ドン底から成り上がった女王
ラケール成り上がりのお話はこれで終わります。
「父上、なんにか御用でしょうか」
「なんでしょうお父様」
オーバンはレオーネとジョセリンを直接呼び出し、モニター上には三者が顔を合わせる格好となっていた。
「今回の委任状争奪戦で票の買収が行われたと聞いたのだが」
レオーネ「・・・」
ジョセリン「・・・」
単刀直入に金を使ったかと問いただすと、二人とも押し黙ったままだ。しかし一気に緊張したのかハンカチで顔の汗を拭っていた・・。
「もう一度聞く、金を使ったのは両者ともにだな」
「いえ、まさか」
「は、はい、身に覚えが」
微妙に拒否していた二人だったがものすごく顔色が悪い。特に疑いを掛けられた長男レオーネなら疑われたら普通、激昂する筈だが随分と大人しい。
「レオーネ、ジョセリン、これは君達のサインで間違いないな」
「・・・そうです」
「はい」
「レオーネ、君は貴族の女を抱いただろ」
領収書の映像を2人に送ると諦め買収した事実を認めるのだった。だがそれだけでは無かった、レオーネにレイチェルの事を聞くと・・・。
「まさか、レイチェルと会ったのはユーリー陛下の時ですよお父さん」
「そんな良い訳が通用するとでも思ったのか!日頃の悪行が自分に戻って来ただけだろ」
流石に危機感の無い息子に激昂してオーバンは声を荒げ、眉間に血管が浮き出ていた・・。
「ですが!」
「委任状争奪戦が始まる前ならまだ言い訳が立つが、最中に関係を結べば先を見据えての行動と取られてもおかしくない」
「言い訳はいくらでも立ちます」
「いいかげんにしろ!お前がアライアス家を潰したんだ!」
激しく激昂し大声で”お前が家を潰した”と叫ぶオーバンの本気の怒りに触れ、ビクッと体が反応すると、みるみる顔色が悪くなりレオーネは観念したのか肩を落としガックリと項垂れていた・・・。
「終わった・・・もう終わりだ」
「荷物をまとめる準備に入れ、レオーネ」
「・・・はい」
「それとジョセリン、今回使った金は会社の裏金だろ」
「ま、まさか、そんな事までバレているのでしょうか」
「会社を潰したくなければ、自分の金を会社に入れて帳尻を合わせて申告しろ」
「う、裏金は関係者しか知らない筈、そのままで大丈夫ですよお父さん」
「財務状況はWEBで確認出来るんだぞ、修正し無かったら告発されるぞ。そもそもこの情報の出所は元老院だからな!」
「クッ、分かりました」
「俺は明日、王籍破棄の宣言をする。決定事項だ!」
今までモジュールで通話し、無言だったが、最後の締めの言葉は思わず口に出していた。そしてわずか数分の通話なのだがオーバンの表情は憔悴仕切っていた。
「ふむ、やはりご子息は買収に走ったのか・・・言わんでいいよ、さっきの言葉と顔みりゃわかる」
「もう決めたよ、明日の議会でアライアス家の王位破棄を宣言する」
「ああ、それが一番無難な選択だな。君らは狙われておったんじゃよ」
「狙われる覚えは無いが、だが確かに今となって考えればユーリーの時も手際が良かった。ところでその情報は何処から入手したんだ」
「知った所でどうするんだ。君に殺す度胸は無いのだろ」
「うぐぐ、君は知っているのか・・」
「ああ知ってるさ、取引をしたんだよ、誰かに秘密を喋ればほとんどの上位貴族は滅ぶな」
「滅ぶだと・・分かったせめて性別くらいは教えてくれ」
「何とも豪胆な女性だったな、教えられるのはここまでだ。それじゃ明日、議会で会おう」
こうしてアライアス家は王位を返還することとなったのだ。そして時は流れ、アーヴィン王宮、玉座の間ではベルナールが玉座の椅子に座り、その後ろにラケールが立っていたが目線は何処か遠くをずっと見ていた。
オーバン「ベルナール陛下、後は頼みました」
