第8話(2) ニューヨークの彼女たち、部屋決め
第8話(2) ニューヨークの彼女たち、部屋決め
《《部屋決め!》》
こ、ここは、修学旅行の女子部屋かぁ~!
リビングルームの惨状を視界に入れた瞬間、私の脳内ではそんな絶叫がリフレインしていた。
37丁目の夜風に混じるゴミの臭いと、部屋中に充満するバーガーキングの「重油のような脂」の残り香。
そこに、七人分の開かれたスーツケースから溢れ出した色とりどりの下着や化粧品、ガジェットの充電ケーブルが、まるで地雷原のように床を埋め尽くしている。七人の女の匂いが部屋中に溢れかえっている。
「アンヌ、何を突っ立っていますの?早くその『爆弾』の残骸を片付けなさいな。わたくしのMacにソースが付着したら、1500万円の分け前から天引きしますわよ」
ソファの中央で、ヘッドドレスだけを外した真理子が、猛烈にキーボードを叩いている。いつの間にか、クイーンサイズのソファベッドが引き出されていた。
「……別に分け前減ってもいいけどさぁ……」
私はため息をつき、テーブルの上に散乱したワッパーの包み紙をまとめた。
隣では恵美が、デリバリーのプラスチックカップに、女将さんが持ち込んだ一升瓶から透明な液体を注いでいる。
「アンヌ、そんなにカリカリしなさんな。ほら、女将さんが持ってきた『水戸泉』だよ。この脂っこい口の中を洗い流すには、これしかないだろ?」
恵美から手渡されたカップを一気に煽る。キリッとした辛口の液体が、ワッパージュニアの濃厚な脂を溶かしていく。
「……生き返るわ」その光景を目ざとく見つけた凜花がキッチンをゴソゴソやって、クリスタルのロックグラスとアイスバケットをお盆に載せて持ってきた。
「アンヌ先生、プラスチックカップはダメでしょう?ちゃんとグラスで呑んで!」こういうのは、凜花はしっかりしてるんだよなあ。
「そうだな。水戸泉をこれで呑んじゃ失礼だわね」ロックグラスに残りを注いだ。「みんな、呑む人?」
聞かないでも、凜花がみんなにグラスを配っている。真理子が重そうな赤い免税店のビニールバッグを差し出した。いつの間に買ったの?
「機内で買いましたわ。免税持ち込み、1リットルなので、恵美と遥の分を使って、シーバスのローヤルサルート 21年 シグネチャーブレンド、三本」
「ソツのない魔女!」
「アンヌは気が利かないですわね。お嫁に行けませんわよ」
「ほっといてくれ!」
凜花が、何も聞かないで、「日本酒?ウイスキー?こっちね!」とドボドボとグラスに注いでいる。恵美はバッグをゴソゴソ探して、あたりめの2キロパックを出して、テーブルにぶちまけた。凜花があわてて、皿を出して、小分けにしている……少なくとも、恵美はあたりめ持ち込んでいて、凜花は気が利く……私はお嫁にいけない……。真理子がニタッと笑って私を見た。いいわよ!あんただって、相手なんか見つかるわけないじゃない!
それから、部屋割の話になった。寝室はふたつ。マスターベッドルームは、キングベッド1台。セカンドベッドルームは、クイーンベッド2台。リビングルームには、クイーンサイズ相当のソファベッドが1台ある。
「私は、明美さんとマスターベッドルームに寝る!」とワガママ凜花が言う。ハイハイ。
「私は、女将さんと恵美さんとセカンドベッドルーム!クイーンベッド2台、あるもん!」と遥。
「じゃあ、真理子と私はココで寝るかぁ~」
「ココが良いのよ、アンヌ。PC使えるし、冷蔵庫が近い。それに、アンヌ、私と抱きあって眠れるでしょうぉ~?」と舌なめずりして、ニタリと笑った。おい!NYまで来て百合かよ!
《《元カレの元カノの妹で、今カノっ……》》
しばらく、酒を呑んでワイワイしていたが、さすがに、ハワイからの深夜便の疲れで、みんな寝室に消えた。
メインの寝室からは、明美と凜花の「どっちが先にシャワーを浴びるか」という不毛な争いの声が漏れてくる。キングベッド一つにあの二人が寝るとなれば、明日の朝にはどちらかが床に転がっているに違いない。この部屋は、まんま、修学旅行部屋だ。
しかし、悟の一件以来、明美が凜花とじゃれるようになるなんて、想像もできなかった。
サブの寝室では、遥が女将さんと恵美にスーパーカミオカンデで、ニュートリノの反応効率を上げるため、純水にガドリニウムを添加する『SK-Gd実験』の話をしている。恵美と女将さんの説明が聞こえる。穏やかな声。この部屋は、大人の部屋だ。
両方の部屋のドアが閉められて、何も聞こえなくなった。
真理子は、高校生の着るようなジェラートピケのショートパンツのパジャマに着替えた。あれれ?私はミニのネグリジェ……。誰だ!なんか逆のコーデだ、なんて言うヤツは!……この部屋は何の部屋?
