 ランクSS以上は警士隊長レベルの権限を持つ、という旨の話をすると、クリストファーは勢い良く前のめりになった。


「そんな……! 権限なんて知りませんでしたわ、早く言ってくださいな!!」

「まさか言う必要性が出てくるとは思わねーだろ」

「朋斗が居ればわたくし、実質解放されなくても外に出放題なのでは!?」

「それって俺があんたとずっと居なきゃじゃん! 流石に無茶だわ!」


 クリストファーはコホンと咳払いをし何故か身なりを整え、ふわりとした所作の上目遣いで朋斗を見つめた。

「わたくしに、貴方を頼らせてはくださいませんか……?」

「あんたのキャラじゃねえだろそれ……!」


 普通に引かれて断られたのでクリストファーは茅峨に耳打ちする。

令嬢(わたくし)の美貌と目配せが通じませんわ。鈍感なのかしら……!?」

「ううん逆に朋斗って女の子慣れしてると思うんだよね……」

「聞こえてんだけど」


 風評被害だわと口を尖らせてから、朋斗が大きく息を吐く。

 そしてずっとは無理だけどある程度なら同行出来る、と言った。


「……ねえ朋斗、こんなこと言うのもあれですが貴方、権限を持つランクとしてこの件より茅峨と一緒に居る方がリスクが高そうですけれど……?」

「悪いけど俺も……り……お嬢様のあんたに無理矢理冒険させて怪我させるわけにはいかねえじゃん」


「?」


 なんだか文脈がおかしかったので、クリストファーと茅峨は首を傾げる。

 いくつか言葉が聞き取れなかった気がした。


「……ちょっと分かりませんでしたが……わたくしのことを配慮してくださっているのですわよね。茶化しましたけど、少しでも同行して頂けるだけで有り難いですわ。感謝致します」


 自分の胸元に指先を添え素直に微笑むクリストファーだったが、朋斗はやや怪訝そうに口元に手を当てた。

 まるで話したのに声に出なかったとでもいうような。


「……朋斗?」

 珍しく目を泳がせている朋斗の顔色を、茅峨がうかがう。


「……いや、なんでもねえ」


「やだ、もうこんな時間ですわ!」

 クリストファーが壁に掛かる時計を見て立ち上がった。話し込みすぎて完全に真夜中になっている。


 クリストファーに促され、本日はこれで解散することになった。

 部屋から出る時に彼女が確認する。


「お二人の出立のタイミングでわたくしも旅に同行致します、と言いたいところなのですが、保護観察申請にはきっちり手続きが必要で……それまでこの屋敷は好きに使って頂いて構いません。お待ち頂いても……?」


 おず、とクリストファーが問いかける。

 自分の事情を少年二人に絡めたことになるので、なんだかんだ後ろめたいのだろう。

 気丈で勝気な部分がしおらしくなっている。


 それを分かった上で二人は頷いた。


「ここなら他のギルドの奴らからも隠れられるしな。申請んとき俺に何か聞くことあったら呼んで」

「待ってるね。一緒に行こ」


 その言葉にクリストファーは眉尻を下げ、初めて年相応に微笑んだ。





 ――クリストファーと別れ、寝室前の廊下。



「一緒にって言ったけど、俺のそばにクリストファー様が居たら危なくなったりしないかな……!?」

 今更だが重要指名手配犯且つセレキという爆弾を持つ未族の一人である。


「危ないって意味じゃクリストファーも似たようなレベルで重要人物だからいいんじゃね? それにセレキはクリストファーのこと助けてたし、危害は加えねえだろ」


 そう聞いて茅峨は驚愕する。


「セレキって人助けするの……?」

「青ざめるほど意外なのかよ」

 信じられないといった表情の茅峨に朋斗は薄っすら汗をかく。


「つか茅峨のことも監視の名目でスルーしてんのにクリストファーも監視……板挟みな気いしてきた。他の高ランクと鉢合わせした時の言い訳考えとかねえと……」


 頭をガシガシと掻きながら呟く朋斗に、茅峨は朋斗のことも何か手伝いが出来ればいいのにと思った。

 朋斗がずっとソロだったのも魔物の討伐数が多いのも、何か事情があって旅をしているんじゃないかと……そう思うのに。


「とりあえず申請通るまで暫く待機だしさ、おまえも体調整えとけよ。おやすみー」


「うん。おやすみ……」


 朋斗が寝室に入って扉を閉めるのを見送る間に、自分が何を考えていたのか分からなくなってしまった。




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