ベルナール「はい、謹んでお受けします。オーバン元陛下」
ラケール「・・・・」
アライアス家が王位を返還した3ヶ月後、玉座の間では王位委譲式が終りを迎え、オーバン元陛下がベルナール新陛下に王冠を乗せるのだった。ラケールは入場してきた実の父オーバンに一度も目を合わせること無く、口は一文字のまま開く事は無かった。
「陛下の呼び名はよしてくれ、私は王にすらなっていないんだよ」
オーバン家はラシェルが集めた情報を貴族院、元老院に流すと大激怒し王位継承権破棄を迫り。そして次期王に立候補したベルナールをラケールが全面的にバックアップ。徹底的に洗い出しを行い裏工作に奔走。特にディスティアの技術を取り入れた偽装ラシェルの威力が凄まじくスキャンダルを連発させた。そしてレイラは侍女仲間の協力を得て貴族たちの裏帳簿を入手すると、それを使い脅し次々に候補者を脱落させていったのだった。蓋を開けてみれば先回りして委任状の過半数を集めていた事が公になると、決選投票は行われず不戦勝で勝ったのだった。
「わかりました」
「まさか、我が息子も金と女で滅ぶとは思わなかったよ」
オーバン家の息子達は最初から金を送っていたわけではなかった。水面下でベルナールが次期国王に選ばれるのに必要な委任状の件で動き回っている時、帯同していたラケールが、偽の領収書のコピーを見せ、金が動いていると噂を流していた。そして全ての上位貴族に触れ回ると欲深い奴は票を買わないかと持ちかけ、ある貴族は王子に密告。そして票読みが狂い始め金の応酬が始まってしまったのだ。
「オーバン、それは致し方のないことです。目の前に王の椅子が見えれば誰しも間違いを起こすのです」
「今回、そなたの手腕は見事であった。どうかこの国をより良き道に導いてはくれぬか」
「畏まりました。ラケールとラシェル、レイラと共に盛り上げて行きます」
「ああ、幸いだったのはラケールとラシェルが王家に残った事だ」
「二人とも喜んでアライアス家の名を捨てリベラの名を名乗るようになりました。間違ってもラケールを実の娘だとは思わないで下さい」
「・・・・そうか、喜んで捨てたのか」
ここに来てあの日、ラケールを見捨てたことを思い出したオーバンは落胆した表情を浮かべていた。もしこれから彼女と会話することがあっても、以前の様に”お父様”とは絶対に呼ばないだろうと思うのだった。
「私のことが話題に上がったら伝えてくれと頼まれていまして、少々発言し辛いのですが宜しいでしょうか」
「ああ構わんよ、どんな言葉でも受け入れるつもりだ」
「捨ててくれてありがとう、そのおかげで”女王”になれました。だそうです」
「すまなかった。これだけ使えてくれぬか」
オーバンはあの時の過ちを深く反省しているのか、全く驚くことなくラケールの言葉を受け入れ、一瞬彼女の表情を伺ったが能面の様に無表情のまま遠くを見ていた。そして謝罪の言葉を述べ聴こえている筈なのだが、ピクリとも微動だにしなかった。
「わかりました。一度だけしか言いませんがよく聞いて下さい」
「はい陛下」
「ラケールを一生大事にします、お父さん」
「ベルナール君、・・・ありがとう」
ベルナールはオーバンに対し一度だけお父さんと呼び敬意を現し、一言だけ父親として接する機会を与えるのだった。
ーー
翌日、新しい王となったベルナールは新任挨拶を行うために王宮の演説台近くで待機していた。3歩進めば物凄い観衆が彼を迎えてくれるのだった。
執事「ベルナール陛下、就任おめでとうございます」
「う、うん、なんだか慣れないね」
扉の前でベルナールは落ち着きが無く終始ソワソワしていた。一方、女王として控えているラケールは凛とした表情で既に貫禄が出ていた。
