【ちくわ探偵】断罪の法廷と暴かれた漆黒
チーちくの審判から数日後。おでんの街の最高裁判所は、前回以上の重苦しい空気に包まれていた。
なぜなら、今回証言台に立っているのは、街の誰もが信頼を寄せていた真っ白で四角い人格者――「はんぺん」だったからだ。
「ちくわ検事、これは何かの間違いだ!」
弁護側の「エリンギ」先生が、声を荒らげる。
「はんぺん氏が、お肌の乾燥に悩んでいた『白滝』さんを背後から突き落とし、出汁で溺れさせようとしたなどと、そんな悪質な事件を起こすはずがない! 証拠はどこにある!」
裁判長の「極厚がんもどき」氏が、四角いはんぺんを悲しげに見つめる。
「ちくわ検事。はんぺん氏は君の幼馴染だったはずだ。彼を追い詰めるだけの決定的な証拠が、本当にあるのかね?」
傍聴席のナルト氏が固唾を呑んで見守る中、私はフッ……と自嘲気味に微笑み、自身の胸の空洞に右手を当てた。
「……幼馴染だからこそ、法の下に平等でなければならない。裁判長、私が現場のゴミ箱から回収した、この『遺留品』をご覧ください」
私がバサァと外套を翻し、プラスチック製の証拠品袋を掲げる。
中に入っていたのは、中央から真っ二つに、無残に叩き折られた一本のボールペンだった。
「ただの壊れたペンじゃないか!」と、エリンギ先生が鼻で笑う。
「それが我が依頼人とどう結びつく!」
「よく見てみろ、エリンギ先生。これはただ壊れたのではない。綺麗に、ちょうど中央から【半分】に折られている。……そう、『半分に折れたペン(ハンブン・ペン)』。すなわち、ちくわ検事、よって犯人は――」
「待て!! それは違う!!」
法廷の扉が乱暴に開け放たれ、一人の男が乱入してきた。トレンチコートを羽織り、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた男――ゆで卵刑事である。
「ゆで卵刑事……? 裁判中に何の真似だ」
「ちくわ探偵、お前のロジックはまだ半熟だ。その証拠品袋のペンをよく見ろ。……その折れたボールペン、軸の色は何色だ?」
「何色って……見ての通り、黒だが……あッ!?」
気づいた私の脳裏に、激しい衝撃が走った。
傍聴席のナルト氏も、あまりの衝撃にピンクの渦巻きを裏返らせて立ち上がる。
「そうだ」と、ゆで卵刑事は鋭く私を指差した。
「それはただの半分に折れたペン(はんぺん)じゃない。黒くて、半分に折れたペン……。
すなわち、黒はんぺんだ!!」
「「「な、なんだってーーーー!!!?」」」
法廷中に、本日一番の、そして完全に鳥肌が立つレベルの圧倒的な納得が轟いた。
「バ、バカな……! ということは、犯人は私の幼馴染の白いはんぺんではなく……!」
私が証言台を見やると、白いはんぺんの影に隠れるようにして、これまで誰も気に留めていなかった「灰黒色をした三日月型の練り物」――黒はんぺんが、ブツブツと呪詛の言葉を吐きながらガタガタと震え出していた。
「ク、ククク……ハハハハ! 気づくのが遅いんだよちくわ探偵!! そうさ、白滝を突き落としたのはこの俺だ! いつの時代もおでんの主役はあの真っ白でふかふかした軟弱なはんぺんばかり! 魚の旨味を骨ごとすり潰した、この俺の野性味あふれる美味さに誰も注目しないからだ!!」
黒はんぺんは自暴自棄になり、自身の胸元を強く掻きむしった。
すると、熱い法廷の空気によって温められた彼の身体の奥から、イワシの黒酢のような濃厚な魚肉の黒い汁が、ドロリと法廷の床へ漏れ出したのだ。
「フッ……。お前の黒さは、やはり隠し通せなかったようだな、黒はんぺん」
「チクショウ……! 完璧に偽装していたはずの俺の殺意が、この土壇場で物理的にも漏れ出すなんて……!!」
冤罪が晴れた白いはんぺんは涙を流してちくわ探偵と固い握手を交わし、ナルト氏はあまりの叙述トリックの美しさにハンカチを8枚同時に濡らしながらスタンディングオベーションを送っている。
「静粛に! 静粛に!」
裁判長のがんもどき氏が木槌を力強く鳴らす。
「これ以上ない明白な証拠である。判決。被告人・黒はんぺんを、白滝さん襲撃の罪で、懲役半年に処する!」
真のホシを挙げ、閉廷した静かな法廷。私は一人、夜の帳が下りる街へと歩みを進めた。
胸の空洞を、今夜の夜風は、いつもより少しだけ優しく通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
黒くて半分に折れたペンからすらも、完璧な色彩ロジックで真犯人を暴き出す、孤独な練り物である。




