【ちくわ探偵】薄氷の路地裏と背後に迫る刃
がんもどき氏が連行され、再び静まり返った夜の裏路地。
「フッ、私の空洞は嘘をつけない……か」
私は一人、自らの絶対不可侵領域である胸の穴を撫で、自嘲気味に微笑んだ。銃弾すら通り抜けるこの空洞がある限り、私は無敵――そう確信した、まさにその刹那だった。
ザクッ!!!
「がはっ……!?」
激痛とともに、私の身体の奥深くに冷たい鋼の感触が突き刺さった。
銃弾のように通り抜けるのではない。今度は空洞のフチの魚肉部分を容赦なく破壊し、文字通り、強固に固定するように刺さっていた。
私が背後に目をやると、そこには漆黒の外套をまとった暗殺者が、不敵な笑みを浮かべていた。私の背中に突き立てられているのは、草刈り用の鋭利な「鎌」だった。
「ちくわ探偵。銃弾を通す空洞があろうとも、肉のある部分に物理的に叩き込めば、お前とてただの練り物にすぎん」
闇から月光に照らされたのは、木の葉のように美しく鋭いシルエットを持つ男――笹かま氏だった。
「フッ、がんもどきのような玩具に頼るから失敗するのだ。これでちくわ、お前の命もここまで……」
「……浅はかですね、笹かま氏」
私は口元から溢れ出る出汁を拭うこともせず、フッ……と冷たく笑った。
「何がおかしい、死に損ないが!」
「あなたが私を確実に仕連めるために選んだその凶器……それこそが、お前の正体を白日の下に晒す最大のディテールだ。よく見てみろ、私の背中に深く、無残に刺さっているものを。
私の身体に深く突き刺さった、鋭利な鎌。そう、『刺さった鎌』。すなわち、笹かまだ。
――だが、お前が突き刺したのは、ただの魚肉ではないぞ」
「何だと……!?」
突き刺さった鎌の先端から、ドロリと濃厚で、熱気によってとろりと溶けた最高級の「乳白色のチーズ」が溢れ出し、刃を伝って滴り落ちた。
「な、何だその白い液体は……!? 魚肉の出汁じゃない!」
「フッ……。お前が私の肉体の奥深くへ冷徹に刃を突き立てたことで、私の身体の奥深くに眠っていた極上の【チーズ】が、今まさにお前の鎌によって【チクッと】刺された。
そう、『チーズ(チー)が、チクッと(刺された)』。
……だが、このままチーちくに戻るのでは芸がない。せっかく熱い法廷の余熱と現場の湯気で、このチーズが最高の状態に溶けているんだ」
私は懐からおでんの出汁がたっぷり染みた大根を取り出すと、背中から溢れ出る熱々のトロトロチーズにそれをくぐらせた。
「な、何をしているんだお前は!?」
「こうするのさ。――ハプッ、モグ……フッ、素晴らしいコクだ。
溢れ出た最高のチーズを、おでんの出汁とともに【フォンデュ】にして美味しく食べる! これぞおでんの街の新たな美食ロジック!」
「「「な、なんだってーーーー!!!?」」」
裏路地の暗がりに、本日一番の、あまりの2段重ねによる衝撃のグルメ展開に誰もが耳を疑うほどの圧倒的な納得が轟いた。
物陰で見守っていたナルト氏も、まさかの同じネタ禁止の制約を「フォンデュにして完食する」というパワープレイで回避した探偵のプロ意識に大号泣しながらスタンディングオベーションを送っている。
「ク、クソッ……! 身体に『刺さった鎌』だから『ササかま』……! なのに、私が刺した手応えは『チーズがチクッと(チーちく)』で、しかもそれをその場でフォンデュにして美味しく消費されてしまうなんて……!! 致命傷を与えるどころか、最高の夜食を提供してしまったというのか……!!」
笹かま氏はあまりの敗北感とフォンデュの香ばしい匂いにその場に膝をつき、そのまま現行犯逮捕となった。
背中に刺さった鎌を自ら引き抜き、お腹も心もいっぱいに満たされながら、私は一人、歩みを進めた。
胃袋の中で溶け合うチーズと出汁の余韻を噛み締めながら、今夜の夜風は、いつもより少しだけマイルドに、けれど誇らしげに通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
背中に刺さった鎌すらも、完璧な『チーズがチクッと』からのフォンデュ・ロジックでおいしく解決してみせる、孤独でグルメな練り物である。




