【ちくわ探偵】深海の決闘と紅蓮に消えた勝者
那覇港からの船に揺られ、ようやく本土の港へと帰ってきた私を待っていたのは、潮の匂いに混ざる、ただならぬ「硝煙と出汁」の気配だった。
胸の空洞を通り抜ける夜風が、いつもより冷たく、そして生々しく震える。私は琥珀色の外套を翻し、港の倉庫街へと急行した。
「ちくわ探偵! 復帰を待っていたぞ、だが……一歩遅かった!」
現場で頭の白身を抑えていたのは、相棒のゆで卵刑事だった。床には、おでんの街の海鮮派閥を二分する重鎮、いかさん(烏賊)が墨を吐いて倒れていた。だが、真の惨劇はその隣だった。
そこには、巨大な「たこ焼きの鉄板のついた屋台」が佇んでおり、つい数分前まで生きていたはずの、もう一人の重鎮・たこさん(蛸)が、熱々のソースと青海苔をかけられた【たこ焼き】へと姿を変え、湯気を立てていた。
「刑事、これは一体……!」
「ああ、目撃者のナルト氏の話によると、ここでたこさんといかさんによる、派閥の未来を賭けた命がけの決闘が行われていたらしい。凄まじい死闘の末、たこさんがいかさんを圧倒し、まさに勝利を掴みかけたその時だ……! 闇の中から『真の犯人』に操られた屋台の親父が現れ、油断したたこさんを網で捕らえ、そのまま熱々の鉄板へ放り込んでしまったんだ!」
なんと残酷な。勝利の余韻に浸る間もなく、文字通り「焼き尽くされた」のだ。
現場の物陰で、真っ赤な顔をして震えている一人の小さな男がいた。お弁当の定番、赤いボディに切れ込みを入れられた彼に、私は静かに指を突きつけた。
「……つらい事件ですね、刑事。ですが、犯人はすでに、そこに【赤くなって】震えていますよ」
「何だと!? そいつはただの目撃者じゃないのか!?」
「いいえ。よく考えてみてください。この惨劇のシチュエーションを。たこさんといかさんが戦い、たこさんがまさに勝ちを収めようとした。
そう、たこさんが、勝利者になった瞬間です。
戦いに勝った、たこさん。
すなわち、『たこさん勝利者』。
短縮すれば、浮かび上がる犯人の名前はただ一つ。
――屋台の親父を裏で操り、本物のたこを抹殺した、たこさんウインナー、お前だ!!」
「「「な、なんだってーーーー!!!?」」」
港の倉庫街に、本日一番の、あまりの勝敗の行方と加工食品の悲しき融合に圧倒的な納得が轟いた。
物陰でカメラを構えていたナルト氏も、たこさんのあまりにも切ない最期と、完璧すぎる英語の語呂合わせに大号泣しながらスタンディングオベーションを送っている。
「ク、クソッ……! たこさんが勝った(ウィン)から『たこさんウィンナー』……! なんて完璧なリザルト(結果)だ……! 私は本物のたこたちの圧倒的なサイズ感に嫉妬し、自分が一番の『たこさん』になりたくて屋台を雇ったというのに、勝敗のディテールから見破られるなんて……!!」
犯人であるたこさんウインナー氏は、あまりの探偵のロジックの切れ味に、その切れ込みの入った足をガタガタと震わせ、その場で現行犯逮捕となった。
熱々のたこ焼きとなってしまったかつての友にそっと外套をかけ、私は一人、夜の帳が下りる港町へと歩みを進めた。
胸の空洞を、今夜の夜風は、いつもより少しだけ磯の匂いとソースの香りを乗せて、切なく、けれど誇らしげに通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
命を賭けた決闘の勝者の行方からすらも、完璧な『たこさんウインナー』ロジックで真実を暴き出す、孤独で味わい深い練り物である。