「ベル!しっかりしなさい、貴方は王様なのよ!」
「そ、そうだね・・・」
「陛下、私達がいれば大丈夫よ!」
実年齢の姿に戻っているラシェルの雰囲気はまるでお母さんのようだ。王族として人前に出る時は必ずこの姿に戻っていた。年が離れている彼女を側室として迎え入れたが建前上、養母として入ったことになっているので彼女の両腕には小さな赤ん坊が抱かれていた。
「よろしく頼むねラシェル」
「うふふ、ありがとうベル、わたしを側室に向かえてくれて!」
だが、一番化けたのはレイラだった。代理で子供を生んだ様には全く見えない。侍女の頃よりも何倍も綺麗になっていた。流石元貴族といったところだろうか。
「レイラ、凄く綺麗になってびっくりしたよ。それとラケールが第二夫人にしなさいって言うんだもん」
「うふふ、よろしくねベル陛下!」
「キャ!レイラ様素敵です!」
レイラの周りには数十人の侍女たちが仕事を放ったらかして集まっていた。彼女達はもちろん今回の協力者でもあり、中にはアマンシオに乱暴された女性も複数名入っていた。
「さぁベル!国民に向かって新しいアーヴィンが進んで行く道を示すのよ!」
「うん、そうだね、わかった!」
アマンシオが起こした暴行事件から数年。不幸のドン底だったラケールは復讐を終え女王に成り上がった。政争の具にされたラシェルは生き方を変え汚い仕事を行ったが、あの日の約束を守った新女王は側室として正式に迎え入れることに。そして侍女レイラは没落貴族から一気に第二夫人に成り上がったのだ。
「4人でアーヴィンを盛り上げていきましょう!」
新生アーヴィン王国はベルナール国王が聡明なラケール女王の力を借り国全体を盛り上げ、そしてラシェルと共にディスティア政府と対等な関係まで発展させた。因みに庶民派のレイラは国民の人気者になり、細かい不満をすくい上げ政務に邁進し健全な国作りに貢献するのだった。
ーー
後日、ディスティアに就任の挨拶に訪れたラケール・・。
「おお、まさしく女王の貫禄が出ていますねラケール陛下!(親善大使の時とは大違いじゃ」
能面のように無表情で暗かったラケールは女王に成り上がり、あの頃とは別人のような立ち振舞と、美貌を振りまいていた。
「ランディ総統閣下有難うございます。両国の懸案事項でした”エドガー元夫人”はベルナール陛下の側室となり、ディスティア政府とより強き絆が出来たと確信しております(ちゃんと借りは返してもらうからね!」
「おお、そうだな(なんだ?凄く強気だな」
ハインツ「・・・・(クッソ、扱いに困って助け舟を出されたと思ったが、此処まで強かとは・・」
「おほほ、両国の関係がますます強固な関係に発展することを望んでおります。より一層のご協力賜らん事切に願っております(フン!私が生きているうちに対等な関係まで昇華させてやる」
ランディ「あはは、そうですね(怖いよ~、目が笑ってないよ~」
ハインツ「今後ともよろしくお願いします(これは引き締めないとまずいぞ」
とまぁ、ハインツが扱いに困っていたラシェルを、私が引き取ると言われ問題が解決したと思っていたら、元夫人の肩書を使い友好の懸け橋として旦那の側室に入れたと言い放った。元々アーヴィンの王女なのにディスティアの重要人物として扱うラケールの強かさに舌を巻く二人であった・・・。
「今後、人材《人質》交換外交は”身分”を低くして柔軟に対応していきましょう」
ハインツ「はいそうですね(棒」
先手必勝とばかりに人質外交をやめると言いだしたラケール。これからは対等に扱えと遠回しで宣言した。ハインツは即座に意味を理解し返事をしたが呆れて棒読みだった・・・。
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