【ちくわ探偵】密室のステップと黄金の炸裂
どしゃ降りの雨が、おでんの街の路地裏にある、怪しげな劇場の楽屋裏を濡らしていた。
牛スジ氏の事件を解決したのも束の間、私の携帯電話にナルト氏から悲鳴のような連絡が入った。現場へ急行した私が目にしたのは、あまりにも奇妙な光景だった。
そこには、窓も隙間もない、黄金色に揚げられた強固なドーム状の「密室」が鎮座していた。そしてなぜか、その密室の周囲を、きらびやかな衣装をまとった数人の踊り子たちが、無言で激しく踊り狂っているのだ。
「ちくわ探偵、大変なんだ!」
現場で震えていたナルト氏が拡声器で叫ぶ。
「ゆで卵刑事が、あの密室の中に入ったきり、もう3時間も出てこないんだ! 外からどれだけ呼んでも、中からは何の反応もない。それなのに、あの踊り子たちは密室の周りで踊り続けていて、近づくことすらできないんだ!」
「刑事……。一体、中で何が起きているんだ」
私はフッ……と自嘲気味に微笑み、自身の胸の空洞に右手を当てた。
そして、じっとその踊り子たちのステップを見つめ、天を仰いだ。その瞬間、私の中に流れる東西の偉大なる練り物の血脈が、なぜか遥か南の島の島唄を鮮やかに奏ぎ始めたのだ。
「ナルト氏、落ち着くわけさぁ。慌てたら、見過してしまうディテールがあるわけよ。なぜ、刑事が閉じこもるあの強固な密室の周りで、彼女たちが踊っているのか。その理由こそが、この密室の正体を解き明かす鍵さぁ」
「理由だって!? ただの劇場の嫌がらせじゃないのか!?」
「いいえ。中央の密室、すなわち主役を極限まで引き立てるように、その周囲をプロのステップで固めて踊る彼女たちの役割……それは、主役の後ろで踊る踊り子。
そう、『バックダンサー』。
バックダンサーが周囲を固めている、中にゆで卵を丸ごと隠匿した、この強固な黄金の薩摩揚げ。
もう、答えは一つしかねぇわけさ。
――これ、完全に『バクダン』さー!!」
「「「な、なんだってーーーー!!!?」」」
楽屋裏のコンクリートジャングルに、本日一番の、あまりの唐突なうちなータイムの到来と、完璧なフォーメーションの言語化に圧倒的な納得が轟いた。
周囲を固めていた踊り子たちも、あまりの自身の立ち位置の美しきロジック昇華に大号泣しながら、踊りを止めてカチャーシーを踊り、スタンディングオベーションを送っている。
「ク、クソッ……! 周りで踊るのが『バックダンサー』だから『バクダンさー』……! なんて完璧な島言葉だ……! 私はちくわ探偵の目を欺くために、わざわざレビュー劇場の踊り子をフルメンバーで雇ってカモフラージュしたというのに……!!」
あまりのダジャレ(と方言)の衝撃波により、密室を形成していた強固な魚肉が内側からパカッと綺麗に割れ、中から「ただ揚げ物の保温効果で気持ちよく熟睡していただけ」のゆで卵刑事が、メンソーレとばかりに転がり出てきた。
レビュー劇場の黒幕をその場で現行犯逮捕し、私は一人、夜の帳が下りる街へと歩みを進めた。
胸の空洞を、今夜の夜風は、いつもより少しだけ三線の音色のように優しく、けれど誇らしげに通り抜けていく。
私の名は、ちくわ探偵。
ステージの上のバックダンサーからすらも、完璧な『バクダンさー』ロジックで密室の正体を暴き出し、中に隠された真実(黄身)を白日の下に晒す、孤独だがちむどんどんしている練り物である。




