【ちくわ探偵】ラーメン・シティの黒い罠
醤油の香りと背脂が宙を舞う、夜の「ラーメン・シティ」。
その路地裏にある老舗の町中華で、またしても不穏な事件が幕を開けようとしていた。
「ち、ちくわ探偵! 助けてくれ!」
店内に駆け込んできたのは、私の古い友人であり、スープの出汁仲間でもある「ナルト」氏だった。彼のトレードマークであるピンクの渦巻きが、恐怖でいまにも裏返りそうになっている。
「落ち着きなさい、ナルト氏。私のこの空洞が、すでにただならぬ風を捉えている。……一体何があった?」
私は琥珀色の外套を翻し、カウンターの椅子に腰掛けた。
「事件だよ! 街を牛耳るチャーシュー派のボスが、何者かに襲撃されたんだ。現場には、被害者の血と……これが残されていた!」
ナルト氏が震える手で差し出したのは、事件現場の写真。そこには、ボスが息絶えた床の上に、ポツンと置かれた「黒くて四角い、あのトッピング」が写っていた。
「フム……これは『海苔』だな」
私がそう呟いた瞬間、店の扉が乱暴に開け放たれた。入ってきたのは、見るからにトゲトゲしい雰囲気を纏った、トッピング界の武闘派「辛口白髪ネギ」の面々だ。
「おいおい、ちくわ探偵。お前がここにいるってことは、もう犯人に目星がついているんだろ?」
白髪ネギのリーダーが、ピリピリとした殺気を放ちながら凄む。
「あの頑丈なチャーシューの親分を縛り上げて身動きを封じるなんて、普通の紐じゃ無理だ。一体何が使われたんだ!」
店内の緊張感が一気に沸点へと達する。私はフッ……と自嘲気味に微笑み、写真に写った黒い海苔を見つめた。
「犯人の手口は鮮やかでした。ボスの自由を奪ったのは、粘着成分のついた、あの文房具。……そう、海苔の裏に仕込まれていた、『海苔のついた糊』。
――海苔だけに。」
「「…………」」
「「…………」」
店内に、スープの冷めるような静寂が訪れた。
……が、次の瞬間、ナルト氏が我に返ったように大声でツッコんだ。
「いや探偵!! それ『糊のついた海苔』の逆だろ!!」
「えっ」と、私は思わず素に戻った。
「『海苔のついた糊』って言ったら、オレンジの蓋の容器のまわりに海苔がベタベタ貼り付いてるだけの、ただの汚い文房具になっちゃうだろ! チャーシューのボスを縛り付けたのは『海苔』なんだから、主語は海苔にしろよ!」
白髪ネギのリーダーも、腕組みをしながら激しく同意する。
「そうだぜ! ダジャレのクオリティを優先するあまり、日本語の主従関係がめちゃくちゃじゃねえか! ただの不審な文房具を現場に置いてんじゃねえよ、猛省しろ!」
私は冷や汗を流しながら、琥珀色の外套の襟をきゅっと直した。
「……フッ、さすがはラーメン・シティの面々。スープのコクだけでなく、言葉のディテールにも厳しい。だが、私の空洞にこれ以上のツッコミは野暮というもの……!」
誤魔化すように窓を蹴破り、私は夜の街へと飛び降りた。
胸の空洞を、いつもより少し恥ずかしい夜風が冷たく通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
ダジャレの主客転倒すらも、ミステリーの「謎」として煙に巻く、孤独な練り物である。




