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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
【長めのエピローグ】漢、そして漢たちの夢

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4.漢、そのままで(そうもいかない)

 兄上、兄上はどこにいらっしゃるのですか……。


 宮廷女官ミラの証言によれば、ウイン皇弟はずっと呼び続けていたらしい。戦場から戻ってみれば、帝国政府の要人が誰一人いない。何の書き置きも伝言すら残されておらず、途方に暮れるまま宮中を練り歩いていたそうだ。そこへ追ってきたローエンと揉み合いになり、殺害されるへ至ったようだ。


 兄上、どこへ……と最後まで呼んでいたらしい。


「私はウインの舞踏会における言動を見てきた。余などと皇帝気取りの軽薄さが兄の現皇帝に伝わらないはずはない。見切られてもしょうがないだろう」


 冷然とした評価はイザークに留まらない。


「ちょっと敗北の気配が見えただけで一人で逃げ出しているからね。総指揮官が皆を置き去りしなければ帝国兵団は、ずっとマシな撤退が出来たはずだよ。僕らにとっては都合が良かったけどさ」


 呆れつつベルは遠い目つきをした。先日の戦いを思い出していたのだろう。

 ユリウスの騎兵団及び加勢の兵団を含めても帝国兵団のほうがずっと数は多かった。勝利を諦めたにしても、もう少しマシな撤退は出来たはずだ。総指揮官が真っ先に逃げ出したことで混乱を招き、余計な戦死者が生まれた。無駄な犠牲者数かなりまで及んだはずだ。


「オレからすれば、これまでさんざんイイ生活してきたでしょ。いくら子供が飢えて死のうが、女だ、権力だって騒いできたわけでしょ。挙句は貧乏で生まれきたおまえが悪いときたもんだ」


 つい熱くなった自覚が生まれたか。ヨシツネは言い終わるなり、慌てて失敗したとばかり頭をかく。多分だが怒りの矛先はウイン皇弟に限っていない。貴族社会だけでなく貧民街の出自を蔑む社会全体までが対象だろう。


 意見の内容はそれぞれであれど、殺されてもしょうがない人間だったで落ち着いた。

 

 だがなと思う、それがユリウスだ。


「ウインがろくでもない奴なのは異存ないぞ。ただな、兄と思っていた者が転生とかいったか、中身が違う人間に成り代わっていたのを知っていたのかと思ってな。あいつ、実は肉親がいなかったこと、知っていたのだろうか」


 返事はない。しんっと室内は静まり返る。


 だからユリウスは上げたのだろう。はっはっは、と高笑いをした口で続ける。


「すまんな、なんだかんだ俺は恵まれていたからな。普通なら殺されているところをシスイに助けてもらい、バカ親父には騎士になれるだけの環境を与えてもらった。プリムラが殺されかけたのに俺はやっぱり甘いとしか言いようがないぞ」

「いや、ユリウスはそれでいい。むしろそのままでいて欲しい、本当にそう思うんだ」


 しみじみイザークが、らしくない口調で伝えてくる。


 他の二人は、らしく賛同してくる。


「そうそう。ユリウス団長じゃない、ユリウス王のように綺麗事を行おうとする人が上に立たないと、世の中は殺伐とするよ」

「世の中に汚れ役は必要でしょうが、それはいいヤツが上にいてこそです。ろくでもないヤツだと、ただ利用されただけになりますからね。だからそのままでいてくださいよ、団長じゃなくて、王様!」


 ベルとヨシツネの言葉はユリウスにとって嬉しいものだ。だが気に入らない点がある。特に後者はわざとらしく強調までしてきた。


「おまえらな、俺が王なんか務まるはずがないだろ。無茶、言いすぎだぞ」


 ふふふっとイザークが怪しげな笑みを湛えた。グレイには見せられない顔で言う。


「ハナナ王国第一王女を娶り、現国王から王太子の称号を与えられた人物が、なにを今さらだ。大人しく国王になれ」


 前とすっかり変わった声で、諦めろと訴えてくる。もちろん、そうだなとはならない。


「待て待てー、まだ国王は父殿だぞ。もしだ、仮に俺が継ぐにしても、まだまだまーだまだ先の話しだぞ」


 答えているうちにユリウスは自信が深まったか。言い終わった時には、胸を張っていた。


 するとイザークは、気の毒だが、といった表情で告げてくる。


「残念だが、ユリウス。そうはならない」

「なにを言う。父殿はまだ元気だ。それに上手くいけば下半身の緩さで新たな男子誕生となるかもしれない。良かったぞ」


 勝手な未来予想図で得心しているが、会話相手は首を横へ振る。


「将来ではなく、現在、決定しなければならない」

「なんで、そう急ぐ。俺はバカ親父の辺境伯でさえ継げるような男でないぞ。せめてそうだな、もうちょっと政の勉強をしてからがいいように思うぞ」


 なんだかずいぶん真面目な考えに、「おおぅ」とヨシツネが、「へぇー」とベルが若干声の調子に問題はありつつも感心している。


 ちなみにイザークといえば、ざっくりだ。


「無理だろう。ユリウスが受講を必要とするような知識など、努力して得るとは考えられない」

「そうだ、確かにイザークの言う通りだ」


 否定しないどころか、全面的に受け入れている。ならばとヨシツネが「じゃ、王様、決定ですね」と言われれば、「でででも、どうなんだ」とユリウスは結論まで受容しない。


 ここはイザークが粘り強かった。強くならなければならないほど、事態は押し迫っているとも言えた。


「今回の戦いは帝国だけではない、賢國に対しても勝利した。開戦時には予想しなかった規模となった。つまり王国への侵攻を阻んだだけで収まらなくなっている」


 それはユリウスだけでなくヨシツネとベルもうなずくところだ。帝国だけでなく賢國も半数近くの騎兵を失っている。かつ亜人もこれまでとは違い、戦う意志を見せた。


 メギスティア大陸の勢力図が大きく変化していくことは、もはや必然とする様相を見せていた。


「我々は帝国の版図を引き受けなければならない。大陸最大の領土まで丸々治める手立てを講じなければならない」

「それならばバカ親父にやらせればいいと思うぞ。前の皇帝の時代から活躍しているからな。帝国民も納得だ」


 これ以上の結論はないとユリウスは自信満々だ。


 けれどもイザークが静かに告げてくる。


 帝国は、ロマニア帝国は滅ぼさなければいけない、と。 

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