第8話(4) ニューヨークの彼女たち、銃撃
《《契約と真理子のスポンサー》》
「ハワード、こちらがMis. Mariko Manakaだ。我々のクライアントだ」とニック。
「私がクライアントではなく、私たちのグループがクライアントになります」と真理子が脚を組んで、珈琲をお上品に飲んだ。「私のスポンサーは、B&M財団のBの方ですわ。仮に、ビルとでも呼んでおきましょうか……」って、そんな話、初耳だよ。B&M財団の名前は、彩花と会った凜花パパが言っていたのを優子ママから凜花を通じて聞いていたけど……ビル……え?B&M財団でビル……真理子、それ、仮称でもなんでもないだろ!本名じゃないか!
「なるほど……Mis. Mariko……」とハワードが言うので、マリコで結構ですわと真理子。「じゃあ、マリコ、それは仮称でもなんでもないだろう?」
「いいえぇ~、ビルなんて履いて捨てるほど居ますわよ」
「まあ、いい。それで、ビルがスポンサー……よくわからんが……」
「この探偵事務所もビルの推薦なんですわ。腕利きの護衛が必要だと言ったら、ここに連絡しろと言われましたわ」
「それで、なぜ、護衛が必要なのんだね?」
「私たちのメンバーの一人の姉が、ここのマウントサイナイ大学に留学しておりまして、その研究がヤバい」
「どういう風にヤバいんだ?」
「男女の性差をなくす薬の研究ですわ」
「そんなもの、いくらでもあるだろ?NY私立大学でもやってる」
「ミリグラム単位の投与ならね……」
「?」
「つまり、その姉の研究が、患者に与える投与量を幾何級数的に少なくする物質の開発だとしたら?」
「ミリグラム単位の下の単位は、ナノとかピコだろう?……ああ、そういうことか!」
「おわかりになりまして?彼女はその物質開発を留学申請の論文に記述しました。たまたま、B&M財団のWの方がそれを見かけまして、M女史が姉のスポンサーになったということです。離婚したビルは、同じ財団、ですが、ミリグラムは許すが、ナノ・ピコは許さないということ。ですので、私のスポンサーになっていただいたとこういう話です」
「わかったが、その話は聞かなかったことにする。我々のマリコたちへのサービスは、護衛だけだ。それ以上のその話に関わることには関与しない、それでよろしいな?」
「結構ですわ」
お~い、真理子!それ、もっとやばい方向に向かっている気がするんだけど。私が聞きたそうにしているので、「アンヌ、詳細は後で説明するから」と言われた。
「こういう話は、FBIも噛む可能性がありますわ。だとしたら、三つ巴。腕利きが私たちには必要ですの」
「了解だ、マリコ。スポンサーは問題なし。こっちは、三人の探偵事務所でね、我々が提供できるスタッフは、この二人、ニックとマリーだ。良いな?」
思わず私が口を挟んだ。「あの、マリーは受付嬢では?」
「手が足りないので、受付もやってもらってる。でも、本務は、探偵業務の調査と解析、それと顧客のボディーガードだ」とハワード。
だって、私とほぼ背の高さが一緒よ?私が疑いの目でマリーを見たのをニックが気付いた。
「アンヌ、マリーの銃の腕はオリンピック級だ。体術では、10回に3回は、俺のキンタマを蹴り上げて悶絶させる腕だ」え~、彼女が?
