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世界が、歪んでいく

記録課の中はそれまでと打って変わって静かな空間だった。


カビの匂い。

整理された書棚。

どこか違和感のある空間だった。


「先輩…ここって。」

「ああ。しばらく使われていないな。」


試しにいくつか本を引き出す。

ぶわっと埃が舞った。


まるで——

意図的に放置されているみたいだった。


「埃まみれですね。」

「ああ。だが、これは違うぜ。」

アレキの手には妙に新しい本。

その表紙には勇者の紋章があった。


「歴史書ですかね?」

本を開く。

中身は——

綺麗すぎる言葉の羅列。


「これは役に立ちそうにもありませんね。」

「そうだな。他を当たるか。」



しばらく探しても目ぼしい資料は見つからなかった。

「やっぱり重要な資料はねぇな。」

「帰りますか?」

「それでいいのか。新人記者ちゃん?」

アレキが笑う。腹が立つ笑みだった。

「どんなに探してもないものはないですよ。」


「いいや。」

アレキがゆっくりと首を横に振る。


「こういう場所にはな、見せないための場所があるもんなんだよ。」


そう言うとアレキは床に這いつくばった。


「とうとうおかしくなりました?」

返事はない。



「あったぞ!」

アレキが突然大声を上げる。

次の瞬間、本棚が軋み出した。


「えっ。」


ぐっぐっと押し出される本棚。


「なにやってるんですか!?」


本棚は思っていたよりも簡単に動いた。

その下には——


「階段?」


隠し階段があった。


「ほら、行くぞ!」

言われるがまま階段を下りる。


狭い、暗い、空気が冷たい。

その先には小さな部屋。

そして、机が一つ。

その上には散乱した資料

動物族関係の資料のようだった。

その一つを手に取る。



【●●族 ウシ

生息地●●

繁殖能力 高

食用運用が可能。●●●●年●●月●●日により運用開始

●●地域工場により加工・発送  】



「……っ!先輩!」

心臓が跳ねる。

震える手でページをめくる。



「ブタ」

「ニワトリ」



まただ。この言葉。屋台の店主、名無しも言っていた言葉。

「牛?」

「屋台の人や名無しさんも言っていた言葉ですよ。」

「新種の動物族なのかねぇ?」

「にしては——」


そこで気づく。

動物族の資料は有り余るほどある。

なのに


この三つだけ——

記録が異常なほどに少ない。


まるで、“存在を消された“みたいに。




「何をしている?」

上から声がした。無機質な声。私には分かる。これは軍人の声だ——


「上がれ。」

有無を言わせない声だった。

胸元には勇者の紋章がかたどられたバッジ。そして、階級章。


——少佐だ。


「まずは名乗れ。」

「種族 短命種 アレキ=サンダーソニアです。で、こいつは部下のハル」

「……」

「言え。何をしていたのか。」


「取材ですよ。」

「ちょっと好奇心が抑えられなくて。」

「入っちまいました。」

何も言えない私の代わりにアレキが答える。


「そうか。」

少佐はそれ以上追及はしてこなかった。

だが、空気は張り詰めたままだった。



「この資料、おかしくないですか?」

この空気に耐え切れなかった。


「おい、ハル」

珍しくアレキが焦った表情を見せた。



「ウシ」

「ブタ」


「おい、」

アレキの声。

それ以上言うな

そう忠告するような低い声だった。


でも——

「ニワトリ」


止まらない。止まれない。


「この三つの言葉。何なんですか?」


「おかしい、か」

「優秀だな。」

少佐は小さく笑う。


「だが、それが何だ。」


「違和感を抱いて何になる。」

少佐の威圧感が少しだけ増した気がした。



「それで取材はいいのか?」

その言葉でやっと目的を思い出した。

インタビュー。


息を整えてから口を開く。


「少佐は、勇者は正しかったと思いますか?」



「……難しい質問だな。」

「正しかったとも言えるし、」

「正しくなかったとも言える。」

「一つだけ言えることがあるとすれば、」

「あの男は——」

その一瞬、感情が浮き出た。



「理想で動く人間ではなかったな。」



まるで勇者を知っているかのような口ぶりだった。



「決して、」

「知れば楽になれるなどと思うなよ。」



知るほどに世界が歪んでいく。

それでも——

私は

もう目を逸らせなかった



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