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第64話 ノットペシミスティック-2-


「……俺、村にいる時は死んでもいいと思ってたんだよね」


 唐突に希死念慮に近いことを言われ、朋斗とクリストファーは固まる。


「みょっ……茅峨貴方……そう、村でのこと……察するに余りありますわ……」

「あっそういう意味じゃなくて」

「今のに他の意味とかあんのかよ……!?」


「例えば水路の橋から下の川に落ちそうになっても、仕方ないなぁって」


 クリストファーはしかめ面をしたし、朋斗はその川、橋からすげぇ下の方に流れてんじゃねえだろうな……と思った。


「……でもアスハが助けてくれたんだ。俺が死にそうなときだけは、村の人の前でも助けてくれた」


 そして決まって、「茅峨が死んだらみんな困るだろ?」と笑って言うのだ。

 橋で茅峨を押した村人達も、悪気なく笑って「そうだな」と言うのだ。


「俺、アスハが助けにくるの、やめてほしかった」


「…………それは」

「……死にたかったから、じゃあないんだよな?」


「うん。俺を庇ったら、アスハが今度は標的にされるかもしれなかったから。俺じゃない他の村人も、時々……通りすがりに殴られてるとか、あったから」


 どんな治安だ……と朋斗とクリストファーはなんとも言えない顔で目を合わせる。


「でも。やめてほしかったのに、俺さ。アスハが助けてくれたとき嬉しかったんだ。なんで嬉しかったのかは、よく分からないんだけど……」


 苦笑して疑問のように首を傾ける。

 嬉しかったし、助けてくれてありがとうと本心でアスハに告げたのはよく覚えている。


 そんな茅峨を見ながら朋斗は怪訝そうに言った。


「……てかアスハって誰!?」

「あっ朋斗も知らないんですのね、わたくしだけ置いて行かれたのかと思いましたわ」


 茅峨は一通りアスハとの関係を説明すると、クリストファーはかなり微妙な顔をする。


「誰もいないところだと優しい……まぁ、人が見ていると不味いというのは、その治安であれば……でももうちょっと……けど茅峨も納得してるのなら……?」

 着地点が分からないようだ。


「嬉しかったのって自分は居てもいいって肯定された感じだからじゃねえの」

「そう、なのかな……」


 クリストファーがパチリと扇子を鳴らす。

「茅峨がそのアスハのことが人として好きなのなら、庇われたらそれは嬉しいですわよ」


「……そうなの?」

「俺に聞くなって……でもまぁたぶん、それだと思うわ」


 茅峨は少し考えて、納得したようだった。


「アスハ、俺にもご飯置いててくれたり、他にもたくさん感謝してること、あるんだ。だから」

 小さく顔を上げる。


「村には何も残してるものはないって考えてたけど、アスハのことは心配で…………もう一度会いたい」



 それは、きっと自分が捕まってしまえば出来ないことで。


「……あれ? じゃあそのアスハは生きてるんだな」

「うん生きてる。でも火事の時にセレキがほとんど殺してて、病院に入ってた」

「最悪じゃねえか……」

 朋斗は頭を抱える。


「俺は村をあんな風にする気なんか全然なくて、セレキがアスハにしたことも……そう、許せないんだ。いやだった」

 炎の中でアスハが冷たくて、悲しくていやで、どうしたらいいか分からなかった。



「だから、セレキがまた俺と一緒になるんじゃなくて……引き剥がせるように、ちゃんとその方法を探そうと思う」



「…………」

 クリストファーはやや目を伏せ、眉間を寄せる。

「剥がす……消してしまうのではないと?」

 消すとセレキの倫理や罪が浮いてしまう、と茅峨は首を振って否定する。


「そう。かなり抽象的ではありますが……方法の当てはなにかあるんですの?」

「そ、それはまだ……まず王都に行って色々探そうとかと……」

 その案にクリストファーは驚きで後ろに仰け反りかけた。


「ばっ……!! それ自分から牢屋に飛び込むようなものですわよ!?」

 飛んで火に入るなんとやらである。

 クリストファーはまばたきを何度もしてからもう一度茅峨を見る。

 なんて無謀な……と呆れ混じりに自分の額に手のひらを添える。


「ああけれど王都が一番医術にも犯罪審議にも特出しているのは確かですわね……まったくもう。朋斗は? 貴方はどうするつもりなんですの」


 暫く黙っていた朋斗は話を振られ、特に問題ない様子で茅峨に視線をやる。


「一緒に行くつもりだけど。茅峨と顔合わせちまってる手前俺の立場的にもだし、他の賞金首狙いと鉢合わせてもやっかいだしな」

 それに……と続ける。


「こいつが気絶してセレキがまた出てきて暴れたりとか、無いとは限らないだろ。こいつの見た目でまた人殺させるわけにはいかねえし」

「あ……セレキ、俺が普通に寝てても出てこれるとは言ってた」

「初耳なんだけど!? そういや下水道んとき寝るとまずいとか言ってたっけ……!?」


「ねえ、ちょっと」

 朋斗が困惑しながら汗をかく向かい側で、クリストファーがピシャリと言う。


「セレキがまた出てきたとき朋斗は対処出来るんですの? 人への危害や村を燃やすことをセーブ無しにやってしまう子ですわよ?」

「ああ、けど俺はセレキには負けねえし。……おいなんだよその目、全然信じてないだろクリストファー」


 茅峨の胸の中がざわりとした。さっきまで何も挙動を感じなかったのに、自分の中のセレキが(わら)っている。

 だが茅峨はそれを感動の気持ちで押しのけた。


「ありがとう朋斗……! そうなったらアイツをぼこぼこにしていいから」

「おまえセレキにだけは問答無用で辛辣だよなぁ……」


 少年二人を見つめながら、クリストファーはぽつりと漏らす。


「……なんか、すごいですわね。友人だからといっても、指名手配者と同行するなんてかなり身を切る選択ですけれど」

「それは本当に、そうだと思う……! 朋斗にメリットもなにもないのに」

「なにかきちんと理由でもあるんですの?」


 そう言われ朋斗は「んー」と軽く頭を掻く。

「理由とか特にねえけど……めっちゃしょうもないことなら……」

 二人はまじまじと朋斗を見た。


「俺って誰かの為に何かしたこと無かったんだよな。これまで色んな村も街もギルドも見てきたけど、ここじゃみんな協力?とか、支え合って生きてんだなーと思って」


 その発言にクリストファーはきょとりとする。

「それはそうでしょう?」


「うんまぁ、そうなんだろうけど、俺はあんまそういうの実感して生きてこなかったというか」

 朋斗はほんの少し苦笑している。


「だから俺も自分のことだけじゃなくて、何かしたいなって思ったんだよ」


「……」



「何かしたいで選択するものがぶっとんでますけどね……!?」

「それは仕方ねぇだろ」


 ……朋斗のことを、茅峨は本当に知らない。どこから来てなぜ冒険をしているのか。

 以前も少し疑問に思った気がするのに、朋斗に訊ねる前にそれが頭から霧散していく。


「じゃあ次はあんたの話だな」

「え? わ、わたくし?」


「茅峨のことばっか開示するわけにはいかないだろ。ちょっと聞きたいこともあるし」


 流れの矛先を向けられたクリストファーは、目を丸くして少年達を見つめた。





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