6.大迷宮
今、俺たちは、深淵の古城から歩いて30分ほどの近くの街『デルフォート』まで来ていた。
大迷宮が近くにあるせいか、冒険者たちで賑わっている。
ここんとこ、ずっと城にしかいなかったから、わからなかったけど、やっぱり時代はおきまりの中世ぐらいか!屋台とかすごいな!あそこも行きたいし、おっと、ここも行ってみたい
などと興奮している俺を見て直也先生が言う。
「カケル。好奇心があることはいいことだけど、目的を忘れるなよ」
「いや……これは、えっと、俺って弱いじゃないですか。だから大迷宮に行くっていう現実から目を背けるために……」
なんとかそれっぽい言い訳を作ったが、いえば言うほど自分へのダメージが増えていく。
先生も
「お、おう。そうか。まぁここで楽しむのもいいかもな」
という苦し紛れの返事をして去っていってしまった。
誰も近くにいなくなり一人でボーっとしていたら、
「カケルくん。一緒に屋台回ろ!」
と声をかけられた。
「うわぁ!詩葉!?」
「元気ないみたいだけど大丈夫?」
「いや、明後日、俺達は大迷宮に潜るだろ。だから、ちゃんと生き延びられるか怖くて……」
「カケルくんなら、どんな事があっても、きっと生き延びられるよ」
「へ?」
「カケルくん、覚えてないかもしれないけど、私は君に一度助けられたことがあったんだよ。その時私、ナンパされてたんだよね。でもそこでナンパに気づいてる人はたくさんいたけど、動いてくれたのは君だけだったんだよ。それで、ボコボコになりながら私を助けてくれたの。だから、あの時にあんな行動ができた君ならきっと大丈夫」
「え、ああ……うん。ありがとう。」
詩葉はきっと俺が今どんな気持ちなのかわかっていないのだろう。
話すと長くなるので、短めに俺の心情を表すと、「褒めてもらえて嬉しいんだけど、自分のダサいところ見られてて、恥ずかしぃぃぃぃぃ!」という心情だ。
いや、どんな心情だよ……
一人で顔を赤くしていたら、
「ほら!早く行くよ!」
と手を引かれ、屋台を巡ることになった。
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あっという間に時間が立ち、もう夜になってしまった。
めちゃくちゃ楽しかったぁ〜!
「カケルくん!今日はありがとう!また明日ね!」
と手を振る彼女に、俺も手を振り返して、自分の部屋に入った。
その姿を物陰から不敵に笑いながら見ている者がいることに気づく人はだれもいなかった……
カケルは、大迷宮に備えて、やすい薬草から自分で作ったポーションなどをリュックにしまい、ベッドに入った。
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翌日、俺たちは、深淵の古城の正面入口付近に集まっていた。
入口はてっきり巨大な洞窟のようなところだろうと思っていたが、入口はしっかり整備されていて、受付や、休憩所もある。
みんな、その光景に驚いて、目を丸くしている。
「よし。全員集まっているな。俺達がこれから行くところは、【深淵の古城】だ。気を引き締めていくように。あそこの受付でステータスを係員の人に見せてから入るんだぞ。倒した魔物の素材や魔石は買い取ってもらえるところがあるから、その場に捨てず、なるべく回収するんだぞ。団体行動だから、くれぐれも離れないように。」
「「はい!」」
ソバルトの言葉に、みんなやる気に満ちた返事をする。
受付を済ませ、迷宮の入口となっている扉をくぐる。
すると目の前には、薄暗く、ゴツゴツした洞窟のような場所が広がっていた。
まわりを見ると、光る石や苔などが散在していて、その光により、薄暗く幻想的な空間が生み出されている。
みんなが驚き、
「「わぁぁ〜〜!」」
と声を上げる。
「この光る石は、グリマーストーンと言ってな、後で買い取ってもらえるから採掘しておいたほうがいいぞ。」
ソバルトがそう言うと、みんなが一斉に、採掘へ向かった。
10分ほど特に何事もなく採掘をしていたとき、
「魔物だ!全員集まれ!」
とソバルトの声が響き渡る。
「あれはブラックウルフと言って、群れで行動する……」
「【剣技】双刃切り」
双刃切りとは剣の刃に魔力を込めて、相手に向かって二回魔力の刃を飛ばすことができる技だ。
込める魔力の量に比例して攻撃範囲と攻撃力が増し、もともとの剣のステータスも反映されるらしい。
