【ちくわ探偵】審判の法廷と九つの返り血
おでんの街の最高裁判所。その法廷内は、異様な熱気に包まれていた。
証言台に立つのは、全身にカリッと揚げられた衣の鎧を纏う闇の戦士――磯部揚げ。そして彼を断罪すべく、琥珀色の外套を翻して検事席に立つのが、私――ちくわ探偵である。
「異議あり!」
弁護側の「エリンギ」先生が、机を激しく叩いた。
「ちくわ検事! あなたは我が依頼人・磯部揚げ氏が、資産家『ちくわぶ』氏を闇討ちしたと主張するが、現場に残されていたのは、被害者が自らの血(出汁)で書いたという謎の文字列だけだ。こんなものが証拠になるか!」
裁判長の「極厚がんもどき」氏が、重々しく頷く。
「フム……確かに。現場の床には、ただ『血、血血血血血血血血血』と、文字がゲシュタルト崩壊を起こすほど並んでいたという。ちくわ検事、これが一体何を意味するのかね?」
傍聴席のナルト氏や白滝さんが固苔を呑んで見守る中、私はフッ……と自嘲気味に微笑み、自身の胸の空洞に右手を当てた。
「裁判長。茹ですぎた刑事や、言葉のディテールに厳しいラーメン・シティの面々なら、ここでまた『日本語の主従関係が逆だ』などと的外れなツッコミを入れたことでしょう。だが……私は今回、そんな無様なミスは犯さない」
私はバサァと外套を翻し、現場の写真(血文字)を全員に突きつけた。
「よく数えてみるがいい、磯部揚げ。被害者が遺した最初の『血』の後に、さらに『血』がいくつ並んでいる?」
「いくつって……1、2、3……9つ並んでいるが、それがどうした!」
「最初の『チ』のあとに、『チ』が9つ。……そう、『チ・9(チーちく)』だ。
被害者は、自分と同じ『ちくわ』の姿をしながら、その中に悪質なおつまみ要素を詰め込んだお前の裏の顔……すなわち、『チーちく』としての真の姿を、命がけで告発していたのだ!!
――チーちく(チ・9)だけに。」
「「「な、なんだってーーーー!!!」」」
法廷中に、本日一番の、そして完全にぐうの音も出ないほどの圧倒的な納得が轟いた。
だが、磯部揚げはまだ往生際悪く狂ったように笑う。
「ハ、ハハハ! 妄想も大概にしろちくわ探偵! 証拠はあるのか! 私の身体のどこにチーズの要素があるというんだ!」
「……まだしらを切るつもりか。法廷の熱気でお前の衣がどうなっているか、胸に手を当てて考えてみろ」
「あ……」
磯部揚げがハッと己の胸元に目を落とす。法廷の熱い空気によって、彼のカリッとした衣の奥が、限界まで温められていた。
次の瞬間、奴の中心にある空洞から、じっとりと白黄色く溶け出した「濃厚なプロセスチーズ」が、ドロリと法廷の床へ漏れ出したのだ。
「フッ……。お前の『穴』は嘘をつけなかったようだな、チーちく」
「バ、バカな……! 隠し通していた私の内なる乳製品が、この土壇場で漏れ出すなんて……!!」
ナルト氏はあまりのロジックと物理証拠の美しさに号泣しながらスタンディングオベーションを送っている。
「静粛に! 静粛に!」
裁判長のがんもどき氏が木槌をカンカンと鳴らす。
「これ以上ない明白な証拠である。判決。被告人・磯部揚げ(チーちく)を、ちくわぶ氏殺害の罪で懲役九年に処する!」
美しく謎が解き明かされ、閉廷した法廷。私は一人、夕暮れの街へと歩みを進めた。
胸の空洞を、今夜は少しだけ誇らしげな夜風が、心地よく通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
被害者の血文字からすらも、完璧なギミックで真相を導き出し、隠された中身までをも白日の下に晒す、孤独な練り物である。




