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第65話 ノットペシミスティック-3-


 話の矛先が自分に向き、クリストファーは困惑する。

「わ、わたくしの話なんて、聞いてどうするんですのよ」

「茅峨のことだけ話すのってフェアじゃないじゃん」

 そう言われて彼女はむむ、と眉根を寄せた。


「なに言ってるんですの、片やいち貴族、片や重要指名手配犯ですわよ!? 今すぐ通報されないだけ有難いと思って然るべきですわ!」


 茅峨は「そ、そうだよね」と苦笑と自嘲が混じった顔をしているが、朋斗は何かを思いついたようだった。


「……じゃあさ、クリストファーにやった屍馬の角、あれの売価のプール分まだ残ってんだろ? その金こっちに渡さなくていいから、今後も通報はしないってのは?」


 クリストファーと茅峨は共にぽかんとして、それって……と一瞬考える。

「それ、口止め料ってことですわよね!? さらっと思いついてんじゃないですわよ!」

 クリストファーは扇子を朋斗に突き出して抗議するが、茅峨も何か思いついたのか顔を上げる。


「もし警士に俺が見つかって、クリストファー様が通報しなかったのを咎められそうな時は、俺に脅されてたことにするといいと思う……!」

「脅さッ……それはそれで貴方の犯罪数を重ねてるんですけれど!?」

「この手、朋斗には出来ないんだよね……」

「ランク有んだから脅される前に捕まえろって話になるもんな。このランク付けさあ不利なこと多くね? まじ持て余してんだけど」


 少年達は見当が合ってるのか合ってないのかの軽口を言っており、クリストファーは口をあんぐりと開ける。


 通報。通報か……



(正直わたくしの立ち位置も、国家にしてみればどうなんだという感じなのですが)


 持っていた扇子を、トンとテーブルに差した。


「……分かりましたわ。角の売価残高を相殺して通報はしない、その交渉を呑みましょう」


 見据えた赤い瞳は同情や訝しさもなく、ただ真っ直ぐだった。


「マジ?」

「い……いいの!? クリストファー様……」

「自分達で言っといて尻込みしないでくださいな。それにわたくし、先が長くありませんの」


「は……?」

 急なその言葉に二人は目を見張る。


「ですから安直な正義感を振り翳して、自分よりも年下の子の未来を摘み取るなんて無粋は……ちょっと、なんですのよその顔」

「そ、そんな……クリストファー様どこか病気……?」


 妙なことを口走ったので、茅峨と朋斗は先程よりも気まずそうである。

 ……貴方達の向かう先の方が常識的に気まずいと思うのだけど、とクリストファーは逆に笑えてきた。


「この際ですし、わたくしの話が聞きたかったのでしょう? 正直藪から蛇ですわよ、覚悟なさることね!」

「まさかだけど茅峨よりもやべー話……?」

「そっそれはどうか分かりませんが……茅峨のはベクトルがおかしいですもの。それで、まずなんでしたかしら。わたくしに聞きたいことがあるとか」


 そう促され、朋斗と茅峨は内容を確認するようにやや目を合わせてから、茅峨の方が口を開いた。


「……クリストファー様のことで気になることがあって。洞窟で未族の人が言ったこと、覚えてる?」

「未族って……あの青髪の男のことですの?」

「うん」


 ――あの男が言っていたこと。


『詠唱無し、魔法……もしやそこのお嬢さんは、クリストファー・ジアルクエか? 保守派の……』

『……玲綬に妙な子供に保守派の駒か。全員始末出来れば僥倖だな』



「玲綬は俺の、未族での本名なんだ」

「そうなの? 妙なっつーのは俺がスキル持ってるからだろ。で、保守派の駒ってのはあんたになるわけ、クリストファー」


「……」

 クリストファーはやや眉根を寄せ微妙な表情をしている。


「未族は、保守派ともう一つの派閥に分かれてるんだって。俺の知り合いが言うにはもしかしたらその派閥が戦争を……起こそうとしてるのかもって」

「えっ」

 驚いた声を出したのは朋斗で、クリストファーは更に顔を顰めた。


「……クリストファー様は未族と繋がってるの?」


 その言葉にクリストファーは渋い顔をしたまま首を横に振って、はっきりと言った。


「わたくし、なんのことだかさっぱりですわ」


「……本当か? あの未族の奴、確か保守派の奴が来てるとか言って退散したけど、今日来てた銀髪の貴族がそうなんじゃねえの? セレキもそこ引っかかってたみたいだし」

 朋斗の発言に茅峨の方が顔を上げた。


「えっあの人は未族じゃないと思うけど……髪も青くないし」

「それは分かんねえだろ、おまえみたく変装してるかもじゃん」


「レイヴフォード様……彼はゼムストリス侯爵家の次男ですわ。未族が青い髪だと言うのなら、彼は変装なんかではありませんことよ。わたくし、昔から知っていますもの」


「侯爵家の人なの!? あの、もしかして、クリストファー様の今の恋人とか……?」

 上位の貴族爵位が出てきて戸惑うが、廊下での二人のやりとりを見るに親しい間柄にも感じる。


 するとクリストファーはあからさまに仰天した。

「そんなわけありませんわよ! ただの関係者というか……」

「クリストファーも付き合ってる奴にはしおらしくするのかと思ったけど、違うのか」

「それどういう意味ですの……!?」


 しかしそうなると余計謎になる。

 侯爵家の血筋と未族の保守派。


「……貴族と未族が つ、繋がってる? でも……」


 ぽつりと茅峨が漏らすが、しかしそれでも明確ではない。


「わたくしにはレイヴフォード様がその“保守派”かどうかは分かりませんわ。けど戦争を起こす云々には心当たりがあります」


「え……?」


 クリストファーは一呼吸置く。


「まず……わたくしのこの身体には魔法石というものが埋められているのです。魔法が使えるのはその為ですわ」


「そ……それって人工的に魔法を使えるようにしたってこと……!?」

「魔法石なんて聞いたことねえけど……」

 驚きと怪訝を交える二人にクリストファーは続ける。


「……順を追って話しますわね。というか、結構かなり、とても! 理不尽なので! わたくしの愚痴と思って聞いてくださいな!」


 クリストファーが拳を握りしめて語気を強く発するので、茅峨と朋斗は少し汗をかいた。




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