ソバルトが陣形を組もうとしたが、現れたブラックウルフは龍輝の剣技によって一掃されてしまい、苦笑する。
「ああ〜……うん。いい戦いぶりだったぞ……今度はみんなもやってみよう。」
みんな龍輝の剣技に驚いてしばらく沈黙が続いた。
「よし、みんな気を取り直して出発するぞ。」
ソバルトに続いて、みんな歩きだす。
しばらく歩いたらさっきとは比にならない数のブラックウルフが、群れで現れた。
ソバルトは龍輝には「何もするな」と伝え、改めて陣形を組む。
龍輝は「でも……」と言っているが、「お前一人が強くなってどうする?」と言い、続ける。
「魔力よ顕現し、われの前に立つものを焼き飛ばせ———ファイヤーボール!」
「破砲撃!」
「「ウォォーーーーン」」
「全員問題なく対処できているな。そのまま押し切るぞ!」
魔物の数が減り、余裕ができたからか騎士団の人が、弱らせた魔物を俺の方に投げてくれる。
俺は投げられたブラックウルフを重力操作で触れつかせ、その一瞬のスキを付いて剣で斬る。
騎士団の人達は、役立たずレッテルを貼られていたカケルが、自分の能力を駆使して、魔物を討伐したことに驚き、感心している。
その後も何度か魔物と遭遇したが、みんなのチート級な強さと、騎士団の人のサポートにより、トラップにも引っかからず、25階層まで到達していた。
迷宮やダンジョンの地図は攻略しながら書くのが一般的だが、それだと、膨大な時間がかかる上に、トラップに引っかかる確率が跳ね上がるので、地図を見ながら攻略をしている。
まぁ、その地図も60階層からさきはないのだが……
まぁ、そんな調子でホイホイ進んでいった結果、おれはレベル9に到達した。
ちなみに龍輝はレベル20だ。
なんで?
突如床が崩落し、下の階へ続く階段が現れる。
何だ?トラップか?
周りのみんなも困惑している。
近くに行って中を確認しようとすると、中からいきなり見たこともない漆黒の魔物の群れが現れる。
「「……っ!」」
その場にいた全員が息を呑む。
これまでの魔物とは、別格のオーラを放つ魔物がゆっくりと近づいてくる。
「ひ、引き受けろ! カケル!」
例の4人組の頭の佐竹が俺に言う。
ん?「引き受ける!」ではなく「引き受けろ」と?
……わかった。引き受けるよ!だって、クラス最弱の俺の使い道ってここぐらいしかないしね……
「俺が重くして動きを止めるから、みんなは逃げろ!」
俺は必死に魔獣の足に縋り付いた。
たとえ嫌われていても、ここで食い止めなければ全滅する。そう信じていた。
「カケル! 今助ける、持ちこたえてくれ!」
前線で別の魔物と戦っていた龍輝が、必死の形相でこちらへ駆け戻ろうとする。
だが、龍輝が届くよりも一瞬早く、俺の背中に衝撃が走った。
「――あばよ、お荷物。お前の分まで俺たちが『勇者』として楽しんでやるよ」
耳元で、佐竹の冷酷な嘲笑が聞こえた。 突き飛ばされた俺の体は、ボロボロの状態で、底の見えない暗黒の穴――『裏迷宮』への入り口へと放り出される。
「カケル!!!」
龍輝の絶叫が響いた。
彼が必死に手を伸ばし、崩壊する床の縁から身を乗り出すのが見えた。その瞳には、裏切りなど微塵もない、親友を失うことへの純粋な絶望と悲痛な色が浮かんでいた。
だが、その手は届かなかった。
「龍輝くん、危ない! カケルくんはもう……!」
「離せ! カケルが、まだそこに……!」
龍輝の体を、佐竹たちが「助けるフリ」をして力ずくで引き戻す。
遠のく意識の中で、俺が見た最後の光景は、涙を流しながら俺の名前を呼び続ける龍輝の姿と、その背後で、計画通りだと言わんばかりに薄笑いを浮かべる佐竹の顔だった。
(ああ……龍輝……お前は、俺を助けようとしてくれたんだな……。なのに、俺は……)
深い深い暗闇へ落ちながら、俺の心には、自分を突き落とした奴らへの燃えるような憎悪と、助けられなかった龍輝への、やり場のない悲しみが渦巻いていた。
(この程度で俺は終わるのか…まあ、やり残したことだらけで少し悔いはあるけどもつまらなくはない人生だったな…もう今更どうこうできるものではないしな……)
何かを諦めた表情で、狂ったように笑いながら彼は深い深い奈落の暗闇へ消えていった……
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