私は、真理子がいつ襲ってくるかと、身構えた。アン!ちょっと濡れてきた……。
……いつの間にか、真理子が明美と凜花の部屋に這っていって、ドアに耳をつけた。おい!
「盗み聞きすんな」と床に膝をつけている真理子の耳に囁いた。
「あら、アンヌ、聞きたくないの?悠馬の元カノと今カノの会話を?」……聞きたい……。
私は、床に座っている真理子の上、中腰でドアに耳をつけた。
真理子が上を向いた。「アンヌ、コップ持ってきて」と囁く。
「コップ?」
「聞こえないでしょ?」
「……あ!そうか!」
二人共、コップをドアにつけて盗み聞きした……これ、修学旅行部屋のレベルに堕ちたってこと?
床に這いつくばっていると、真理子が鼻をクンクンさせた。
「アンヌ……」と耳元で囁く。
「なに?」
「あなた、匂ってるわよ?」
「……え?」
「フェロモン。ドアの向こうの声を聞いただけで、もう反応してるのぉ~?」
私は自分の太ももの内側が、じわりと熱くなっていることに気づいた。ヤバいじゃん!
かすかに、会話が聞こえる。
「そうなんだ……明美は、悠馬の二番目の女なんだね……」
「二番目……ああ、高校の時があったわね」
「それで、彩花姉ちゃんは、三番目か……」
「凜花が四番目ね」
「それは……もう一人いてさ……だから、五番目……」
「もう一人?」
「その内、話すから……今は内緒……」
「事情がありそうね?」
「うん。それで、六番目は……」
「ちょっと、待って!あなたは、悠馬の今カノでしょ?六番目って何?誰?」
「これは白状する。六番目は、遥。でも、どういうのかなあ……遥とは、そういう関係じゃなくって……」
「なんなの?」
「悠馬と私、遥と私、悠馬と遥、この三角形がねえ……」
「あなたと遥って、百合だっったの?」
「成り行きで……ねえ、アンヌから聞いたけど、明美は、真理子の元カレと良い関係になったんでしょう?」
「……そ、そうね……何か、生まれ変わったような、吹っ切れたような……」
「ねえ、明美……あなたの元カレ(悠馬)の、元カノ(彩花)の妹(私)が、今カノ(私)って、なんかおかしくない?」
「……それ、言葉にすると余計ややこしいわ」
「でしょ?だから、もう考えるのやめてよぉ……」
「その今カノとベッドに一緒にいる私……それも親友……違うな……クラスメイトの妹……複雑だわ……」
「ねえ、明美……その今カノの私に興味、ない?」
「え?」
「あのね、明美を見た最初から、もうこのムチムチが……」
「あ!凜花、ダメ!」
「うわぁ、明美、もうビチョビチョじゃない! ほら、指がこんなに滑る……」
「凜花……そんなとこ、触らないで……指を舐めちゃダメ!……んっ……!」
「ふふ、明美のここ、熱い……もうこんなに濡れてる……」
「……っ、はぁ……凜花、声、出ちゃう……」
「もっと脚、開いて……あ、お豆がこんなに硬くなってる……」
「……やっ……だめ、声……出ちゃうよ……」
真理子が急に立ち上がって、私の顎に頭がぶつかりそうになった。
「ウフフ、面白かったね。でも、これ以上は無粋でしょ?」
「なんか、凜花も大胆だね。さすが、彩花の妹だわ。『元カレの元カノの妹で、今カノって興味、ない?』なんて……」
私と真理子はベッドに行って、並んで座った。
「あら?アンヌ、鼻息、荒いわよ?もう、こんなに熱くなってる……」
「……ちょ、ちょっとね……」
真理子が私の太ももに手を這わせ、ゆっくりと内側に滑り込ませてきた。指先がネグリジェの裾をくぐり、直接肌に触れる。
「さぁ、私たちも寝ましょうか?」
「ね、寝るの?」
「あら?私とじゃ、ご不満?それとも、凜花と明美に混ざる?」
「いや、あの、その……あぁ~!真理子、それ、ダメ!」
「ここはダメだと……じゃあ、ここ?」
「……そこもダメ!ダメだって!」
寝かせてくれぇ~。
【注意・免責事項】
※本作に登場するすべてのキャラクターは18歳以上です。
※制服・女子高生風衣装・部活動ユニフォーム等の描写はすべて演出上のコスプレ要素であり、現実の未成年を描写したものではありません。
※当シリーズの作品はすべてフィクションであり、実在の事件・人物・団体とは一切関係ありません。
※作中に描かれる出来事は、詳細な描写を意図的に抑制しています。
※本作は医療・倫理・社会的テーマを扱うフィクションであり、特定の思想・行為を推奨するものではありません。
※性的・暴力的要素を一部含みますが、描写は必要最小限に留めています。
※苦手な方は閲覧をお控えいただくことをおすすめします。
※本作は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※飲酒・喫煙の描写が含まれます。




