私にはまだない、”答え”
「今のところ、」
「勇者が正しかったか正しくなかったかは立場によりますよね。」
「そーいうことになるな」
アレキがにかっと笑う。
「でもな。今のままじゃ記事は作れねぇ。」
サングラス越しに鋭い目が光る。
「足りないってことですよね。」
「ああ。事実がな。」
勇者が何をしたのか。教科書通りの解説では足りないところにまで来ている。
「と、いうことで軍部に行くか。」
その一言で、一瞬で体温が下がる。
「軍部…?なぜ軍部なんですか?」
「軍部の内部に記録課があるだろ。」
「他を当たればいいじゃないですか?」
「懐かしいだろ?嫌なのか?」
こうなった時のアレキは誰にも止められない。
従うほかなかった。
数年ぶりに世界政府軍支部へと足を踏み入れる。
支部といってもさすがは都市部。
さっきから数えきれないほどの兵士が行き交っている。
ふと、横を見ると兵士の一人が胸元に触れ、何かを祈る仕草をしていた。
「取材、受けてくれますかね?」
「何とかなるだろ。」
軽い口調だった。
「おーーーい!!!」
その時向こうから誰かが駆けてきた。
「ハルじゃん!」
「カルミア!?何でここに?」
予想だにしていなかった再会だった。
「こいつ何?」
アレキが気まずそうに聞いてくる。
「士官学校時代の友人で…」
「カルミア=スワン。今は立派な軍人やってまーす!」
「で、どしたの?」
「取材で…」
「マジで!?案内するよー!」
そのまま記録課へ向かうこととなった。
「ハルが記者になるなんてねぇ。似合わない似合わない」
「からかわないでよ。」
思わずつっけんどんな返事をしてしまう。
「サンダーソニアさん。こいつ士官学校をクビになったとき『軍人になれないー』なんて泣いてたんですよー。」
「意外だな。」
アレキがにやにや笑いを浮かべながらこちらを見る。
「言わないでよ…」
「で、なんでやめたの?」
「父親の命令だったっけ?」
「うっ。」
虫の居所が悪い。話を逸らす材料を探して辺りを見回す。
「あっ。」
「あれって……」
中庭には鎖でつながれた人たちと軍人たちがいた。
「危険因子。」
「え?」
「…魔法使っちゃったみたいだよ。」
——声の温度がさっきより低い。
「魔族だけじゃないよ。」
「たまに“よく分かんない種族”も混じってる。」
——友人の横顔は暗い。
「カルミアはさ…」
「これ、正しいって思ってる?」
「勇者は正しかったと思う?」
「……あたし軍人だよ?」
「“友達”のカルミアに聞いている。」
カルミアは周りに人がいないことを確認してから
「必要ならやるよ?」
「守るためならさ、切り捨てるしかないときもあるでしょ。」
そう答えた。
「そっか。答えを持ってて羨ましいよ。」
——本心だった。昔からカルミアは私の一歩先を行く。
自分をしっかり持っている。
「私もさ、答え出せるかな。」
「ねぇ、ハル。」
カルミアがふいに立ち止まる。
「ハルはさ、そのままでいてね。」
彼女らしくない一言だったが、それがいつまでも耳に残った。
「さっ、ここが記録課。ごゆっくりどーぞ。」
知ったら戻れない。
それでも——
止まれなかった。