「ニック、10回に4回よ。失礼な!」ガムがぱちんと弾けた。
「アンヌ、日本の講道館のモットーは『柔よく剛を制す』だろう?背の高さは関係ないのさ」なるほど。勉強になったわ。
「お二人で十分ですわ。さて、ハワード、契約書のPDFを送付いただきましたが、読み合わせをしましょう」
「オッケー」とハワードがマリーを見た。マリーが二通の分厚いA4版書類を彼に渡した。彼がマリコに一通を渡す。
「じゃあ、マリコ、この件の分担は、ニックがリーダーだ。マリーは調査担当だが、マリコのチームを補佐する。ニックは24時間だ、マリーは時々抜ける。平均すると、12から14時間勤務くらいかな?それで、この契約書を見て欲しい。納得したら、今、即座に署名して欲しい。それで、契約成立だ。金の振り込みは、24時間以内だ」とハワード。
真理子は、契約書を二度読んだ。問題はない。しかし、一点、注文をつけた。
「このオプションの項目に追加事項を書き入れて。この探偵事務所が入っている保険とは別に私たち負担で、死亡保険付の傷害保険を契約してちょうだい。上限額は200万ドル(5億円弱)。ニックとマリーが対象。死亡時の保険の受取人はそちらで指定なさって。それから、危険手当は、発生時に倍額とします。通常時とは別に、追加で支払います。手書きで結構です。それでサインします」と真理子は説明した。
それはハワードたちの思っている以上の内容みたいだった。
「マリコ、そんなことがだいそれたことが起こると思っているのか?」とハワード。
「日本のことわざで、転ばぬ先の杖、というのがあります。もしもの際の、というオプション項目ですわ。今は、私がサインしますが、ビルにも私たちの後見人としてサインをお願いしておくつもりです」
「う~ん、思っていた以上に厄介そうだな。後で、話を聞かせてくれるんだろうね?」
「後で、詳しい話をしますわ。この条件で、みなさん、どうでしょうか?」
そこで初めてニックが口を開いた。「気に入った。そこまで手を尽くしてくれるんだ。俺に異存はないぜ」彼がそう言うと、マリーもうなずいた。
「じゃあ、マリコ、後で、あなたのメンバーも含めて、作戦会議をしましょう。もっと私も情報がほしい」とマリー。
「マリコ、マリーは調査担当だけど、身辺警護では、拳銃とナイフは凄腕なんだよ」とニックが言う。
「みなさん、ご協力ありがとう。いいチームになりそうですわね。安心しましたわ。ハワード、ありがとう」
「ま、すべてビジネスだ。日本人と違って、俺たちはドライだからな」
「じゃあ、この近くのシューティングセンターにまいりましょう。早速慣れないとね」とマリー。
「シューティング?」
「アンヌ、射撃場だよ。実弾射撃!」と真理子が、また、変なことを言う。
実弾射撃?それって、コンドームを付けない生みたいなヤツ?
《《武器の調達》》
ニックがアンヌに拳銃の操作方法を教えだした。このタイプはオートマチック・ピストルと言う。まず、マガジン(弾倉)の交換方法。遊底の引き方。薬室に残莢があるかないかの確認。
ハンドバックにいれて持ち歩くとき、薬室に弾を装填するかしないか。薬室に弾を装填しない場合、イザという場合すぐ発射できない。しかし、何かに引っ掛けて誤射するリスクもない。薬室に弾を装填しない場合は、撃つ前に遊底を引いて、マガジンから弾を薬室に装填する動作が必要だ。いつも薬室に弾を装填している状態で扱うのが無難だ。何事にも慎重になる。
「空のマガジンで練習してみよう。マガジンリリースボタンを押す、マガジンが排出される。次に、銃把を右手で持って、左手の掌にマガジンの底をあてて、パンっ、これで装着できた。リリース、装着、リリース、装着。よし、うまいぞ。七発全弾撃ち尽くしたら、すぐ、リリースして、装着しないと相手にやられるぞ」
(相手って誰よ!)
「装着したら、遊底を引く。薬室に弾を入れる。そして、バンっだ。後で、マリーに教えてもらうといい。撃った後、薬莢が飛び出す。それを驚かないようになれないといけない。マリコ、アンヌはスジがいいぞ。もう飲み込んだよ」とニック。
「これを使わないことを祈るわ」と真理子。
「ヘックラー&コッホもマリーに教えさせるよ。後で説明するが、俺とマリーがひっかき回すと、誰だかわからない向こうから私たちに接触してくる可能性が高いからな。もちろん、俺たちのどちらかがキミらにつくので、キミら日本人だけが対処することはないが、念の為だ」
《《12/19 (土)》》
「ねえ、ニック、あんたは、『つついて、相手が動くのを待つしかない』って言っていたけど」
「ああ、そうだな……」
「それから二日と経たないで、もう私たち銃撃されているんですけど?」
「相手がこれほど素早いとは思わなかったよ。おっと、頭を下げとけよ。明美も這いつくばってなきゃだめだぜ」
イースト川沿いの埠頭に夕陽が落ちかけていた。
真理子は「打合せをしてきます」と言って一人で出ていった。凜花、遥は、彩花を知っているから留守番してなさい!と真理子に言われて、探偵事務所で、マリーと一緒にいた。女将さんと恵美はショッピングに出かけた。
ことの始まりは一時間前だった。アンヌと明美は、彩花の顔を知らないニックとヴァンに乗り、マウントサイナイ近くで彩花を尾行する手筈だった。
