【ちくわ探偵】硝煙の裏路地と偽りの引き金
紀文おじさんを見送り、静まり返った夜の問屋街。
私は一人、琥珀色の外套を風になびかせ、暗い裏路地へと足を進めていた。その時、胸の空洞を通り抜ける夜風が、いつもと違う不穏な「殺気」を孕んで冷たく震えた。
「――そこまでだ、ちくわ探偵」
闇の中から、カチリ、と硬質なプラスチックの音が響く。
振り返った私の目に飛び込んできたのは、漆黒の銃口だった。それは、おでんの街の駄菓子屋ならどこにでも売っている、10歳以上対象の「BB弾のトイガン」だった。
パンッ!!!
鋭い発砲音とともに、昏睡成分を含んだ特製弾が放たれる。
だが次の瞬間、私は咄嗟に頭を下げ、自らの身体の構造を最大限に活かした超人的なディフェンスを試みた。
シュウゥゥッ!!!
黄色いプラスチック球は、私の頭部をかすめることすらなく、私の中心にぽっかりと開いた「胸の空洞」のど真ん中を、何一つ傷つけることなく綺麗に通り抜けていったのだ。
背後の壁に弾丸が虚しく跳ね返る音が響く。
「な、何だと……!? 弾が……通り抜けた……!?」
銃口を握っている「犯人」の姿を見た瞬間、私の脳細胞に本物の戦慄が走った。
「お、お前は……! おでんの街の治安を影から見守っていたはずの、最高権威……!」
闇からゆっくりと姿を現したのは、いつも法廷や現場のまとめ役として重鎮の座にいた、あの丸くて分厚い男――がんもどき氏だった。
「バ、バカな……! 完璧な狙いだったはずだ! ベテラン刑事を一撃で昏睡させる昆布巻コンビの出汁を仕込んだ特製弾が、なぜお前には効かない!」
私はフッ……と自嘲気味に微笑み、自身の胸の空洞に右手を当てた。
「がんもどき氏。お前は私を抹殺することに囚われ、私の最も基本的なディテールを忘れていたようだな。私の身体にあるこの穴は、ただ夜風を寂しく通すためのものではない。……敵のあらゆる弾道を無に還す、絶対不可侵の領域だ」
「クソッ、化物め……!」
「それに、がんもどき氏。あなたがどれだけ本物の殺意を模倣しようとも、その手に握られているのは、どこまでいっても本物の火薬式ではない。ただの精巧な玩具……模型の銃だ。
プラスチックで作られた、偽物の銃。
そう、『モデル銃』。
言い換えれば、浮かび上がる名前はただ一つ。
――銃もどき(がんもどき)だけに。」
「「「な、なんだってーーーー!!!?」」」
裏路地の闇に、本日一番の、あまりの兵器選定のハマり具合にぐうの音も出ないほどの圧倒的な納得が轟いた。
物陰で隠れて捜査を見ていたナルト氏も、あまりの神回避と語呂合わせの美しき融合に大号泣しながらスタンディングオベーションを送っている。
「ク、クソッ……! 玩具の銃だから『モデル・ガン』……! 順をひっくり返して言い換えれば『銃もどき』……! なんて完璧なプロットだ……! 私は自らのコンプレックスを埋めるための凶器にすら、自分の名前の呪縛を囚われていたというのか……!!」
がんもどき氏はあまりの敗北感とトイガンの軽さにその場に崩れ落ち、自らの罪を全面的に認めて御用となった。
おでんの街を揺るがした最高権威の悲しき引き金を解き明かし、私は一人、夜の帳が下りる街へと歩みを進めた。
胸の空洞を、今夜の夜風は、いつもより少しだけ熱く、けれど誇らしげに通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
撃ち込まれたBB弾の銃すらも自らの空洞で受け流し、完璧な『モデル銃』ロジックで黒幕の正体を暴き出す、孤独な練り物である。




