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勇者が裁かれた日

【勇者は本当に正しかったのか。】


手持ちの端末にその言葉が表示される。

「これ、まずくないですか?」

私は思わず声に出していた。


「やばいねぇ。」

私の向かいの席からどこか気の抜けた声が返ってくる。

「で、どう思う?」

「どうって言われましても……」

私は言葉に詰まる。

「お前の意見は?」



——勇者は正しかったのか。


あまりにもシンプルで重い問い。


「正しかったはず……です。」

教科書通りの薄っぺらい回答しかできなかった。

アレキはふっと笑った。

「“はず”、ねぇ。」

その言い方が妙に引っかかった。


「先輩は、」

「さあな。考えたこともなかったよ。」

いつもどおりの軽い口調。だが、目は笑っていなかった。


ピロン♪

その時、間の抜けた通知音が鳴った。


【世界大法廷 特別審理の開催を決定 勇者の行動の是非を問う。】


「え……?」

思わず息を呑む。

紛れもなく世界政府の公式発表だった。


「本気…ですか?」

「本気じゃねぇ?」


嫌な汗が背筋を流れた。


世界がひっくり返ってしまう。そんな予感がした。


そのとき

コンコンと扉が叩かれる音がする。

「アレキ、ハル。社長がお呼びだ。」

私たちは思わず顔を見合わせる。

「嫌な予感しかしません。」

「奇遇だな。俺もだ。」


——社長室の前で大きく息を吸い、扉を押す。

静けさが重い。



「来たか。」

頭の立派な角をこちらに向ける社長。

無表情。

感情が全く読み取れない。

「今回の件、特集を組むことになった。」

いきなり切り込んできた。

「…………勇者裁判…ですよね?」

「ああ。お前たちに任せる。」

短く重い一言。


「待ってください。」

「先輩はともかく私は新人ですよ?」

「おまえだからだ。」

即答だった。


「必要なのは経験ではない。」

その言葉の意味ははっきりとは読み取れなかった。


「さまざまな立場の正義がある。」

「関係者全員にインタビューをしろ。」

「全員…ですか?」

「可能な限りな。」


そしてさらに一言。

重苦しい間があった。


「送り主も特定しろ」


部屋の空気が一段と重くなる。

「それ、俺たちの仕事ですかね?」

場違いの明るい声。

「本来は違う。だが、」

社長は淡々と続けた。


「今回は例外だ。」


なぜ例外なのか。

聞く前に視線で封じられた。

「…分かりました。」

そう答えるほかなかった。


「話はこれで終わりだ。」

社長はそれ以上何も言わなかった。

会話はそれで終わりだった。


「やばいねぇ」

廊下に出てすぐアレキがぼそっと言った。

「ええ。」

深いため息を吐く。

「どうしましょう?これ?」

「やるしかないだろ。」

軽い。いつも通りだ。

でも


「で、」

「誰から当たる?」

その顔は仕事モードだった。


「勇者関係なら…歴史作家とかは?」

アレキはゆっくりと頷く。

「歴史作家ってなら……」

「確かゴーンってのがいたはずだ。」


その名前は聞いたことがあった。

勇者についての奇妙な説を唱えている変わり者。

「ほら吹きって言われている人でしたよね?」

「それそれ。ああいうのが一番面白い話持ってんだよ。」

アレキはにやりと笑う。

「そうと決まれば行ってみるか。」

「はい!」



——この時点で、もう戻れなかった。

その時の私はまだ知らなかった。

この問いが

何を壊すのかを。



ゴーン家の扉は半開きだった。

ノックすべきか迷っている私にアレキが目配せする。

アレキはゆっくりと扉を押す。

ぎぃぎぃと扉がきしむ音がやけに大きく響いた。

「すみませ——」


言いかけて固まる。



床一面に広がる赤。

血。赤い血が床一面に広がっている。


「っ!」

ゆっくりと視線を上げる。


仰向けに倒れている男。

微動だにしない。

表情は苦悶に歪み、

その目は見開かれていた。


「おいおい……」

アレキの声が低くなる。

私は一歩足を踏み出した。

足が震える。それでも止まれなかった。

机の上に紙が散らばっている。

その中の一枚が目に留まった。


「な…に」

思わず手に取る。

そこに書かれていたのは見たことのない種族の名前。



「ウシ…?」


「ニワトリ…?」


「ブタ……?」


知らないはずの単語だった。

なのになぜか——

嫌な予感が胸を締め付ける。


背後で声がした。

「ハル」

その声は今までにないほど真剣だった。


「これ、」


「ただの裁判じゃないぞ」



この時は何も知らなかった。

でも、

ただ一つだけの予感があった。



——この世界は何かを隠している。


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