【ちくわ探偵】怪盗カニかまの赤い罠
大鍋グランドホテル の最上階。今夜、この街の至宝である『深紅の最高級イクラ』のオークションが開催されていた。
だが、会場の空気は張り詰めている。なぜなら、あの男から予告状が届いたからだ。
『今宵、最高の出汁が煮立つ頃、深紅の至宝をいただきに参上する。――怪盗カニかま』
「ふん、出たな偽物のカリスマめ」
会場の隅で、琥珀色の外套を小粋にまとった私――ちくわ探偵は、自身の胸の空洞を通り抜ける夜風を感じていた。
「ちくわ探偵! 来てくれたのか!」
主催者の「高級大根」氏が、出汁を滴らせながら駆け寄ってくる。
「警備は万全だ。だが奴は、本物のカニに擬態して警備の目を欺く名手。どうか奴の正体を見破ってくれ!」
その時、会場の照明が突然消えた。
「キャーッ!」
白滝さんたちの悲鳴が響く。数秒後、非常電源が立ち上がると――展示ケースは粉々に割れ、イクラは消え去っていた。代わりに残されていたのは、一枚の赤いカード。
「フハハハ! 至宝は確かにいただいた!」
見上げれば、シャンデリアの上に立つ人影。赤と白のスタイリッシュなマントを翻す美男子――怪盗カニかまである。
「待て、カニかま!」
私が叫ぶと、怪盗は不敵に笑った。
「遅いよ、ちくわ探偵。私の華麗なステップに、君のその空っぽな身体では追いつけまい!」
怪盗カニかまが窓から飛び降りようとした、その瞬間。
私は懐から、ある「特殊な武器」を取り出し、全力で彼の足元へ投げつけた。
ドスッ……!
床に突き刺さったのは、怪しく光る一本の「鎌」だった。
ただの鎌ではない。その刃の根元には、禍々しくも巨大な「カニのハサミ」ががっちりと取り付けられている。
「な、なんだこの不気味な武器は!? カニのハサミがついた鎌……?」
足を止めた怪盗カニかまが、驚愕してそれを凝視する。その一瞬の隙を見逃さず、警備の巾着餅たちが奴を取り押さえた。
「くそっ、離せ! ……おい、ちくわ探偵! なぜ大事な捕物帳の最中に、こんな奇怪な鎌を投げたんだ!?」
捕らえられた怪盗が悔しげに叫ぶ。会場の誰もが、なぜ探偵がそんなものを用意していたのか分からず首を傾げた。
私はフッ……と自嘲気味に微笑み、自分の空洞に右手を当ててビシッと怪盗を指差した。
「怪盗カニかま。私が投げたのは、カニのハサミがついた鎌。……そう、『カニの鎌(カニ・鎌)』。
――カニかまだけに。」
「「…………」」
「「…………」」
オークション会場に、本日一番の納得と、それ以上の静寂が訪れた。
高級大根氏の面取りされた角が、「なるほど……」と言いたげに深く頷く。
「……おい、さっきの『血鍬』よりはるかに分かりやすいが、やっぱり語呂合わせのためだけにその物騒な武器を特注したのか?」
「カニのハサミを鎌に合成する手間を、もっと別の捜査に回せよ……」
呆れ果てる一同を余所に、私は窓を開け、夜の出汁の街へと飛び降りた。
胸の空洞を、夜風が冷たく通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
ダジャレのためなら、鍛冶屋に特殊武器の発注をも辞さない、孤独な練り物である。
(完)