ヴァンがレキシントン・アベニューを南下し始めたあたりから、黒いSUVが一台、後ろについた。最初はただの渋滞だと思っていた。
「ニック、あの車、ずっと後ろにいるわよ?」とアンヌが言った。
「気づいてた。もう一台、右の路地に控えてる。ルートを変える」
ニックが急ハンドルで東に曲がった。49番街から、ファーストアベニューへ。しかし、ファーストアベニューに出た瞬間、前方に黒いSUVが一台、横付けになった。後方にも二台。三方を囲まれた形だ。
「港の方に誘導されてる。乗るしかない」とニックが静かに言った。
ヴァンはイースト川沿いの埠頭まで連れ込まれた。人気のない倉庫街。十二月の夕暮れ。川面が鈍く光っている。
SUVが三台、半円を描いてヴァンを囲んだ。ドアが開き、黒ずくめの男たちが降りてきた。四人、五人、六人——合計七人。
「ニック、あれ、全員銃を持ってるわよ?」
「見えてる。ヴァンを降りるな。ドアを開けたら盾にしろ」
最初の一発が、ヴァンのボディに当たった。
金属音。跳弾。アンヌは反射的に床に伏せた。
「勘弁して。そこら中に跳弾の嵐。心臓止まりそう」とアンヌは思った。
地面に這いつくばっていると思っていた明美は、真理子のボストンバッグをゴソゴソやっている。
「何してるの?明美?頭下げてなきゃ、危ないじゃない!」とアンヌが言うと、
「ヘックラー&コッホのサブマシンガンを出しているのよ。ニックだけじゃあ、多勢に無勢で、すぐ制圧されちゃうじゃない?」と明美がサブマシンガンをバッグから取り出した。
「明美、あんた、そんなもの扱えるの?」
「アンヌ、何言ってるの。私はパパから、クレー射撃とライフル射撃を教わっていたのよ。マシンガンくらい扱えるわよ」と意外なことを言う。「ニック、加勢するわ」と明美。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「大和撫子をバカにしないでちょうだい!」とヴァンの影からヒョコヒョコ顔を出しては引っ込め、マシンガンを盛大にぶっ放し始めた。セミオートで二発ずつ点射している。マガジンを撃ち尽くして、慣れた感じでマガジンリリーフボタンを押して、マガジンを排出、予備のマガジンをセットした。
仕方ないわね。私も撃つかとアンヌ。私は腹ばいになって、ヴァンの下から相手の車の方を狙った。タイヤと敵の脚が見えた。続けて七発、横殴りにぶっ放す。タイヤの空気が抜けて、脚がくずれるのが見えた。
おお、怖い。東洋のお姫様だと思っていたら、やるじゃないか?とニックはマシンガンをフルオートにして、アンヌと明美を撃たせないように相手に掃射した。明美が一人倒した。数分間、三人は撃ち続けた。その内に、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。やっと騎兵隊のご到着だぜ、とニックは思った。
相手は、一台の車がタイヤを撃ち抜かれたので、けが人を引きずりながら、残り二台に乗り込み始めた。動き始めた敵の車のリアに向かって、明美はフルオートにしたマシンガンを引き金を引き絞ったまま、全弾撃ちこんだ。相手の車のリアガラスが吹き飛んだ。明美はアンヌを助け起こす。
「ねえ、アンヌ、こんな映画あったわよね。カ・イ・カ・ン」と明美。
「あんた、『セーラー服と機関銃』の薬師丸ひろ子のつもり?こっちは死にそうよ。おしっこ、チビリそうだわよ。少し、チビッたわよ」とアンヌ。
「私、少し、逝っちゃったわ。濡れたわ……」
「まったく、こんな状態で、エクスタシーとか濡れちゃうとか、頭がおかしいんじゃない?まあ、でも、明美の加勢で助かったわよね」
「おいおい、お嬢さんがた、助かったぜ。心臓がパクパクしてやがる。これでマリーに何の護衛なの?とかぶっ飛ばされそうだぜ。まあ、向こうも威嚇のつもりで本気じゃないので助かった。威嚇のつもりが、手厳しい反撃だったからな」とニック。
パトカーが停車した。NYPDの警官がスピーカーで警告する。三人は銃を捨てて、両手を頭の後ろに回して「撃つな、抵抗しない、銃は捨てた。俺たちゃ、被害者だ」とニックが言いながら、三人はパトカーの方に歩き出した。まいったね、これは。正当防衛になるが、しばらく、NYPDで絞られそうだぜ、とニックは思った。
「すごいじゃない?アンヌ。映画みたいだったわ」と両手を頭の後ろに回して歩きながら明美が言う。
「あんた、絶対に頭おかしい!」とアンヌが頭をふった。
【注意・免責事項】
※本作に登場するすべてのキャラクターは18歳以上です。
※制服・女子高生風衣装・部活動ユニフォーム等の描写はすべて演出上のコスプレ要素であり、現実の未成年を描写したものではありません。
※当シリーズの作品はすべてフィクションであり、実在の事件・人物・団体とは一切関係ありません。
※作中に描かれる出来事は、詳細な描写を意図的に抑制しています。
※本作は医療・倫理・社会的テーマを扱うフィクションであり、特定の思想・行為を推奨するものではありません。
※性的・暴力的要素を一部含みますが、描写は必要最小限に留めています。
※苦手な方は閲覧をお控えいただくことをおすすめします。
※本作は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※飲酒・喫煙の描写が含まれます。




